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車内。エンジン音だけが静かに流れる中、運転席の若井がハンドルを握り、後部座席では元貴と涼ちゃんが並んで座っていた。
涼ちゃんは、膝の上で自分の指をモジモジと弄り、視線を落としたまま。
何か言葉を探すように、小さなため息をつく。
沈黙を破るように、元貴が前を向いたまま若井に声をかけた。
「一旦、病院行って検査してみる?涼ちゃんだいぶしんどそうだし」
若井もうなずく。 「うん、それがいいと思うよ。念のために診てもらった方が安心できるし」
涼ちゃんは、小さく首を振りながら口を開く。
「そこまで……しなくていいよ。大丈夫だし、きっとすぐよくなるから」
けれども、元貴は涼ちゃんの肩に手を軽く置き、冗談っぽく優しい声でたしなめた。
「はいはい、涼ちゃんはおだまり、おだまり。今日は俺たちにお任せで――」
元貴の明るい声に、車内の空気がすこし柔らかくなる。
涼ちゃんはそのまま、申し訳なさそうに顔を伏せて頭を下げた。
「……ごめんね、2人とも」
若井と元貴は、何も言わずに優しい視線を涼ちゃんに送った。
車は病院へと、静かに進んでいった。