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あれから、私の心はまだ揺れていた。
あの人が九条さんだと、わかってはいる。
だけど、それを素直に受け入れられない自分がいて。
気持ちがフラフラして宙に浮いたような不思議な感覚の数日間。
こんなんじゃいけない、しっかりしなきゃ。
だって私は……
幼子を抱える1人の母親なんだから。
九条さんとのあの一夜から、私の人生は大きく変わった。
愛する人に抱かれ、それでもあの人の未来を思い、家族を裏切った自分を罰するために、私はとても悲しい選択をした。
まもなくして自分の体調の変化に気づき、まさかと思ったけど、病院で九条さんの子どもを身ごもったことを告げられた。
とても驚いたし、信じられない気持ちでいっぱいだった。
嬉しい気持ちと不安が入り交じる毎日、決断できない情けない自分。
もちろん海外にいる九条さんには絶対に言えないし、私はどんどん焦燥感に苛まれていった。
何度も何度も考えた。
一生懸命どうすればいいのか想像した。
この子は父親の存在を知らず、父親に頼りたくても頼れない。
母親と2人だけの未来を思い描くけど、それが生まれてくる子どもにとって幸せなのかどうか、私にはわからなかった。
まだ膨らんでいないお腹を幾度もさすりながら、産もうかどうしようか……悶々と悩み続けた。
でも……
未来だけじゃなく今の現実を思えば、私が愛した人の子どもをこの手に抱きしめたい、会いたい……そんな思いが日に日に強く湧き上がってきた。
そして、いつしかその思いが自分の弱い心をつき動かし、
「この子は私が立派に育てる。父親がいないから不幸だなんて決めたくない。私が父親の分まで頑張ればいいんだから」
そう決心することができた。
それからは、驚くほど気持ちも前向きになり、すぐに両親にも話した。
できるだけ普通の環境で産み、育てたいと、私は家を出てマンションの小さな部屋を借りて生活を始めた。
妊婦の間、もちろん大変なこともたくさんあったけど、どんな時も強い気持ちだけは失わなかった。
出産前は周りにもお世話になり、なんとか無事に元気な赤ちゃんを産むことができた。
自然分娩、陣痛のつらさ、出産の痛み、初めての経験に驚きながら、それでもようやく我が子に会えた瞬間は、感動で涙が止まらなかった。
嬉しくて嬉しくて……
幸せで幸せで。
可愛い息子をこの手に抱いた時、九条さんへの感謝がとめどなく溢れた。
こんなに小さな体で一生懸命泣いて……
私は、九条さんがくれた、この大切な宝物を絶対に守り抜くと改めて心に誓った。
「九条さん、私、ママになりました。あなたのおかげです」と、心の奥でつぶやいたこの思い、遠い空の向こうのパパに、ちゃんと届いたかな……