砂浜は知っている場所だ。
走りながら不思議な感覚にとらわれていた。
自分に張り付いていた堅い殻がバラバラと剥がれ落ちて、代わりに水が染み込んで身体が軽く瑞々しくなるような、そんな感覚。
前が見えにくいほどの頭痛も、その感覚と共にいつの間にか消えてすっかり楽になっていた。
ギリギリあった電車に飛び乗り、砂浜に降り立つ。
カップルがまばらに歩く中、テトラポットに座る人影に迷わず近づいた。
🖤「阿部ちゃん」
人影、もとい阿部ちゃんはびっくりして俺を見た。
💚「なんで…」
隣に行き、ぎゅっと抱きしめる。
俺が阿部ちゃんの事を忘れてしまってから、身体で触れ合うのは初めてだった。
🖤「ここにいる気がした」
💚「どうして?」
🖤「俺が阿部ちゃんに告白した場所だから、辛い時はここに来るって言ってた」
そう、ここは俺たちの特別な関係が始まった場所。
そして、俺の口からこの場所に来た理由を聞いた阿部ちゃんはそっと俺を抱き返しながら声を震わせた。
💚「俺、それ……教えてない」
🖤「うん」
一度身体を離して真っ直ぐ見つめ
🖤「ちゃんと、思い出したから」
そう言ってまた抱きしめた。
🖤「ずっと1人ぼっちにして、ごめんね」
💚「ほんとに?本当に思い出したの?俺のこと……」
🖤「うん。俺の大切な人」
阿部ちゃんは俺の腕の中で、良かった、良かったと繰り返していたけどそのうち声にならなくなった。
コメント
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良かったっす🥹