何故もっとスマートに言えないのかと、既に頭を抱えたいけれど。
今の真衣香では、このポーズをやめるタイミングさえ計れない。
「……私も勝手に、凄い人だなって遠巻きに見てたから……その、ごめんなさい」
そう、恥ずかしさを誤魔化すように真衣香が最後に付け加えた言葉は聞こえていただろうか?
わからないけれど。
坪井が何かを言おうと口を動かした。 しかし、声を聞き取る前に注文していたサラダが店員の女性の「お待たせしましたー!」という、可愛らしい声と共にテーブルに置かれた。
暫し無言で、互いにでさそのサラダを見つめる。
先に声を出したのは、珍しくも真衣香だった。
「……えっと、取り分けよっか」
胸にドン!と置いていた手を下ろしながら言って、サラダと一緒に店員の女性が持ってきてくれていた取り皿を手にする。
「え、あ、うん。 ありがと、ごめん」
「……ううん、大丈夫だよ」
らしくない、どこかボーッとした感じの声で坪井が答える。
見ているのかはわからないけれど、目線は真衣香の手元を眺めているように見える。
じわじわと心の中を不安が占めていった。
(……あ、どうしよう。ウザいかもどころか 絶対これウザがられてる、失敗しちゃった)
ぐるぐると頭の中で自分の言動を思い返す真衣香。
やがて、
サラダを食べている間に運ばれてきたパスタやパンを食べながら、目の前にいる坪井は普段通りのよく見知った明るい声と笑顔の男の人に戻って。
なんてない話を、して、笑って。
帰る頃には、時間は夜の10時になっていた。
「今日はありがとな」
「ううん、こちらこそありがとう。楽しかった」
坪井とは電車の方向は別々なので、改札入ってすぐに坪井が言った。
(あっという間だったなぁ)
余計な話をしてしまったせいで、楽しいばかりの空気を多少壊してしまった感はあるが。
単純に真衣香は楽しかった。
一緒に過ごす時間はあっという間に過ぎる。
感じるドキドキは心地よく、帰ることが惜しくなってしまうくらいに。
(優里以外の人といて疲れないなんて、初めてかも)
思い返して口元が笑みを作りそうになるから、慌てて引き締めた。
すると、坪井が言った。
「お前って不思議だね」
「……え? 不思議?」
「うん。腑抜ける感じ。はは、ちょっと怖い」
その言葉を聞いて、真衣香の耳から駅を行き交う人たちの話し声や物音が消えた。
(こ、怖いって……、え? 怖いほど私に引いてる的なニュアンス……?)
やはり余計な話を調子に乗ってし過ぎてしまったのだ。
『お前と話してるの疲れるから、付き合うって言うのなしにしない?』
なんてマイナス思考の塊的な声が脳内に響いてかき消す。
大丈夫、今の声はまだ真衣香の妄想だ。
「あ、誤解すんなよ? お前って中毒性あるかもよって話。 少なくとも俺にはね」
「え、ど……毒!?」
これはどう反応すべきかと瞬きを何度か繰り返していると、いつの間にか目の前の坪井が微笑んでいて。
何かを溜め込むように深くゆっくりと深呼吸をした後に言った。
「出張終わったらお前にすぐ連絡するね」
「あ、ありがとう! 嬉しい。待ってるね」
「うん。後、さっきも言ったけど何かあったら連絡して。近くにいなくてもできることあると思うから」
「……うん? ありがとう」