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ya×et
エストリア魔法学院――天空に浮かぶ魔法師養成の名門校。その中庭に、火花が散る。
「はぁ!? またアンタが一位!? どーせまた“運がよかった”とか、適当にやったとか言うんでしょ!」
憤る少女・*et*の髪は橙色に燃え、目もまた太陽のようにまっすぐだ。
「etさんがそう思いたいなら、別に……でも、実力だよ」
涼しい顔で答えるのは、月の魔法使い、ya。星のような瞳が、じっと見つめている。
「チッ、またそれかよ……」
太陽と月。昼と夜。
交わることのない存在――のはずだった。
◆
その日、私は一人、学院裏の森へ入っていた。次の実技試験に備えた特訓のためだ。
「こんなところで負けてられないし! あいつに、実力で勝つって決めたんだから!」
でも――
突然、地面がうねり、黒い影が姿を現した。
森の奥に封印されていた魔物「シャドウクロウ」。封印が緩み、動き出していたのだ。
「なっ……!? なんでここに……くっ!」
火球を放つが、魔物は霧のようにそれをかわし、飛びかかる。
炎が、追いつかない。
牙が、目の前に迫る。
「……やめろっての。etさんに傷一つつけるな」
――瞬間、夜が落ちた。
空が、真昼にもかかわらず淡く暗くなり、月が現れる。
まるで、そこだけが別世界のように。
静かに立っていたのは、ya。
その手に掲げられたのは銀色の魔杖。周囲に、星の粒子が舞う。
「《ルーナ・ヴェイル》――月光結界」
シャドウクロウが突進する。だが、星の光がそれを包み、動きを止めた。
そして。
「《星刃・セレノス》」
淡い光が閃き、魔物が音もなく消えていった。
残された静寂の中、私は膝をつき、yaを見上げた。
いつも冷たく見えてたその横顔が――
今は、少しだけ頼もしく見えた。
「……なんで、ここにいたの」
「……たまたま、夜空を見たくなっただけ。etさんが森に入っていくのが見えたから、つい、ね」
「ふーん……便利な偶然」
「うん。便利で、ずるい偶然」
yaは、小さく笑った。
いつも冷静なその顔が、少しだけ崩れた。
「etさんが…….誰にも負けたくないって言う顔、何度も見てきたから。
だけど俺は、もうとっくに――君には勝てないんだよ」
「え……?」
「何でもない。ただの、月のひとりごと」
照れも怒りもないyaの言葉に、なぜか頬が熱くなるのを感じた。
「……でもまあ、一応。助けてくれて、ありがと」
「その一言が、聞きたかった」
光が戻る。
昼の空に、太陽が昇り直した。
――その下で、月と太陽は並んで歩き出す。
まるで、ほんの一瞬だけ交わった、日食のように。
コメント
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この回は続編があります!こちらが前編、次が後編になっておりますので、もしよかったら次の回も見てもらえればなっと思っております!