コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺たちは採ってきた薬草を冒険者ギルドに持ち込んだあと馬車にて王城へ戻ってきた。
夕食までにはまだ十分に時間がある。
『それじゃあ、みんなで温泉にでも行こう』という話になった。
山の方がだんぜん涼しいしな。
それで王妃様に許可が頂けるよう部屋付きのメイドさんに連絡をお願いした。
王城に居る以上、好き勝手に動くわけにはいかないのだ。
報連相は大事だよね。
「はい――っ! 今から温泉にですか?」
「ええ、汗もかいておりますし、今から行けば夕食までには戻れますし」
「…………」
「……ダメでしょうか?」
「その温泉の場所であったり、泉質や効能などは分かるのでしょうか? 参考までに」
あぁなるほど、王妃様から突っ込まれた時にお答えするためだよな。
「場所はオーレン山脈の裏側。温泉は炭酸泉ですね。鑑定結果によれば美肌の湯らしいです。効能は…………カクカク・シカジカ・マルマル…………ですね。もしお尋ねになられた際はそのようにお伝えください」
外出許可が下りる間、俺たちはお茶をしながら時間を潰していた。
………………
そこへ部屋をノックする音が聞こえてきた。
部屋付きメイドが小さく扉を開き対応している。
するとそのメイドを押しのけるようにドーンと扉が開かれると、王妃様を先頭に多数のメイドさんが雪崩れ込んできた。
んんっ、なぜに王妃様が? 後はお付きのメイドさんだろうか?
何やら荷物を抱えているんですけどぉ。
「時にゲン殿、これより温泉に行かれるそうだけれど。 わたくしもご一緒して宜しいかしらぁ?」
そのようにのたまう王妃様。
宜しいも何も、荷物 (着替え) 抱えて行く気満々じゃないですか。やだー。
う~ん、こちらとしては特に問題ないのだが。
王妃様をお連れするとなると、
いろいろと問題があるというか、問題になるというか……。
などと考えていると、
「ゲン殿。この子達はわたくしを守る戦闘メイドですの。ですから、あなたは余計な心配はしなくて良いのです」
フンすと鼻息の荒い王妃様。
(わぁ~! これって絶対に引かないやつだ)
「わ、わかりました。それではみなさんで参りましょう。こちらに集まってください」
仕方なしに俺がそう言うと、王妃様はウキウキしながら近寄ってくる。
こちらもみんなを寄せて、デレク (ダンジョン) に温泉施設まで飛ばしてもらった。
一瞬にして周りの景色が変わり、俺たちは温泉施設の玄関へ転移してきた。
王妃様一行は初めての転移に若干とまどい気味だ。
俺はナツに施設の案内を頼むことにした。女湯の更衣室には男は入れないからね。
人数分のバスタオルとフェイスタオルをメイドさんに渡してあげる。
石鹸などは備え付けのやつがあるから分かるはずだ。
後のことはナツに任せ、俺はシロと子供たちを連れ男湯の方へに入っていく。
服を脱ぎ、内湯の洗い場にて身体を洗ったあとは、開放感がある露天風呂へと向かった。
子供たちにかかり湯をさせ湯舟に送り込んでいく。最後はシロも綺麗に流してやり一緒に湯舟につかった。
ふぅ――――――っ。 やっぱ温泉は最高だぁ。
………………
「あら、本当にこちらにもお風呂がありますのねぇ。外の景色を眺めながらの入浴なんて、とても素敵ですわねぇ」
王妃様が後ろから声をかけながら湯舟に入ってきた。
もちろん、お付きのメイドさん共々真っ裸 (マッパ) である。
俺は出るに出られなくなり、仕方なく裸のつきあいをする事となったのである。
みっ、見たい! 見たいんだけど……、見るわけにもいかない。
だって王妃様、まだまだ若いんだもんなぁ。うぅ静まれー、控えおろー。
しかし目に入ってくるものは仕方ないのだ。
「美肌の湯というのは本当だったようですね。お顔も身体もツルツルでいいわぁ~」
その言葉につられ王妃様の方に顔を向けようとすると、
(痛ってぇ――――っ!)
ナツに横腹をつねられてしまった。
いつの間に来たんだよ!
そう王妃様を案内していたナツも当然一緒にいるわけで、俺は地獄の苦しみを味わっていた。
まあ、それでもお付きのメイドさんのひとりが視界にはいる。それだけがせめてもの救いだった。
う――――ん、眼福! 眼福!
いい機会なので、王妃様にダンジョンの話をすることにした。
ここはオーレン山脈にあるダンジョン前であるという事。
王都に転移場所を設けて冒険者の往来をサポートしたいという事。
転移陣を管理することで山脈裏の領地との連絡も取れやすくなり、地域の活性化につながる事などを詳しく話していった。
一旦湯舟からあがった俺は、皆さんにアイスティーを配っているところだ。
希望者にはミルクと砂糖たっぷりのアイスミルクティーにしている。
これが以外とメイドさんには好評のようだ。
たくさんの氷が入った飲み物が珍しかったのだろう。ゴブレットの氷をカラカラまわしたり頬張ったりしている。
その氷はどうしているのか?
この施設内の休憩室には製氷ストッカーが設置されており、誰でも手軽に氷を使うことができるのだ。
製氷しているのは当然デレク (ダンジョン) なんだけど、対外的にはダンジョン産の魔道具 (一点もの) ということにしておこう。
ちなみにここの休憩室は、片側がテーブルが置かれて食事もできる畳コーナー。もう片側がひとりでゆったりと寛げるリクライニングチェアを20脚並べている。
さらに奥には厨房もあって、簡単な料理や飲み物が作れるようになっているのだ。
………………
皆さんバスタオルを胸に巻いているので、ようやく顔を見ながらお話しできるな。
それでも肩やおみ足がチラチラと目に入り、眼福であることには変わりないのだが。
「今伺ったどの話にしても、こちらが得することばかりよねぇ。そんな旨い話があるのかしら?」
王妃様は目を細めて訝しむ。
確かに普通に聞けば怪しさ満点だろう。しかし相手はダンジョンなのである。
「ダンジョンが求めているのは人との共栄なんです。ダンジョンは人を喰らうとか餌にするとか言われていますが、その認識は少し違うのです。確かに人からエネルギーを吸収していますが命を奪う必要はないのです。しかも健康な肉体から僅かずつです。ダンジョンの周りに人が集まりさえすれば事足りるのです」
(一番の在り方は迷宮都市カイルのようにする事なんだよね)
「ただ、ダンジョンで生計を立てようとするのなら、その対価として命をかけることにはなるでしょうけど……」
『詳しい事はまた後日に』ということで夕食に間に合うよう王城へ帰ってきた。
「はぁ~~~、温泉気持ち良かったわぁ。また近いうちにお願いするわね」
そう言い残し王妃様は戻っていかれた。
俺はバスタオルとフェイスタオルをおみやげとして10枚ずつメイドさんに持たせた。
王妃様が大変気に入っておられたのだ。
今度、バスローブも作ってみようかな。
そして夕食の時間になったので俺たちは食堂に移動し食事を頂いていた。
(マリアベルちゃん、さすがに今日はダメだったみたいだな)
などと思いながらも部屋に戻り、みんなで寛いでいると、
コン! コン! コン! 扉がノックされる。
今、部屋付きのメイドさんは所用で外しているので俺が応対する。
「はーい! どうぞ~」
「…………」
あれっ、応答がない?
不思議に思いながらも扉を開けると、そこにはドレスを着た幼女がちょこんと立っていた。
マリアベルである。
(えええっ、ひとり?)
首を左右にふって廊下を見渡してみるが、やはり誰もいない。
少し疑問に思ったのだが、ずっと立たせておく訳にもいかず、
「どうぞ、いらっしゃい!」と招き入れた。
せっかくなので、客室リビングにみんなで集まってお茶を頂くことにした。
少しぬるめのミルクティーを用意し、サラに作らせておいたシュガードーナツを器に盛って出してあげた。
すると子供たちの手が一斉にドーナツへとのびる。
マリアベルも他の子と同様、ニコニコ笑顔を見せながらドーナツを食べていた。
もちろん、ソファーの横にお座りをしているシロにも皿に入れて出してあげている。
この部屋はそこまで広くないので走り回るのは無理だ。
なので子供たちを相手に昔話 (ももたろう) を語り聞かせた。
………………
…………
……
はじめは楽しそうに聞き入っていたマリアベルだったが、話が終わる頃にはすっかり夢の中であった。
(あ~ぁ、寝ちゃったかぁ)
戻ってきていた部屋付きのメイドさんに連絡を入れてもらうことにした。
しばらくすると、二人のメイドさんがマリアベルを迎えに来てくれた。
「これ、よかったら皆さんで召し上がってください」
俺は迎えに来ていたもう一人のメイドさんにドーナツを10個包んで渡した。
何事も根回しは大切だよね。
こうしておけば、マリアベルがメイド達に迷惑をかけたとしても多少は大目に見てくれるかなぁ~、なんてね。
まあ、思いやりだよね。
それから5日が過ぎた。
ナツの装備も子クマ姉弟のローブも、みんなの服やドレスも出来あがった。
そして大量の薬草を毎日納品していたおかげで、ナツの冒険者ランクがE級にあがった。
また、王妃様からの連絡により、大公様が急ぎこちら (王都) へ向かわれているとのことだ。
到着は3日後になるらしい。
『おそらく面会や晩餐などの予定が入ると思われるので、その日は予定を空けて部屋で待機しておくように』とのお達しである。
(そうか、いよいよ来るのか)
親がいるんだから返さない訳にはいかないよなぁ。
「……………………」
胸がいっぱいになり、
「少し出てくる!」
そう言い残して俺は部屋を出ていた。
どこをどう通ったのかも覚えていないが、気がつくと大きなテラスへ飛び出していた。
ふと、外に目を向けると王都の街並みが一望できる。
俺はテラスの手すりに頬杖をつくと、
その景観をぼーっと眺めながら一人ため息をこぼしていた。
「いったいどうしたんだい? こんな景色の良い所でため息なんかついて。ここは私のお気に入りの場所なんだよ。気になるじゃないか」
黄昏ていた俺に声をかけてくる者がいた。
声がする方に顔を向けると、
そこには品の良さそうなお婆さんがひとり、ガーデンテーブルにてお茶を飲んでいた。
「…………」
俺がなにも言わずに黙っていると、
「どれ、何があったのかこのおばばに話してごらん。きっと楽になるから……」
テラスのテーブルからおいでおいでと手招きをしているおばばさん。
気まぐれからか、俺は言われるままにそのテーブルについた。
おばばさんが淹れてくれたお茶を頂いていると不思議と心が落ち着いてくる。
そして俺は目頭を熱くしながらも、
メアリーとの出会いからこれまでの事を、そのおばばさんに話して聞かせた。