テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「わ、わぁ……凄いです。スクリーンでっかいですし、それにコレ……本当にココで食べて良いんですか? 映画館でポップコーンって、ちょっと憧れがあったんですけど。本当に怒られないですか?」
何もかも初体験の為、もはや期待と緊張の嵐。
映画館へ入ったのだって初めてなのに、“映画と言えばコレ!”みたいな雰囲気で、黒沢君がでっかい器のポップコーンを買ってくれた。
ついでにジュースのカップもでっかい。
なんだコレは、物凄くファンタジーなソレを叶えた様な空間じゃないか。
代金をお支払いしようとしたら、上映時間になっちゃうから後で! と、はぐらかされてしまったが。
結局お財布を出すタイミングを失い、そのまま指定の席へ。
段々と埋まっていく席に、大きなスクリーンには鑑賞中の注意事項みたいな動画がエンドレス。
かなりど真ん中とも言える席を予約してくれたらしく、もはや視界いっぱいにモニターがある様だ。
もっと言うなら、私の膝の上にでっかい器に入ったポップコーン。
ちょっと大きすぎて、私だと抱える様なサイズになっているけど。
「大丈夫だよ、ホント。それ用の食べ物というか、ココで販売してる訳だしね。他の物とか食べてたら怒られるけど、ちゃんと売店で買ったヤツだから。というか……本当にこういう所初めてなんだね?」
「お、お恥ずかしい限りです……お兄ちゃんの所に来るまでは、娯楽施設とか理由が無いと足を運んだだけで怒られる生活だったので……。カラオケに入ったのだって、黒沢君と一緒の時が初めてです。何だか最近、初めての事はみんな黒沢君から貰ってる気がします」
「い、言い方……」
「え?」
「いや、うん、気にしないで? あと、スマホとか大丈夫? マナーモードにした?」
彼に言われて慌ててスマホを取り出してみれば、ちょっとだけポップコーンの器が傾いてしまい。
ポロッと一つだけ零れ落ちてしまったのだが。
咄嗟に掌を伸ばし、ソレをキャッチ。
おぉ、凄い。
自分のミスだったとしても、ちゃんと対応出来た。
というのと……多分コレも、件の“違和感”から生まれた現象。
周囲を観察する癖が付いたと言うのと、コレに対して身体の方が反射的に動こうとするソレ。
少し前までコケたり、慌てるばっかりだったのに。
ちゃんと4cardから教えてもらったトレーニングを始めたら、最近ではどんどん違和感そのものが無くなって来ている気がする。
気にしなくなったと言う訳ではなく、ちゃんと身体の方が反応出来る様になったという意味で。
なんて偉そうに言っても、私の教官たるフォーから出されているメニューは、他の人が見たら鼻で笑ってしまうレベルの筋トレだったりするんだけども。
あとはとにかく、どんな時でも姿勢に気を付けて、すぐに動ける状態を意識しておく事。
これ等を教えられた通りに毎日やった結果、ポップコーンが無事だった。
以上。
という事でソレをパクッと口に放り込んでから、改めてスマホが鳴らない様に設定し始めれば。
「白川さん、なんだか最近……ちょっと行動がきびきびしてるっていうか。反応速度が上がった? みたいに見えるんだけど」
「あ、はい! 病院まで付き添ってもらった“アレ”、お医者さんにも身体を鍛えると良いって言われて。それで、知り合いの“そういう事”に詳しい人にアドバイスしてもらってるんです。元々運動不足だったのが、少しだけ普通になった、程度なんですけどね?」
アハハ、と困った様に笑ってから再びスマホを仕舞えば。
このタイミングで室内の照明が落ちて、スクリーンにはまた注意事項だったり、他の映画のCM何かが流れ始めた。
お、おぉ……こういう所でも、やっぱりCMは入るモノなのか。
などと、変な所で感心しながら正面を見つめていたのだが。
とにかく、音がでっかい。
普段だったら耳が痛くなってしまいそうな大音響な訳だが、広い空間に響き渡るソレ等が、何だか全身を包み込んでいる様な感覚で凄く不思議。
なんて、この歳になって劇場初体験をしている私は。
色んな事に感動しつつ、視界いっぱいに広がる映像を見つめ続けるのであった。
◆
「黒沢君! ガンショップ行きましょう! この後ガンショップ行きましょう!」
「凄く楽しんでもらえたみたいで、何より。でもね、白川さん。そのポップコーン持ったままじゃ、流石にお店に入れないと思うよ?」
「す、すみません! 映画に集中し過ぎて、食べるの忘れてました!」
柘榴とAI

441
#没入感フィクション
柘榴とAI

391
柘榴とAI

298
今回白川さんをお誘いして、人生初? デートの真っただ中。
以前から一緒に出掛けているアレをデートとして換算したいところだが……多分、違うので。
まぁソレは良い。
とはいえ女の子と一緒に観るにはどうなんだろう? という映画のチョイスだったんだけども。
本人は凄く満足してくれたらしく、観ている間は凄く真剣な眼差しでスクリーンに釘付けだったのだ。
ガンアクションの映画だったから、デカい爆発音とかが鳴る時とか、あとは……とにかく、ヘリ。
アイツの演出が入る時って、映画では音が馬鹿でかくなる事が多い。
その度に、隣の席に座った彼女がビクッと跳ねるのが……何か、可愛かった。
しかも夢中になり過ぎて、膝の上でだっこしたままのポップコーンは完全に放置。
それでも全然零れたりしないんだから、多分白川さんは普段から物凄く姿勢が良いんだと思う。
とかなんとか、チラチラと横目で確認してしまった訳だが。
映画が終わってみれば、今の彼女はこのテンション。
普段の引込み思案が嘘みたいに、というか何か夢中になるモノを見つけた後の子供みたいに。
早くも銃に触れたくなってしまった雰囲気が隠しきれていない。
しかしながら、ほぼ手付かずのポップコーンをそのまま捨てる訳にもいかず。
どうしようどうしようと慌てる彼女を誘導しつつ、映画館のフードスペースというか。
多分上映時間を待つだけのテーブル席なんだろうけど。
そんな場所で、二人揃って改めてソレを摘まみ始めるのであった。
「え、えと! 凄かったです! なんかもう、凄く格好良かったです!」
「気に入って貰えて良かったよ、ホント。俺もこのシリーズ、っていうか俳優さんが凄く演技上手くてさ。アレの格好良さにハマったっていうか、とにかくアクションが良いんだよね。しかも絶対登場する作品ごとのモチーフ武器……全部、完全カスタムモデルですげぇ良い……」
「あのハンドガン、凄く良かったです! アレって実際に存在するモデルなんですか?」
「あるよ? けどこの映画の為に新しいカスタムパーツを作って、外見ほぼ別物レベルで採用してるモデルで――」
などと会話しつつ、余ったポップコーンをヒョイヒョイパクパク。
だが興奮が抜けきっていないらしい白川さんに関しては、会話の方に夢中になっているらしく。
物凄~くたまに、思い出して慌てて食べる、といった状況。
どうしこう、いちいち可愛いんでしょうか?
そんな事をやっていれば、ほとんど俺が平らげる状態になるのは目に見えているのだが。
けど彼女は凄く満足そうにしているのでヨシ。
何も問題はない、という事にしよう。
あと何度でも言いたくなってしまうが、今日の恰好が凄く可愛い。
前病院に付き添った時の恰好も、なんか普段の彼女が見られたって雰囲気で得した気分しか無かったのだが。
今日の恰好は完全にデートと言うモノを意識してくれた、みたいな。
どうしよう、一緒に居るだけでも何か緊張してくる。
むしろ俺の格好大丈夫か? なんて思ってしまうけど。
相手は全く気にした様子はなく、いつもの緩い微笑を浮かべながら。
「映画ならでは、というか。あんな高い所から背中から落ちたのに、すぐに立ち上がったりするところは……お、おぉ? なんて思ったりもしますけど。でも何て言うか、行動が凄く自然でしたね。こう言ったら失礼かもしれませんが、他の人でも出来る“普通の行動”なのに、凄く格好良く見せてるっていうか」
「お、流石ガンサバプレイヤーだね白川さん。あの映画のアクションシーン、ほとんどが合成とかワイヤーアクション使ってないんだよ。しかも俳優さんが、映画の為にガチで戦闘訓練受けてるらしい。このシリーズの度にプロにお願いしてるみたいなんだけど、もはや教える事が無いって言われてるみたいだよ?」
「そ、そんな凄い人が演じてるんですね……やっぱり、プロって凄いです」
何を喋っても凄く感心したように、しかも凄く興味がある感じで聞いてくれるという。
俺、白川さん相手だったらずっと喋っていられる気がする。
今日の朝まで、どうにか彼女を楽しませる様に……と、物凄く悩み続けながら胃を痛めていたというのに。
実際会って、こうして一緒に遊んでみれば凄く楽しいって思っている。
やっぱり、白川さんは凄い。
一緒に居るだけで元気が貰える気がする。
なんて事を思いつつ、あっちもこっちもと質問して来る彼女へ微笑を向けていると。
「“普通の行動なのに、特別”……なんだかソレ、凄く格好良いですね。誰もが憧れちゃいそうな存在って、あぁいう人なのかもしれません」
思いっ切りハマりました! みたいな雰囲気で笑顔を向けて来る白川さんだったが。
その言葉に、少しだけズキリと胸が痛んだ。
とても身近で、とても凄い存在。
しかも“普通なのに特別”という言葉の代名詞とも言える存在を、俺は知っているのだから。
間違い無く彼女は意識して発言した訳じゃないと分かっていても、どうしても脳裏によぎる存在。
“6key”。
彼の動きは、とても普通なのにその上で他者を圧倒する。
アレを参考にすれば、自分でも出来るのではないか? なんて思ってしまう動きなのに。
けど誰も、その領域まで辿り着けない存在。
そして彼女にとっては、最も身近な存在とも言える相手。
もしも彼女の“憧れ”が、シックスへと向いた場合。
多分俺は……嫉妬せずにはいられないと思う。
こっちを見て欲しい、俺も彼女が憧れてくれるような存在になりたい。
なんて、どこまでも我儘な欲望が湧き上がってくるが。
「黒沢君……? どうか、しましたか? あ、すみません! ポップコーン、また黒沢君にお任せしたままでした! わ、私も食べますので、お腹いっぱいなら無理しないで下さいね!?」
急にそんな事を言いだした白川さんが、小動物みたいに一生懸命ポリポリとソレを口の中へと放り込んでいく。
たった一声、ただただ普通の会話。
それでも多分、俺にとっては……この、“好きな人と話している”という空間が、VRとリアルの境界線になっている気がする。
兄貴の訓練中や、ガンサバにのめり込んだ時はとにかく勝つ事ばかりを優先し。
ここ最近では、周囲のプレイヤーに対してだって常に警戒し始めている程。
ゲームをやっているのに、本当に気が休まる暇がないと言って良いだろう。
こんな環境を続けていれば、絶対リアルの精神状態に影響しそうなのに……。
意外と、すんなりと切り替えられるのだ。
“向こう側の俺”には達成すべき目標がある。
けど“こっち側の俺”には、白川さんとこうして話せる環境がある……みたいな。
まるでそういう所のセーフティになってくれている気がして、非常に勝手ながら。
多分前より、もっともっと好きになった気がするんだ。
「好きだなぁ……」
「え? あ、コレですか? 私も好きになりました! 美味しいですね、キャメルポップコーンって。どうやって作ればいいんでしょうか?」
ポツリと呟いた小声を聞かれてしまったらしく、ヤバッ!? とか言いたくなったが。
やはりそっち方面に関しては非常に鈍感というか、自分の事だとは思っていないらしい彼女は。
そのままポップコーンを頑張って口に運んでいた。
本人は必死な感じだけど、一つずつ丁寧に小さいお口に入れているので、多分食べ終わるには物凄く掛かると思うけど。
なんだかその様子がおかしくて、思わず此方の頬も緩んでしまう。
多分この子は鈍感云々の以前に……自分に好意が向く、というのを理解してないというか。
そんな事、あり得ないって思っちゃってるんじゃないか?
話を聞く限り、凄く厳しい家だったみたいだし。
だからこそ、その“常識”が染みついて……なんて、これは良くない“観察”だな。
スナイパーなら、相手が何を考えているかまで想像しろとは教わっているけど。
流石にコレは無粋だと、自分でも分かる。
なので。
「食べ終わったら、前とはまた違ったガンショップ行こうか。店によって特徴が違ったり、中古なんかはその時によって品揃えが違うから、凄く面白いと思う」
「い、行ってみたいです! 急いで食べます!」
「あはは、まだ時間はいっぱいあるから。ゆっくり一緒に食べよっか」
とか何とか言いつつ、その後はまったりとしたペースでポップコーンを減らしていくのであった。
インパクト重視で大きなサイズ買ったけど、白川さんだともっと小さいヤツでも良かったな。
抱えていた時とか、でっかいぬいぐるみ持った子供みたいになってたし。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第93話、読み終えました……! 映画館デート、すごく甘酸っぱくて、胸がぎゅっとなりました……🫂💘 黒沢くんがポップコーンを買ってくれたのも、映画に夢中で食べるの忘れちゃうのも、全部が初めてで感動してる白川さんが愛おしすぎて……! 特に「初めてのことはみんな黒沢くんから貰ってる」って言葉、重くて、でもあたたかくて、ずるいです……。 それでいて、終盤の黒沢くんのモノローグで“6key”の影がチラつくところ、読んでてこっちの心臓もドキッとしました。 “普通の行動なのに特別”って憧れが、もしあっちに向いたら……っていう不安、切ないけど、それだけ本気なんだなって伝わってきます。 デートの幸せな空気に、ほんの少しの陰りが混ざるバランスが、すごく好きです。 次はガンショップデートですね……! 白川さんがどんな目を輝かせるのか、楽しみにしてます🌙✨