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春のあの人

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春のあの人

2 - 第2話

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2025年10月06日

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──春の風が、校庭の桜を揺らした。花びらがふわりと舞って、私と先輩の間をすり抜けていく。


「久しぶりだな、紬。高校、ここだったんだ」


そう言って笑う声が、少し低くなっていた。

成長したんだ、あの頃の“水森先輩”じゃなくて、ちゃんと“水森遥人”としてそこにいる。


「…はい。先輩こそ」


ようやく絞り出した声は、驚くほど震えていた。


先輩は少し照れたように後ろ頭をかいた。


「中学のときのこと、覚えてる? あの、放課後の図書室とか」


覚えてる。

あの静かな時間も、机に並んだ本の匂いも。

ページをめくる音にまぎれて、こっそり彼の横顔を見ていたことも。


「もちろん、覚えてますよ」


そう答えると、先輩は少し目を見開いた。

そして、ふっと柔らかく笑った。


その笑顔に、また胸がぎゅっと痛む。

二年前から止まっていた何かが、音を立てて動き出すみたいに。


チャイムが鳴った。

新しい一日の始まりを告げる音。


「じゃあもう俺、教室行くな」


「…はい」


先輩は少し歩き出して、ふと振り返った。


「また話そうな、紬」


その言葉が、春の光の中で溶けていった。

私は胸の奥でそっとその音を拾い上げる。


また話そう。

それだけで、今日一日が特別に見えた。


危うく落としかけた鞄を持ち直し、私も教室へ向かった。



窓の外では、桜の花びらがまだ、降り続けていた。──


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