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「佳奈さん、どこに行くの?」 お昼休み、お弁当を持って教室を出ようとする私に、マヤちゃんが首を傾げながら、声をかけてくる。
お弁当はどこで食べてもいいけど、教室で食べるのが普通。お嬢様ともなれば、教室でしか食べた事がないんだろう。
「屋上で、お弁当を食べるんです。友達とも約束していて」
今日は、さやかちゃんと一緒に食べる予定だ。ちなみに、このみちゃんは中庭のベンチで、朝倉くんと一緒に、という、実にギャルゲー的青春イベントを敢行中である。
「屋上で……、お弁当を?」
マヤちゃんは、またも首を傾げて、眉根を寄せてる。
きっと、学校の屋上で食事という発想自体が、無かったのだろう。
「結構いいものですよ。公園みたいに木々はありませんが、満天下でご飯というのは」
私がそう言うと、マヤちゃんの目に輝きが灯った。
外で食事をする事の優位性を、自分の体験と結び受けられたらしく、納得したようだ。
「それ、とっても素敵ね! ねえ、私もご一緒していい?」
「ええ、もちろん。友達にも紹介しますね」
私は、マヤちゃんを連れて屋上へと向かった。
屋上に出ると、ちょうど地面に正座している、さやかちゃんの姿が目に入った。
「橘さん、お待たせ……してはないようですね」
「そ、今さっき来た所」
さやかちゃんは、ニコニコ笑顔で返事を返してきた。
ロリィタ姿のオドオドとした姿もカワイイけど、やっぱり、さやかちゃんは一本気で快活な姿が似合う。
「佐伯さん、そっちの娘は?」
真っ直ぐな人だから、こういう時も、率直に聞いてくる。うん、やはりこれが似合う。
「今日、転校してきた伊集院マヤさんです」
私が手でマヤちゃんを指し示すと、マヤちゃんはあの、日本舞踊的なお辞儀をしながら挨拶をした。
「伊集院マヤと言います、本日よりこの学校に転校してきました。よろしくお願いいたします」
その丁寧な所作に、さやかちゃんは、ぎょっとした後、ドギマギしながら挨拶を返した。……両拳を地面に突いて、深々と頭を下げて。
「た……橘さやか。こちらこそよろしく」
お嬢様すぎるお嬢様を見て、思考が止まったさやかちゃんは、自分が何をしたのか分かってない感じだった。
空手の座礼は、手を広げていれば敵意は無さを示して、拳を握っているのは油断しないって意味(って、さやかちゃんのステータスに書いてあった)らしいけど、それは言わないでおこう。
頭を上げたさやかちゃんは、ぽやぽやした視線を、マヤちゃんに向けている。
あ、これ、ロリィタショップに入った時と同じ目だ。さてはマヤちゃんのことを、カワイイ物のカテゴリに入れたな。
「マヤさんも、ご一緒させて貰っても、構いませんか?」
「あ……、うん、もちろん!」
私が言うと、さやかちゃんは我に帰って勢い、笑顔で元気に返事をした。
ああ良かった、あのまま夢見心地で居られたら、様子のおかしい友達と、知り合って数時間の友達両方の世話をする羽目になる所だった。
まあでも、気持ちは分かるよさやかちゃん。マヤちゃんカワイイもん。
「私達も、座りましょうか」
「うん」
私達はコンクリートの上に座る。マヤちゃんはお行儀良く、お尻の下にハンカチを敷いて座った。
「佳奈さんも、橘さんも、いつも空の下でお食事をなさってるの?」
「まあ、いつもでは無いです。それぞれ都合もありますし」
私と違って、空手仲間も含めて友達が多いさやかちゃんは、お昼の約束が入っている事も多い。
じゃあなんで、服を選ぶのに私が呼ばれたのかと言うと……………、本当になんで?まあいいや、あの一件のおかげで、仲良くなれたんだし。
このみちゃんもこのみちゃんで、朝倉くんにくっついていったり、中庭で本など読みながら、一人で食べてる事もある。
「私と橘さんの他に、小鳥遊このみさんという方も、ご一緒する事が多いですよ」
「小鳥遊さんというのは、どんな方?」
マヤちゃんが、子犬みたいに首を傾げながら聞くと、さやかちゃんはお弁当の蓋を開けながら、簡潔に答えた。
「小鳥遊さんは、三つ編みに眼鏡で、文学部。これだけ聞くと、カタそうな女の子みたいだけど、突拍子も無い事したりする、すっごく面白い娘」
「面白い娘……」
「アタシなんてこの前、ロリィタドレス着せられたよ」
さやかちゃんは、照れくさそうにはにかんで、頬を掻く。
「ちなみに、とても似合ってましたよ」
すかさず、さやかちゃんがもっと恥じらいそうな、それでいて褒めてる、私の感想を付け足す。
「その話はいいの!」
ペシっとツッコミを入れながら、さやかちゃんは、恥ずかしそうな表情で笑う。
ああ、凛としたさやかちゃんもいいけど、フニャフニャのさやかちゃんもいいなぁ、かわいい。
ツッコミとはいえ、武道家のはたきなのでそこそこ痛かったけど、それは顔に出さないようにした。
「マヤは……あんな服、着たこと無いし、出来れば着たくないです………」
マヤちゃんは、ロリィタファッションに対する、嫌悪感を隠さない。
ロリ扱いされるのが嫌い的な事が、ステータスに書いてあったから、ロリィタファッションなんて、以ての外だろうなぁ。
もしかしたら、ロリィタという言葉自体が嫌いなのかも。
「マヤさんは、ロリィタがお好みではないですか。まあ、人を選ぶ物ではありますからね」
シュメール
126
#日記
QuartoMew
1,350
「アタシには無理矢理着せといて〜〜〜」
さやかちゃんは、口を尖らせ、ジト目で睨んでくる。本気で怒っているわけではないと、分かるように、からかいの成分が7割くらい含まれている、そんな顔だ。
「ロリィタで飾られた自分を見て、大喜びでレンタルを決めたのは、橘さん御自身でしょうに」
「うっ……それはそう」
私も、からかい半分で揶揄うと、さやかちゃんは、バツの悪そうな顔をした。
マヤちゃんは、話には入れないけど、私達の様子を見て、うふふと上品に笑っている。
「お二人は、とても仲が良いのですね。いえ、その小鳥遊このみさんとも、仲が良いのでしょうね」
「ええ、仲良くさせていただいてます」
マヤちゃんは、ずっとニコニコしている。と思ったら、頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、小首を傾げた。
「今日、小鳥遊さんが一緒じゃないのは、何か理由が?」
「ああ、今日は朝倉君と一緒に食べると仰ってました」
「朝倉君?」
「同じクラスの、朝倉翔太君ですよ。ほら、朝にぶつかったあの男の子ですよ」
そう言うと、これまで穏やかな、まるで春の陽光のような笑顔だったマヤちゃんの顔が、みるみる険しくなっていく。
「あの時の当たり屋!」
今!?
今なの、そのイベント!?
教室で対面した時じゃなくて、今なの!?
「あ……当たり屋ではないと思いますよ……多分……」
一応フォローしてみるが、マヤちゃんに届いてる様子は無い。
頭から湯気を立てて、ぷんすこ怒ってる。
「後で、絶対文句を言ってやるの!」
「程々にお願いしますね……」
一応、たしなめておきはするけど、この様子じゃ止まらないだろうなぁ。というか、そういうイベントだよねコレ。
結局、ほっとくしかないか。一応、様子だけは見に行っとこう。
ちなみに、さやかちゃんは、朝倉くんLOVEな自分の気持ちと、怒る気持ちも分かるマヤちゃんの気持ちの間で、複雑な感情を抱いているらしく、眉毛を八の字に歪ませていた。