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賢治は菜月との縁談に乗り気では無かった。父親である四島しじま工業株式会社社長、四島忠信しじまただのぶたっての願いで、致し方なく見合いの席に着いた。
「初めまして綾野菜月です」
「四島賢治です」
ところが、菜月は申し分なく美しい女性だった。賢治は一目で惹かれたが、その純真無垢さに手を握る事さえ憚はばかられた。しかも菜月は言葉少なく結納を終える頃には興醒めし、賢治は四島工業の女子社員と寄りを戻し愚行に走った。
(人形みたいな女だな、美希みきとは比べものにならないな)
美希とは賢治が過去に付き合っていた女性社員で吉田 美希よしだみきといった。美希とのセックスは奔放で、激しい快楽を伴った。それに比べ、菜月との新婚旅行は最悪だった。菜月はベッドの中で微動だにせず、事後に聞けば処女だと言った。賢治はそれを重荷に感じた。
(なんも楽しめねぇな)
賢治は美希を性欲の吐口にしたが、アルファードの後部座席での行為もマンネリで飽きが来ていた。そんな折、母校である高等学校の同窓会のハガキが届いた。
普段ならばゴミ箱行きだが何気なく裏返して見た。幹事の名前を二度見した。
(幹事 如月倫子、倫子だ)
高校一年生の夏に賢治が一目惚れをして告白した。
「ねぇ、賢治くん・・・行こ?」
「なに、良いの?」
「うん、賢治くんなら良い」
付き合って間も無く倫子に誘われ初めてラブホテルに入った。賢治も倫子もセックスは初体験で、初めはぎこちなかったが小遣いを貯めてホテルに通った。けれど倫子には嫉妬深い一面があり、賢治と距離が近いクラスメイトの女子に執拗な嫌がらせをして問題になった。
その女生徒は登校拒否になり転校する事になった。その時の倫子の勝ち誇った表情に怖気おぞけを感じた賢治は高等学校卒業を機に別れ話を切り出した。
「もう別れよう」
「どうして!?」
「おまえが怖いんだ」
「私の何処が怖いの!」
「自分でよく考えろ」
それはあまりに一方的な別れで、納得が出来なかった倫子は自宅周辺を徘徊したり、大学の校門で待ち伏せした。
「なに、何か用でもあった?」
「相談したい事があるの」
賢治と倫子はなし崩しに性行為に耽るだけの関係になった。だが、大学の友人から倫子が姉の恋人を誘惑し殺傷沙汰になったので注意しろと忠告され、それを理由にセックスフレンドの関係を解消した。
「もう駄目なの?」
「おまえ、姉ちゃんの男と寝たんだろ?」
「・・・・それは、誘われて」
「誘われたら誰でも寝るのか、もう別れよう」
この時は流石に倫子も納得し、二人は疎遠になった。三十歳を過ぎる頃には連絡も途絶えがちになり風の噂では姉の恋人と結婚したと聞いた。
(倫子が、幹事)
賢治は迷わずに出席に丸を付け、往復ハガキを急いで郵便ポストに投函した。同窓会当日は一番仕立ての良い黒いスーツに絹のネクタイを締めて出掛けた。
「菜月、今夜は遅くなる」
「同窓会だよね?」
「あぁ、先に寝てろ」
「分かった、お酒飲みすぎないでね」
「そのままホテルに泊まるかもしれない」
「分かった」
同窓会会場に足を踏みれた賢治はその姿に見惚れた。生活感に塗れた主婦たちの中で倫子は35歳の妖艶な色香を漂わせていた。
(相変わらずそそるな)
黒いノースリーブのタイトな膝丈ワンピース、シースルーの黒いストッキングに黒いピンヒールを履いていた。
(良いじゃねぇか)
艶めく黒髪、色白の面立ちに切長の奥二重、深紅の口紅、形の良い胸の谷間にはパールのロングネックレスが揺れていた。
「四島しじまくん、久しぶり」
「いや、今は綾野だよ」
「あぁ、そうだったわね。」
倫子は高校時代の甘い記憶を掘り返し、旧姓で賢治の名前を呼んだ。二人の視線が絡む。着座した丸テーブルでは隣に座った。テーブルクロスの下で互いの脚を擦り合わせ、倫子の手は賢治の太ももをいやらしい手付きで撫でた。賢治の股間は熱を持った。
「倫子、上に部屋を取ってあるんだ」
「準備万端ね」
「当たり前だろう、この為に同窓会の幹事になったんじゃないか?」
「お見通しね」
賢治と倫子は十数年ぶりに肉体関係を持った。それは人形のような妻を抱いているよりも興奮し無我夢中で腰を前後させた。
「倫子!倫子!」
「あ、あ!」
「倫子っ!」
倫子の身体は悦びに震え、賢治の全てを受け止めた。それ以降、賢治と倫子は金曜日の晩になると、ニューグランドホテルの2018号室で痴態に身を任せた。