テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
かつて極彩色の彫刻が踊り、壮麗な威容を誇った王邸。その跡地には今、小ぶりながらも凛とした佇まいの邸宅が建っている。
かつての「王」と「剣士」は、今やこの慎ましき家を、自分たちだけの新たな聖域としていた。
「滉斗、起きて。……お散歩、行くんでしょ」
柔らかな朝陽が差し込む寝室で、元貴が枕元の住人を揺り動かす。
「ん……いいだろ、あと少し……」
「いいもん。僕一人で行っちゃうから。僕に何かあっても、知らないからね!」
その言葉が耳に届いた瞬間、滉斗の意識は瞬時に覚醒した。かつて戦場を凍らせた男が、今は愛する人の一言に、弾かれたように身を起こす。
「待て、それは無しだ。……すぐ着替える、待ってろ」
慌てて身を支度する滉斗の背中を見送り、元貴はふふっと喉を鳴らした。
二人はあの日から片時も離さなかった翡翠の守り袋を胸に、お揃いの翡翠色を差しした衣を纏って、慣れ親しんだ町へと歩み出した。
「今日は天気がいいね。日光が眩しいくらいだよ、ひろぱ」
空を見上げる元貴の横顔は、春の陽だまりのように穏やかだ。滉斗はその横顔を盗み見るように視線を送り、低く、熱を持った声で呟く。
「そうか? お前の方が、よっぽど眩しいがな」
「……そんなこと、ない……っ」
不意に投げられた真っ直ぐな言葉に、元貴の頬が翡翠の衣に映えるほど赤く染まる。
決戦を経て、滉斗の瞳に宿る氷は溶け去り、代わりに隠そうともしない情熱が滲むようになった。さらりと言ってのける愛の言葉に、元貴の心臓は今日も忙しなく跳ねる。
「これは若井の旦那! 今日も男前だね。いい大根が入ったんだ、一本持っていきな!」
八百屋の店主が威勢よく声を張り上げる。滉斗はいつものように面倒そうな顔をして受け取るが、その足が止まることはない。なぜなら、店主が差し出すのは決まって、元貴が好む瑞々しい旬の野菜であることを知っているからだ。
「いらっしゃい! 旦那に元貴様、今日も仲睦まじいこって。これ、刺身にしたら旨いぞ!」
続く魚屋では、獲れたての銀鱗が躍る魚が差し出される。元貴が柔らかな微笑みを浮かべて受け取ると、店主は「おまけだ」と言ってさらに獲物を追加した。
そのやり取りを横で見守る滉斗の眉間に、僅かな皺が寄る。
(……皆、元貴を気に入りすぎだ)
町中の人々が元貴に注ぐ親愛の情。それに微かな嫉妬を覚えながらも、元貴が嬉しそうにしているのならと、滉斗はその独占欲を喉の奥に飲み込む。
「ひろぱ、今日もおまけがついちゃったね。なんだか申し訳ないよ」
「……いいだろ。皆、お前が大切なんだ」
「また怒ってる? 顔が怖いよ。ほら、笑って!」
元貴の細い腕から荷物を奪うようにして抱え直し、滉斗は不器用なほど僅かに、その唇の端を緩めた。
両手いっぱいのお裾分け――それは、この町の人々が二人に贈る、目に見える愛の形。
二人は寄り添い、互いの体温を確かめ合いながら、夕餉の香りが待ち遠しい我が家へと帰っていくのだった。
NEXT♡500
目標高いけど、次の話を作る時間をください!