神奈川に戻って数日後、希望していた高校から連絡があった。
同系列の関東の高校でテストを受け、基準を満たせば二年生の夏休み明けに転校が可能だと。
藍里も勉強を頑張ってくれて、無事合格した。
それまでの間、私も必死に働いた。
神奈川の支店に戻ると、やはり愛知のほうが断然良いと感じた。
それでも、マイホームに戻ったような安心感もあって、次第に慣れていった。
愛知の支部長の言った通り、ここだけでなく、全店舗で人事改革や設備改装が始まっていた。
仕事の合間には、時雨くんとメールや電話で愛を育んだ。
——まぁ、仕事でも私は誰かの性対象であったり、恋人だったり、話し相手だったりする。
それは擬似恋愛的なもので、私も割り切ってやっている。
でも、時雨くんという優しくて素敵な人ができたことで、辛い仕事も乗り越えられるようになった。
そして、娘の夏休みと同時に愛知へ引っ越し、仕事の帰りに久しぶりに時雨くんと再会する。
待ち合わせは、最後に別れた駅で。
今日は雨。
頭はいつものように痛むが、不思議と、いつもほど憂鬱じゃない。
なぜだろう。
「さくらさん——!」
時雨くんの声。
電話越しではない、その生の声を聞くと、気持ちが昂ぶる。
彼は傘を持ち、ニコニコと雨の中を走ってくる。
私は傘を閉じて、彼のもとへ駆け寄った。
濡れてもいい。
すぐに彼の傘の下へ入り、抱きしめる。
人目も憚らず。
時雨くんも、しっかりと抱きしめ返してくれた。
雨の音も、傘に当たる雨粒の音も、傘から滴る雫も——
身体を伝う冷たい雨も、時雨くんの温もりがあるから平気。
雨も、悪くはない。
——少し、雨が好きになった。
終
コメント
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落ち着いた良い作品だと思います。