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「そうかい、そうかい、あの子のことを助けてくれたんだねぇ。ずっと行方知れずで心配していたんだよ、本当にありがとねぇ。あの子も……、あの子の母親もただ巻き込まれただけなんだよ。まったく忌々しいったらありゃしない」
「巻き込まれた? 病死とかではないんですか」
おばばさんの言葉に、つい聞き返してしまった。
「…………」
「…………」
「おまえさんなら大丈夫だろうから言うけど、ここで聞いたことは他言無用だよ。わかったかい!」
おばばさんの目を見て俺は大きく頷いた。
「あの子の母親は毒殺されたのさ。それも大公の足を止める為だけにね」
「――――――!」
俺は怒髪天を衝く形相となった。
そんな鬼神のような顔をした俺におばばさんは、
「これこれ、気を抑えなさいな。ここで怒っても何も始まらないだろ」
「こ、これは失礼しました。宜しければ、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
「まったく、凄まじい気を出しおってからに。寿命が10年縮まったよ。あたしもそこまで詳しくは知らないけれど話してやろうかね」
おばばさんが言うには、
メアリーの父である大公のアラン・ジ・クルーガーは当代国王の実弟であり、王都の北に位置する都市クドーを納めている。
そしてダンジョン・カイルで取れた物資などはこの都市を通り王都バースへと運ばれているそうだ。
一方、迷宮都市カイルは王国の直轄地でありながら、以前よりさまざまな不正が横行しているという。
これに対しては王国側でも目を光らせており随時取り締まりを行っているようだ。
しかし、いくら取り締まったところで出てくるのは状況証拠ばかり。
これでは上の者を処分しようとしても如何様にも言い逃れができてしまう。
そう、物的証拠が出ないよう組織的に不正が行われていたのだ。
王国側もこれにはホトホト手を焼いていたようである。
………………
しかし、こちらも黙って指をくわえていた訳ではない。
アラン大公は間者を幾人も潜り込ませていたのだ。
そしてかねてからの裏付け捜査により、その物証の一部を押さえるに至ったのである。
着々と準備を整え、あとは迷宮都市カイルへ乗り込むだけの段階であった。
勿論、査察に入ることは極秘に進めていたのだが……。
ぎりぎりのところで計画が露見してしまった。
ヤツらは乗り込もうとしていた大公の足を一時的に止め、その隙に関係していた殆どの者を処分し入れ替えてしまっていたのだ。
それで、その僅かな時間を稼ぐため利用されたのが、
メアリーの母であるエレナだったのだ。
アラン大公 最愛の側室と噂にあるエレナならば効果は絶大だろうと踏み、敵の矛先が向いてしまったのだろう……と。
(そういう事だったのか……)
これはおしおきどころの騒ぎじゃないな。
できることなら、俺がカタをつけたいところだが……。
エレナが何者かに殺害 (毒殺) されたことで大公家は大混乱。
それで何を思ったのか、当時の家宰はエレナの一人娘であるメアリーにも危険が及ぶと判断。
執事であるジョージと共に身を隠すように指示を出してしまったのだ。
ある程度の期間は如何なる連絡も避け、身を潜めるようにと言い渡していた。
「…………」
(これって、もう少しなんとか出来たんじゃないのか?)
いや、当時はパニックだっただろうし。
もしかしたら本当に刺客が差し向けられていた可能性もあるのか……。
今さらいろいろ詮索したところで詮無きことではあるか。
「まあ、事の顛末はこんなところさねぇ。ところで坊やだろう、ダンジョンがどうのって王妃が噂していた……」
そう言われて、自己紹介もしてない自分にハッ! となった俺は念話でシロを呼ぶ。
……って、あれ、
いつの間に来ていたのか? シロは俺の椅子のよこで伏せをしていた。
そう、先ほどゲンが気を吐いた際、シロは心配して駆け付けていたのだ。
椅子から立ちあがった俺は、あらためて膝を突き貴族礼をとった。
「失礼いたしました。俺はゲン、そして隣が従魔のシロです。どうぞお見知りおきを」
「ほうほう、やはりそうなのかえ。あの子が熱心に話していたからねぇ。良かったら私も温泉に連れていっておくれ。最近は腰が痛くてねぇ」
ということで、ご挨拶がてら温泉へ連れていくことになった。
そして翌日。
昼食を済ませ部屋で待っていると、おばばさんが訪ねて来られた。
――それは大勢引き連れて。
なぜか王妃様の姿も見えている。
「…………」
まぁ気にしちゃダメなやつだろう。
そして俺たちは女性ばかり10名の団体さんと温泉施設へ転移した。
「へぇ、本当に来ちゃったよ。涼しいねぇ、大したもんだ」
おばばさんはとても嬉しそうである。
いつものように人数分の石鹸やバスタオルなどをメイドさんに渡していると、
「ささっ、こちらですよ おばば様」
王妃様が自ら案内している。
「ここの温泉はホントにすごいんですよぉ。お肌なんてプルップルですから!」
いろいろ話しながら脱衣所の方へ入っていった。
まあ、おばば様のことは王妃様にお任せして大丈夫だろう。
俺もササッと身体を洗って露天風呂の方へ向かう。
身体を洗い終わったシロや子供たちはすでに湯舟で泳いでいる。
シロが教えたのか、みんな揃って犬かきである。
まぁ水飛沫も飛ばないし……、いいか。
俺も掛かり湯をして温泉に浸かる。
あぁ―――――――っ、温泉はいつ入っても良い。
「どれどれ、おじゃまするよ。ここは良いところだねぇ、あたしゃ気にいったよ」
おばば様が女性全員を引き連れて露天風呂になだれ込んできた。
おぉ~素晴らしい…………って、もうだいぶ慣れてはきたけど。
しかし露天風呂を大きく作った俺グッジョブ!
心の中でガッツポーズをしておく。
「この露天風呂からの眺めはまさに絶景だねぇ」
そうおばば様も言ってるが、俺はこの露天風呂の中が絶景です。
今日はおばば様も交えての裸のおつきあいである。
こういった解放感のある場所では普段では聞けない話なんかも飛び出してきたりする。
これがなかなかに有意義だったりするんだよね。
「ところで、お前さんゲンとか言ったねぇ。クドウという男を知っているのかい」
「いやね、この建物はログハウスってんだろう? あっちの打たせ湯とか足湯なんかも聞いたことがあってねぇ」
どうやら、おばば様は工藤本人を知っているようだ。
「直接お会いしたことはないんですがね。実は…………カクカク・シカジカ・マルマル…………なんでして」
と以前発見した洞窟の事を話していった。
「なんだい、そりゃあ。キツ――――イやつを一発かい!」
カカカカカカッ! 笑って聞いてくれた。
そしておばば様は、向こうで子供たちと遊んでいるメアリーを優しく見やってから、
「あの子と別れないで済む方法はあるよ。もっとも、あんた次第なんだけどねぇ」
(えっマジで。そんな方法があるの?)
俺は是非にと先を促すと、
「これはまだ公にはされてない事さね。モンソロの町に近い所でダンジョンが発見されたのさ。発見者の名前が確か『ゲン』だったようだけど……、お前さんのことだろう?」
その問いに俺はゆっくりと頷いた。
「そうすると、まず間違いなく叙爵はされるよ。それにここの功績も大きいはずだから陞爵もして……、順当にいって子爵あたりかねぇ。じゃあ、ぎりぎりいけるんじゃないかえ」
なにやら小声で王妃様と話をしている。聞いてる王妃様も笑顔で頷いてるし……。
ンンン、どゆこと?
不思議そうな顔をしている俺に、
「なんだい賢そうなのに、まーだ分からないのかい。あんたが娶る (もらう) んだよ!」
――もらう?
――娶る?
妻取るってことかぁ――――――――っ!
俺はつい興奮して立ち上がってしまっていた。
んっ……。
我に返ると皆の視線が一点に集中している。
「…………!」
イヤ~~~ン!
両手でアソコを隠して静かに湯舟に沈んでいく。
とんだ羞恥を晒してしまった。(赤面)
そこやめてぇー、品定めするようにコソコソ話しをするのは。
「…………っと言うわけじゃ。しかし、アラン坊も子煩悩だからねぇ。なかなか首を縦に振らないだろうけど、そこはこのおばばに任せておけばいい」
何もなかったようにタンタンと話を進めるおばば様。なんかかっこいいっす。
温泉でのぼせないようにと、度々湯からあがっては冷たいアイスティーや特製ミルクセーキなどを提供していく。
小腹が空いたと聞けば、おやつ代わりにクレープなどを振舞った。
「極楽、極楽、これでまた長生きできそうさねぇ」
などと言っているおばば様。
昨日、寿命が10年縮んだとか言ってたからちょうど良かったんじゃないの。――ハハハハハッ!