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及川視点
家に着くと、母親はいつも通り待ち構えていた。
しかし、その表情にはいつもと違う鋭さがある。
「徹、今日も言うことを聞かないのね?」
「母さん……俺は、青城でバレーを続けたいんだ」
言った瞬間、母親の眉がきゅっと寄る。
怒りの色が強いけれど、どこかに迷いも見えた。
「……どうして?」
「俺は、俺の力で、俺のやりたいことをやりたい」
母親は一瞬、黙り込んだ。
その沈黙の間に、心の奥で何かがぐらつくのが分かる。
「あなたのためを思って言ってるのに……」
「でも、母さんのためだけに生きるのはもうやめたい」
胸が張り裂けそうだったけど、揺るがなかった。
岩ちゃんがいつもそばにいてくれたことを思い出す。
支えてくれる誰かがいるから、俺はここで立てる。
母親は少し息をつき、目を逸らした。
その瞬間、及川は悟った。
完璧でなくてもいい、母親の言う通りでなくてもいい。
自分の人生を、自分で選ぶしかないんだ、と。
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数日後、学校。
友達や教師たちの目も、少しずつ変わっていた。
昨日までの緊張は少し和らぎ、及川は肩の力を抜いて歩ける。
岩ちゃんが隣で小さく笑う。
「やっと、安心できる顔になったな」
「うん……ありがとう」
授業中、ふと窓の外を見ると、空が明るく輝いている。
自分の進む道も、少しずつ見えてくるような気がした。
――母親の目はまだ重い。
でも、もう怖くない。
自分の意思で立っている。
誰かと一緒に立てる安心がある。
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帰り道、岩ちゃんと並んで歩く。
夕暮れの空は柔らかく、二人の影が長く伸びる。
「これからも、迷ったら俺のところに来い」
「うん」
初めて、心からそう思えた。
怖くても、辛くても、もう一人じゃない。
俺は誰にも奪われない、自分の人生を生きる
胸の奥で小さな決意が燃え上がる。
そして、初めて“安心”の中で笑えた。
岩ちゃんの肩に軽く触れ、二人で歩く。
夕日が二人を包み込み、世界が少しだけ柔らかく見えた。
初めて、安心の中で、自分を信じられる場所に立っている――
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コメント
5件
おひさです!課題に追われて1ヶ月ほど見れてませんでした! 完結おめでとう!ありがとう!
感動だよ〜😭✨ 解釈一致すぎる!!上手すぎません?! 尊敬✨👏