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「……少しくらい意地悪したっていいと思いませんか?」

そう言って吐息を落とした宗親むねちかさんは、とってもとっても〝子供っぽい〟と思いました。


その上、


「やん。宗親しゃ、可愛い」


思わずそうつぶやかずにはいられないほど私、キュン♡ってさせられちゃったの。



宗親さんがゴネまくってほたるの家に行きたがったのってきっと、さっきみたいな(?)に備えて明智あけちさんに対する切り札が欲しかったんだろうな、と思って。


腹黒策士のくせに動機がお子ちゃまだなぁと思った私は、思わず宗親さんの頭を「よしよし」しちゃってた。



大丈夫らいじょぶですよー、何も心配いりましぇんからね〜」


撫で撫でしながらニコッと笑ったら、「春凪はながそれを言うんですか?」と苦笑されてしまう。


確かに宗親さんの不安の原因が慰めるのはおかしかったですかね⁉︎

でも、〝諸悪の根源〟は言い過ぎだと思うのです!



***



「ほたる〜、ありがとぉーね。すっごくたしゅかったぁ〜」


ほたるのところに寄って、借りていた傘と合鍵を返して。


鞄は故あって宗親むねちかさんがほたるに手渡して下さったんだけど――。




「夜分に突然お邪魔して申し訳ありません。どうしても直接お会いしてお礼が言いたかったものですから」


言って、宗親むねちかさんは、私がほたるに借りていた鞄を差し出した。


春凪はなが大変お世話になりました。僭越せんえつながら、お借りしたお金のほうも、中に戻させていただいております」


宗親さんに耳元で言われて、間近でニコッと微笑まれたほたるが、カチンコチンになって「はっ。恐悦至極。有り難き幸せにございます!」と訳の分からないことを言うのを見て、何となくムッとしてしまった。


「宗親さ……っ! 近いれす!」


グイッと宗親さんの腕を引っ張ってほたるから遠ざけたら、嬉しそうに「すみません、春凪はな」と謝られて余計に悔しくなる。



そこで明智あけちさんに言われたことを思い出した私は、半ば腹いせみたいに


「ほたるぅ、今度Misokaミソカに飲みに行って色々ゆっくり話そっ⁉︎ 服も……その時に返しゅんでいい?」


とほたるに問いかけた。



「もちろん。アタシもめっちゃ聞きたいことあるし、近いうちに声かけてね」


Misokaミソカのマスター、サービスしてくれるって言ってし、楽しみにしててー」


ほたるにそんな返事をして、してやったりと言う気持ちで宗親さんを見上げたら、不機嫌そうなお顔になっていて嬉しくなる。


(ふふん。意趣返しですよぉ〜だっ!)


心の中であかんべをして、私たちはほたるの家を後にした。



***



春凪はな、キミを捕まえたときからずっと気になっていたんですけどね……」


家に帰って玄関扉が閉まるなり、宗親むねちかさんがそうつぶやいて。


私の左手をギュッと握って口付けてくる。


「ひゃっ」


いきなりそんなことをされるとは思っていなかった私は、思わず手を引っ込めようとして。

思いのほか強く絡められた宗親さんの手指にそれを阻まれる。


「あ、あのっ」


足利あしかがくんのマンションの前で立ち話をして。Misokaミソカに行って。ほたるの家に寄って。


さすがにもうすっかり酔いも覚めてきた私は、言葉遣いもほとんどマトモに戻っていた。


「い、いきなり何ですかっ? 宗親さっ、家に帰ったら嘘ついた理由、教えてくださるんじゃなったんですか?」


あっ。

い、今の「きゃ」は舌を噛んじゃっただけで、別に呂律ろれつが回らなくて、とかじゃありませんっ!

信じてくださいっ!


手を離してもらえないことに不安を覚えながら問いかけたら、宗親さんが小さく吐息を落として。


「とりあえずリビングに行きましょうか」


って、それ、私のセリフですからね⁉︎



結局ギュッと握られたままの左手を引かれ、私はリビングにされる。


そうして、宗親さんの丹精なお顔をソワソワと見詰めながら彼の言葉を待った。


「――まず、……最初に聞かせて下さい春凪はな


手を離してもらえないままにあごの下に手を添えられて上向かされた私は、否応なく宗親さんと視線を合わせられる。


おかしいですっ。

怒っていたのは私で、宗親さんは私に謝罪なさるために追いかけていらしたんじゃなかったですかねっ⁉︎


現状だとまるっきり私の方が立場が下に見えるんですが気のせいでしょうか?


ソワソワと大好きな宗親さんのお顔を見詰めながら不安に瞳を揺らせたら、すぐ間近、宗親さんに低音イケボで問い掛けられた。


春凪はな、キミは僕のことが好きですか?」


と――。


そういえば宗親さんからは「好き」って言われたけれど、私からはちゃんとお返ししていない気がします。


もう、私の気持ち、隠さなくてもいいんだよね?

ちゃんと宗親さんにこの想いをぶつけてもいいんだよね?


私は期待と羞恥しゅうちに瞳を潤ませながら、初めて宗親さんに本心を吐き出した。


「……好きです! 宗親さんが大好きです! そのお顔もお声も、掴みどころのない性格も……。何もかもが大好きですっ!」


胸の内に秘めて押し殺して、押し潰してギュウギュウに締め付けて……。

絶対に表に出してはいけない感情だと思っていたのに。


私、ちゃんと愛する人に「好き」って伝えられたよ?


これって凄く幸せなことじゃない?


そう思ったからかな。


自然と涙がポロポロ溢れて止められなくなって――。


「宗親さ、のことっ。どうし、よぉ……もな、く……大、好き……な、んです……。やっと……気、持ち……ちゃんと、伝、えら、れましたぁ〜っ!」


私は宗親さんにギューッと抱きしめられながら、私は子供みたいに声を上げて泣いた。



***



春凪はな、聞いて?」


私がひとしきり泣いて。

ヒックヒックとしゃくり上げながらも大分涙が落ち着いてきた頃――。

ずっと私を抱きしめて優しく頭を撫で続けてくれていた宗親むねちかさんが、静かな声音でそう問いかけてきた。


グシュグシュ言いながらも宗親さんの胸元からちょっとだけ離れて顔を上げたら、そっと目元に残る水滴を拭い取ってくれて宗親さんが微笑んだ。


宗親さんの胸元、私の涙や鼻水やファンデーションですっごく汚れてしまってる。


そんななんだもん。私、いま、どうしようもなく汚いお顔になってる自信がある。


何だか申し訳ない上にすっごく恥ずかしいって思うのに、そんなの全然気にした風もなく宗親さんは愛し気に私を見つめてくるから。


私、本当に宗親さんに愛されるんだって胸の奥がギュッて痛くなるぐらい切なくうずいた。


宗親さんに、吸い込まれそうに澄んだ瞳で見下ろされた私は、大好きな彼の視線から目がそらせなくなった。


「今から、婚姻届を一緒に出しに行きませんか?」


そっとうかがうように問いかけられた言葉に、私は一瞬理解が追いつかなくて「へ?」と間の抜けた声を出してしまう。


「――あのっ、今日は……大安ですか?」


そうして次に出たのは自分でも情けなくなるぐらいどうでもいい言葉で。


宗親さんに「さて、どうでしょう? 確認してみないと分かりません」って小首を傾げられてしまう。


前に婚姻届を提出するに当たって、何か希望はありますか?って宗親さんに問いかけられた時、とりあえず「大安がいいです」って……。

大してお日柄にこだわりもないくせに言ったことを思い出した私だったけれど、今回、宗親さんの動機はそこじゃないみたい。


前に、宗親さんが婚姻届を提出なさったと嘘をついていらしたときは、「今日は大安だったので」っておっしゃったけれど、今日はそういうわけではない……?


だったら何が理由なの?

何だか訳が分からなくて、私は戸惑ってしまう。


そもそも出したと嘘をついていた理由も、まだ話してくださっていないのに……。


あやふやなままにされるのは嫌だって思ってしまった。



「……嫌、です……」


小さくポツンとこぼしたら、宗親さん、断られるなんて思っていらっしゃらなかったのかな? 「え?」って驚いた声を出すの。


「私、まだ宗親さんから、嘘をついた〝理由〟も、何でそうしなきゃいけなかったのかっていう〝弁解〟も、お聞きしていません。――だから、嫌です」


グスグス鼻をすすりながら言ったら、宗親さんが「あぁ、そうでしたね」ってつぶやいて、「キミに好きだって言ってもらえたことが嬉しくてつい……」と心底申し訳なさそうに眉根を寄せて微笑んだ。


いつもの自信に満ち溢れた腹黒い笑顔もカッコ良くて大好きだけれど、こんな風に表情豊かに笑う宗親さんの方が何万倍も何億倍も大好き。


そう思ってしまう。



「ちょっと……座りましょうか」


間近に立っていたら、二〇センチ以上の身長差のせいで、私はかなり首を上向けた姿勢になる。


それが辛そうだと思われたのかな。


宗親さんに促されて、私はすぐそばのソファーに座らされる。


そのまま横に腰掛けると思っていた宗親さんは、でもソファーには腰掛けずに私の前にひざまずくように腰を落とした。

好みの彼に弱みを握られていますっ!

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