PM22時‥。
合宿も終わり‥1人帰宅する。シーンと静まり返る部屋を見渡すと‥昼間の喧騒が嘘のように思えてならない。
いつものように着替えをすませ、リビングのテーブルに外した指輪を無造作に置く‥。
そして‥
携帯を取り出し‥ある人に電話をかける。
プルルルルル‥‥‥‥。
「もしもし?珍しいわね‥貴方からかけてくるなんて‥どういう風の吹き回しかしら?‥ふふふ」
「パートナーだから、電話ぐらいかけるよ」
「貴方からパートナーって聞くとは思わなかったわ」
携帯越しに彼女がくすくすと笑う声が聞こえる。
「事実、君は俺のパートナーだろ?」
「ふふ‥まぁ、そうね‥ところで、合宿は今日までだったのよね?‥また近い内にそっちに行くから‥」
「こっちに?」
「当たり前でしょ!結婚してるのに、いつまでも離れていたら‥可笑しいじゃない」
「‥そうだね‥」
「ところで用事は?何かあったんじゃなくて?」
「‥合宿の時、こっちに来てたんだってね‥」
「‥あら、バレちゃったのね‥もしかして、彼が喋ったのかしら‥だめね、貴方には話さないでと言っておいたのに‥子猫ちゃんったら‥」
無理だったみたいね‥そう言いながら彼女が笑う。
「藍に‥彼に、その言いはや めてくれないかな‥酷く傷付いてた‥」
「あら‥ごめんなさい。あまりにも彼が寂しそうな顔してたから‥貴方の事をとても気にかけていたし‥ 」
「‥‥もう、彼には別の人がいるんだ。だから‥関わらないで欲しい‥」
「他の人?本当に?」
怪訝そうな彼女の声。
「そんな感じには見えなかったけど‥貴方はいいの?」
「‥俺には言う資格はないよ‥」
「‥彼を守る為に私と結婚したようなものなのにね‥その事‥彼には話したの?」
「いや‥藍には話さない。これからも‥。俺といるよりも離れてる方が幸せだと思う‥」
俺といると泣かせてばかりだった‥。
分かっていた。
なのに‥
顔を見ると‥求めてしまう。
藍‥‥
合宿で涙を流していたお前を‥
俺はきっと一生忘れないだろう‥。
幸せにしてあげられなくてごめん‥
こんな俺でごめん‥
‥話し終えると携帯を置き‥ドサッとソファーに座り込む‥。
テーブルには先程置いた指輪があるだけだった‥。
契約の指輪‥
偽りの愛を示す指輪‥
今の俺にはお似合いなのかもな‥
自嘲気味に笑い、目を閉じる‥
記憶の中の彼を思い出しながら‥
藍Side
合宿から数週間後‥
あれから祐希さんとは連絡も取っていない‥別れてからも元々取っていなかったのだから‥元に戻っただけなのだが‥
シャワーを終え‥寝室に戻ると閉まっていたはずの指輪が机の上に置いてあることに気付いた‥
ここに置いただろうか‥
祐希さんにもらった指輪‥
今だに捨てることが出来ずにいた指輪‥
手のひらで転がすと、キラリと輝き‥祐希さんから貰った日の事を思い出す‥
あのときは幸せだった‥そんな事を思っていたら‥
ガチャ‥。
「藍?シャワー、ありがと!」
急に寝室の扉が開く音で、慌てて指輪を握りしめる。
振り返ると‥
タオルで頭を拭きながら‥小川さんが入って来た。
明日はお互いにオフということで、今夜は俺の家に泊まることになったからだ‥。
ふわりと石鹸の匂いをまといながら‥小川さんが近寄る‥
気が付くと‥俺の目の前までやってきて‥じっと顔を見つめられ‥思わず視線を外してしまった。
そんな俺に‥
「藍‥‥キス‥しようか?」
と不意に言われ‥視線を戻すと‥小川さんの両手が俺の頰を触る‥
「で‥でも‥」
言葉を濁す俺‥。あの日‥合宿の時、小川さんと関係を持ってしまったが‥
それ以降は、なかった‥。
やっぱり自分の気持ちがハッキリとするまではごめん‥そう小川さんにも伝え‥
「分かった、俺‥待ってるから‥」
と言ってくれて‥
‥ただ、キスだけはいつも催促されていた。
“キスだけ‥なっ?キスから始めよう‥お前のこともっと知りたいし‥“
そう言われ‥何となく流される日々が続いていた‥
「キス‥したい‥藍?いいだろ?」
熱に浮かされたような小川さんが俺を見る‥そして‥
返事の出来ないでいる俺の唇にそっと触れてきた‥
チュッ‥
唇で上唇をほんの少し挟み軽く引っ張られるような‥軽いキス
そして、離れる‥
触れるだけの羽のようなキスを‥いつも小川さんは施す。
祐希さんのような荒々しいキスとは違い‥触れるか触れないかぐらいの‥もどかしいキス‥。
しかし、その後‥
「ん‥らん‥口開けて?」
舌で唇をぺろりと舐めながら‥小川さんに催促される‥これ以上は‥やばい‥
「ちょっ‥ま‥まって‥」
‥何だかキス以上の行為に及びそうな雰囲気に慌てて制止してしまう‥
「藍?」
「ご‥ごめん、また今度しよ‥ねっ?」
極力笑顔で伝える‥小川さんの機嫌が悪くならんように‥
いつもなら‥わかった、仕方ねぇなと笑ってくれるのだが‥
「なんで?キスぐらい‥いいじゃん」
今日は‥いつもと違う感じがする‥
グイッと詰め寄り、何かを探るような目線に圧を感じた‥。
「そう‥やけど‥」
「‥ねぇ、藍?‥手の中にあるものを見せて?」
唐突にそう言われる。
「な‥なんで‥」
包みこんでいた指輪をギュッと握りしめる。
「‥持ってるだろ‥指輪?‥藍がシャワー浴びてる時に見つけて、俺が置いたのに‥ないから」
「お‥小川さんが? 」
「‥まだ持ってたんだな‥その指輪‥祐希さんがくれたやつだろ?」
「‥‥‥‥‥」
「もう要らないじゃん。出して?」
ほらっと掌を目の前に差し出される。
確かに今のとなっては必要のない指輪だ‥
でも‥‥‥
「ご‥めん、まだ渡せない‥」
指輪を握りながら呟く‥。
もう少し‥
まだもう少しだけ‥。
自分の気持ちに整理がつくまでは‥。
そう言おうと小川さんの顔を見ると、
今までに感じたことのない‥
冷たい目で見られていることに気付いた。
「俺には渡せないってこと?」
「‥ごめん、今はまだ‥」
「祐希さんはもう捨ててるのに?」
‥胸がギュッとなった。
そうだ‥祐希さんは捨ててるに決まってる。
俺だけが‥まだ捨てられずにいるんだろう‥
それでも‥‥
「‥祐希さんのことは忘れるって言ったろ?」
「‥‥‥‥」
「どうしても渡せない?」
小川さんの問いかけにコクンと頷いた。
少しの静寂‥そして‥
「‥わかった、藍がそう言うなら指輪はもういいよ」
「ほんま?ありがと、小川さ‥」
まだ話してる途中だったが、それを遮るように小川さんに詰め寄られ‥
ベッドの上に押される形になり、倒れ込む。
「‥ただし、その代わり‥今夜は俺の言う事聞いてもらうから」
「えっ‥」
「‥キスだけのつもりだったのに‥藍が大切だから‥大事にしたいと思ったのに‥」
倒れ込んだ俺の上に跨り、小川さんが見下ろす‥
「藍がいけないんだ‥祐希さんを忘れないから‥」
そして‥
いつの間に持っていたのか‥いや、用意していたのだろうか‥
ギュッと両手を紐で縛られ、あっという間にベッドに固定される。
身動きの出来ない状態に‥
「なっ、こんなん嫌や、外して‥」
恐怖心が沸き起こり、小川さんに懇願する。
だが‥
「俺が祐希さんを忘れさせてあげるから‥俺がいないと生きていけないぐらいに‥ねぇ、藍?」
そう言って妖しく笑った小川さんは‥
欲望の色をまとった顔をしていた‥。
こんな小川さんを
俺は知らない‥‥‥‥‥
いや‥‥‥‥
気づかないふりをしていたのかもしれない‥
見ないように‥
目を背けて‥
自分の都合のいいものだけを見続けて‥
コメント
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コメント失礼します☺️ まず小説読みました♪小川さんが少し怖い感じになっていてこの前の智さんの言葉の意味が分かった気がしました☺️それに祐希さんとはこれからどうなるのかなと思いました☺️これからも頑張ってください😊応援してますねそれに続きを楽しみに待ってます😊