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「って、言ってもさ。 ま、俺がいけるよって受けてんのが1番ふざけてんだけどね」
「……ううん、できないんだよって言えなくて、いつのまにか当たり前になっちゃうの疲れるよね」
そんな真衣香の言葉の後に、微かに息を吸い込む音がした。
何だろうかと、坪井を見る。
「……疲れるかぁ、そうだね。 疲れてんのかな? だったら俺ラッキーじゃん? 今かなりお前に癒されてるけど」
ニヒっといたずらっ子のように笑った坪井が、空気を変えようとしているのがわかった。
わかったが、そうなってしまえばもうこの表情の、この空気をまとった坪井には会えないんじゃないかと何故か真衣香は思ったのだ。
「た、楽しくて笑ってる坪井くんと、笑おうとして笑ってる坪井くんの違いくらいは! 私今日でわかったよ……!」
だからだろうか。 気がつくと真衣香はそう口にしていた。
自分でも信じられなかった。
相手の望む、不快ではない言葉のやり取りを気がつけばいつも繰り返してきていたのに。
「え? 何それ、どうゆう事?」
「あ……、あの、えっと」
返ってきた声は感情を押さえ込んでいるように抑揚がない。
迷う。
余計なこと言ってごめんね、と。すぐに言えば空気はこれ以上微妙にならないかもしれない。
(でもそれじゃ意味がないんだよ)
せっかく向き合って話せているんだ。
知らないことが多い中で、少しでも知っていきたいんだ。
「わ、わた、私だってそうだから……。 笑って誤魔化してるだけで心の中は不満や不安だらけ。だから笑顔の中がそのまま笑顔だって、思わない」
そんな、強い言葉が自然と続いた。
埋もれたくないと思ったからだ。
坪井の視界にある大勢の人たちの中で、埋もれていたくない。
せっかく、ほんの少しだけでも。
いつもとは違う表情を見せてくれた人の心を、真衣香だって見逃したくない。
坪井が、見ていてくれたように。
理解してくれていたように。
「みんな坪井くんを凄い人にして、いつのまにか押し付けちゃってることに気がついてないのかもしれないよ」
「……立花」
「たった2人の同期だよ! 坪井くんが言ってくれた」
「……え? えー、うん、言ったと思うけど」
抑揚なかった声が変わり。
少し驚いたように、呆けたように、気の抜けた相槌が聞こえる。
坪井にしてみれば珍しいのかもしれない。
……だって、彼はいつも自分のペースで会話を管理してきたはずだから。
真衣香との会話も例外ではなかったんだろう。
そんな坪井のペースを掻き乱しても、伝えたいこと。
貰った心強さ、そのほんの少しでもいいから返したいということ。
「うん、言ってくれたの。 私ね、それがどうしても嬉しくて、その……」
「……うん」
「だから、なにが言いたいかというとね……つ、坪井くんもどうぞ私にいくらでも吐き出して寄りかかって、頼って! 隠さないで全部見せてほしいの!」
ドーン、と。
真衣香は胸に拳を当て、謎にあまり大きくはない胸を張った。
決まってしまってそうなドヤ顔が数秒の沈黙の間に恥ずかしくなった。
(……う、どうしよう、最高にウザいかもしれない私、今)