コメント
0件
『ゴーン…ゴーン』
朝礼が終わり、子供達が慌ただしく廊下を行き来する中、大聖堂一帯に鐘の音が響き渡った。
ファイタリスは大きく息を吐く。
『…リサのやつ、いつも通りツンツンしてたなぁ、いつの間にか居なくなってたし』首の後ろで両手を組み、天井を仰ぐと同じく隣を歩いているヴディルカの横顔を覗き込む。
その顔は少し寂しそうに俯いていた。
『………。』
『……。』
(まるで妹に拒否られて落ち込む兄貴のようだな…)
『….ふむ。』
顎に手を乗せ、考えを巡らせる。ファイタリスとて無神経に突っかかる気などもうとうない。彼、ヴディルカとは物事ついた時から一緒に育ってきた仲だ。といっても年齢差はそれなりにある。ヴディルカの背丈は170センチは越えており青年と大人の雰囲気を醸し出す彼と並べば自分は遥かに子供だと分かる。血の繋がりこそ無いが、ヴディルカはファイタリスにとって兄と同様の存在なのだ。だから1番彼の扱いは分かっている。
『…つい….強く、…当たりすぎた…..。』
あぁ、と小さく嘆くとヴディルカは両手を頭に抱えガクリと肩を落とすとシュンと反省モードに入った。
ガクガクブルブルと身体が小刻みに震えている。
(いかん、これは重症だ)
ファイタリスは1本に纏められた長い髪を揺らしクネクネと身体を右へ左へと揺らす。まだ幼い少年の脳みそはフル回転され頭からは湯気が漂う。
『うーん…うーん?』
そして唯一いや何故だが導き出された答えがこれだった。
『リサの事、好きなのか?』
『……..。』
その言葉を聞いたヴディルカは一瞬固まったが、次の瞬間ファイタリスの頭を大きな手でめいいっぱい撫で始める。
『!?』
ファイタリスはやめろといわんばかりに抵抗するが少年と大人ではただじゃれているようにしか見えないだろう。ははは、と目に涙を浮かべるヴディルカはファイタリスの頭を優しく撫でる。
『ああ、そうだよ、俺はリサの事が好きだ。恋愛的な意味ではなくね。』
『ちがうのか?』『ああ、違う。』
ヴディルカはファイタリスの頭から手を離すとファイタリスの瞳を優しく見つめた。『あの子は昔からあんな風だった訳じゃないんだ。彼女は、リサは…毎日墓地の世話を欠かさない、とても心の優しい子なんだ。』
だけど、とヴディルカは付け加える。
『俺自信があの子を変えてしまったんだ。』
先程まで笑っていた彼は何処に行ったのだろうか、
その顔には感情が失われていた。