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「―はっ!」


ばッ。結子はベッドから飛び起きた。キョロキョロと周囲を見回している。

丁寧な事に結子自身の寝相が悪いお陰でぐちゃぐちゃだったシーツは整えられ、掛布団も掛けられていた様だ。

おそらく昨日死にかけていた結子を母が自室へ運んでくれたのだろう。現に母は疲れた様子で結子の近くの椅子に座り込み、座ったまま寝息を立てていた。ストレートだったはずの髪は乱れ、目の下にクマを作っている。

その痛々しい姿を見て、昨日の事件を思い出して来たらしい結子。少し慌てた様子で寝起き故にふらふらと扉に向かって行った。

母を見捨てて焼肉ハンバーグ丼の安否を確認しに行くのだろうか。まあ結子もそこまで外道では無いので、そんな事は無いとは思うが。

一階に来た結子は、真っ先にキッチンに行き、冷蔵庫の中のラップを掛けられた焼肉ハンバーグ丼を手に取った。

結子の身長からすると高めの位置に置いてあったので、少し苦戦しながらも取り出している。

レンチンした焼肉ハンバーグ丼をお茶碗に移し替え、お湯を沸かし湯吞みに注ぐと、それらをお盆に乗せて自室に戻った。

戻ってもまだ寝ている母の傍に、結子は白湯と焼肉ハンバーグ丼(小盛)が乗せられたお盆を置き、膝に薄い毛布を掛けた。

結子にも、多少の罪悪感や優しさはある様だ。ベッドに座り、ちゃっかり持って来たお茶と残りの焼肉ハンバーグ丼で一息着く結子。飯抜きだったとしても朝ご飯には少し重い。

母の寝息が響く穏やかな自室。結子も焼肉ハンバーグ丼を貪りながらリラックスしている様だ。こうなった経緯は全く穏やかな物では無いが。

「………………ん………」

そうこうしている内に母が起きた様だ。瞼を開き、結子の自室を見回した後結子や焼肉ハンバーグ丼を見て状況を理解出来た様だ。目覚め方が結子と全く同じなのは流石親子と言うべきか。

「おはよう!」

「おはよーう……くうゔゔ~…………はぁ……」

焼肉ハンバーグ丼を食べながら元気に挨拶してくる結子を見ても動揺した様子が無い。起きたばかりで余り頭が働かないのか、それとも慣れによる物なのか。美人にあるまじき声を発しながら背伸びをしている。椅子で寝たせいで体が固まっている様だ。

「ご飯あるよ!食べな!お代わり要る?」

「…………い、要らないわ………ありがとう……」

結子はキャラが変わる位には母の事を心配している様だ。母は結子の用意したご飯フルセットを見て口元をひくつかせた。因みに小盛というのは結子基準である。当然ながらお代わりは拒絶された。

母は早くも残った焼肉ハンバーグ丼を保存する事を視野に入れながらモソモソと朝ご飯(?)を食べ始めた。白湯を飲もうとして舌を火傷している。結子は後でからかってやろうと思った。

そう考えていた結子は、皿から箸と陶器とがぶつかり合う透き通った音が聞こえる事に気付いた。可笑しい。今は皿の奥を突いているはずなのに。結子は不思議に思ったが、まあそんな事は些事だ。お構いなしに焼肉を箸で探る。だが。

無い。


無い。


無い‼

不可解な事に、山程あるはずの焼肉おろかハンバーグ、米。その全てが無い。食べ物限定で結子はそれを見ずとも食器を伝いそれがどういう味か。どういう形なのか。どういう物を含んでいるのか。その全てが分かるのだ。

結子はヤケになって皿の底をかき回しまくった。耳障りな音がするが、そんな事はどうでも良い。母が顔を顰め文句を垂れてもそれをやり続け数分が経ってもどうでも良いのだ。

もう何周しただろうか。いや。心の何処かで分かっていた。分かっていたのだ。だが………………………。

結子は一つ。大きく深呼吸した。目を瞑り、ゆっくりと皿がある方向へ顔を近付けていく。ゆっくり、ゆっくりと。

来るべき時は来た。結子はカッと閉じた目を見開く。かき回していた皿の底。そこには。


見事につんつるてんな白い底があった。結子が箸でかき回しまくったせいで少し跡が付いてはいるが。米粒一つ見当たらない。勿論のこと、焼肉ハンバーグ丼も。

分かっていた。分かってはいたが。いたのだが。

「わァ……………ぁ………」

「泣いちゃった‼」

結子はちい○わになった。

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