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シャーリィ達暁一派が帝都で暴れまわり、そして離脱を図っている頃。シェルドハーフェンでも動きがあった。場所は広大な穀倉地帯に面する区画、十四番街である。この辺り一帯は所謂違法薬物の取引が最も盛んな場所であるが、他の区域のように支配者足り得る大勢力は存在しない。中小規模の様々なマフィアやカルテルがしのぎを削る群雄割拠の様相を呈している。
そんな中で比較的新興の勢力でありながら着々と地盤を固めてじわじわと勢力を拡大しつつある組織が存在する。その名もトライデント・ファミリー。首領であるドン・ベネットは、かつてそれなりの規模のマフィア組織に属していたが内紛により内部分裂した組織から独立した男であり、自身がそれなりの名門出身であることを自慢とする以外に取り柄の無い小物である。少なくとも、組織を急拡大させるだけの力量は持ち合わせていない。
ではなぜトライデント・ファミリーは着々と地盤を固めているのか。それは、ドン・ベネットが気紛れで拾った幹部マルコ=テッサリアの存在が大きい。
マルコ自身も暗黒街での抗争に身を投じてきた強者であるが、同時に広い視野を持つ切れ者であった。彼はドン・ベネットを説得して弱小組織であったトライデント・ファミリーの大々的な改革を断行し、渋る幹部会から多額の資金を抽出して組織の武装化に投入。近代装備を有したトライデント・ファミリーは当時敵対していた組織との抗争を優位に進め、最終的には壊滅させることに成功。支配地域の拡大に成功した。
思わぬ大勝利に狂喜乱舞して獲得した資金等の財産を湯水のように使おうとしていた幹部会を黙らせ、これらを用いて設備投資を行いつつ人員を増強する。シェルドハーフェンは荒くれ者、職に溢れた浮浪者、訳あって身を隠している者が溢れている。資金さえあれば人員の補充は容易なのだ。
これにより組織の更なる強化を図ったマルコは、新たに縄張りが隣接した小規模組織を恫喝。その組織を吸収して更に組織を拡大すると、当時トライデント・ファミリーが属する地区の顔役であった中規模のカルテル集団に対して宣戦布告。カルテル幹部の集会を襲撃し、瞬時に上層部をほとんど壊滅状態へ追い込み組織そのものを完全に壊滅させるまで徹底的な殲滅戦を展開、ほぼ根絶やしにしてしまう。
これまで十四番街では群雄割拠と言いつつ勢力の均衡が図られていた。これは外部勢力の侵入を防ぐためであり、抗争でも相手を壊滅させるようなことはほとんど無かった。
そんな中、トライデント・ファミリーが示した容赦の無さは周辺の勢力に強い恐怖と危機感を与えた。もちろんそれがマルコの狙いであった。カルテルを壊滅させて更に勢力を拡大したトライデント・ファミリーに対して他の勢力は対応が遅れ、それはすなわちマルコに組織内側を固めるための時間を与えたことを意味していた。
私腹を肥やすことしか頭の無い幹部会にうんざりしつつもドン・ベネットの後援を受けて組織の引き締めを行う。新しい構成員達に気前の良さを見せつけ、厳しい規範を設けて遵守出来る者を引き立てることで軍隊のような性質を持たせつつあった。
しかし、出る杭は打たれるの謂れ通り急拡大したトライデント・ファミリーを敵視する勢力は数多い。ここでマルコ=テッサリアは賭けに出る。同じ新興勢力でありながら、自らの町まで建設した暁を後ろ楯とすることである。
当然ながら外部勢力に後ろ楯を頼むのは十四番街の流儀に反する。幹部会は猛烈に反対し、埒が明かないと判断したマルコはドン・ベネットへ直訴することにした。
「ファーザー!この取引は俺たちにとって大事なことなんだ!」
「だがなぁ、余所者の手を借りるなんて前代未聞だ。他の幹部達も反対しているだろう」
「自分の懐を暖めるしか頭に無い連中の事は無視してくれ!なあ、ファーザー。こんなもので満足されたら困るんだ。確かに俺たちはこの辺りの地区を抑えたが、十四番街全体から見ればカスみたいなもんさ。俺たちはまだまだ上へ登れるんだ!」
「その為に余所者の手を借りると?しかも相手は小娘だって話じゃねぇか」
渋るドン・ベネットに対して、マルコはテーブルに小袋を叩きつけた。
「金貨百枚だ」
「金貨百枚だと!?そんな大金どうしたんだ!?」
「暁の代表からさ。初対面の俺に投資としてこれだけの大金を顔色変えずに渡してきたんだ。ただの小娘が出きるようなことじゃない」
「投資だと!?初対面で!?」
「残念だが俺達の商売には興味がないみたいでな、暁勢力下で商売をしないことを条件に後ろ楯になってくれる。
なあ、悪い話じゃねぇだろ?少なくとも代表は十四番街に手を出すつもりは無いんだ。群雄割拠より一つの組織に纏められている方が色々とやり易いと考えてるのさ」
「取り敢えず半分使って派手な祝勝会を開くぞ!まだ祝いも済ませてないだろ!」
「折角の投資を遊びに使うつもりかよ!?」
「そうじゃねぇよ!お前のお陰で組織もデカくなったんだ。ここらで派手なパーティーでも開かねぇと示しがつかねぇ。それに、他の奴らもパーティーを開けばお前に一目置くのは間違いないぜ?」
既に大金に目を眩ませているボスをみてマルコは内心ため息を吐いた。拾って貰った恩義はあるし、その恩返しのために組織を拡大していくため日々尽力しているが、幹部会やボスに先見性は皆無と言える。目先の大金と享楽に目移りしているのだ。
とは言え、裏社会では親の言うことに従うのは大前提。幹部会への根回しのために必要な経費と諦めたマルコは金貨五十枚で派手なパーティーを開きドン・ベネットや幹部達の虚栄心を満足させるしかなかった。
だが。
「残り半分の使い道についてはなにも言われなかったからな、好きに使わせて貰う」
残された金貨五十枚(五千万円相当)でマルコは新たな銃を買い集めることにした。
それはかつて暁と敵対したリンドバーグ・ファミリーが集めていたレバーアクションライフルであり、ボルトアクションライフルに比べて安価であり組織の壊滅によってかなりの数が流れていたこともあって容易に買い集めることが出来た。更に銃弾は暁が格安で融通してくれたこともあり装備の充実を図ることが出来た。
「先ずは十四番街の制覇。俺達が役立つと知れば暁と対等の関係を作るのも難しくはない。あのお嬢さんは必ずシェルドハーフェンを制覇する。その時に、俺も食い込めるように立ち回らねぇとな」
マルコ=テッサリアの野望は今ここに始まる。