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「父を愛した」父を憎んだ。

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「父を愛した」父を憎んだ。

2 - 第2話「父さんとのキャッチボール」弟が歩いた。

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2024年01月08日

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父さんはトラックの運転手や。優しい父さんやった・・・

 

トラック運転手っても長距離。・・・なんで一度出発すれば1週間くらいは帰らない。

幼いボクを、よく仕事に連れて行ってくれた。

小学校に入る前、5歳のボクは、助手席にチョコンと乗っているのが好きやった。

 

流れる風景、行き交う車・・・助手席から飽きもせずに見ていた。

 

「カァ、眠たなったら後ろいけや」

 

・・・・父さんはボクを「カァ」と呼ぶ。

カズアキが短くなってだ・・・・家の中ではみんながそう呼んだ。

 

父さんの声に頷く。いつの間にやら、スーッと気持ちよく眠りに落ちそうやった・・・・

 

ボクはモソモソと運転席の後ろへ転がり込んだ・・・

大型トラックの運転席の後ろは、仮眠をとるためのベッドになっている。

 

ご飯は、街道沿いの、それこそトラック運転手を専門にしたような食堂。・・・・トラックを入れられるファミレスは少ない・・・・そしてコンビニもや。

 

そこにデパートのお子様ランチがあるはずもない、ボクはオムライスを父さんにねだった。

運転手相手のオムライスはすごく大きくて・・・そいつを、これまた大きな大人用のスプーンでボクはパクついた。

食堂のおばちゃんも、お客である運転手たちも、目を細めて色々声をかけてくる。・・・でも、ボクは、その声に応えるよりも、オムライスとの格闘に夢中や。

 

父さんは、車が好きで、トラックに乗りながらいろんな車の話をしてくれた。

父さんの運転する大型トラックがカッコよかった。

大型トラックを運転する父さんがカッコよかった。

 

「トラック野郎」って映画で、派手なトラックが走っていたけど・・・田舎のことや。映画ほどの派手な電飾はついてない。それでも、緑やオレンジ、そして眩い光が並んだ大型トラックはボクにとっては憧れの乗り物やった。

 

父さんの仲間達もトラック運転手達なので、車好きが多かった。父さんはそんな仲間達の車を借りてきては、休みの日にはドライブに連れて行ってくれた。

 

日産ブルーバード、トヨタのセリカ、マツダのコスモ・・・・

父さんは、車にボクを乗せながら、色々なメカの話もしてくれた。

ボクはいつのまにか、車の名前を、それこそトラックに至るまでを、全て運転席から見る後姿でわかるようになっていた。

 

 

「カァ、あの車は何や?」

 

父さんが運転席から声をかける。

前を走ってるのは・・・・スカイライン・・・・でも、赤いRの文字が誇らしげだ。

・・・・父さんが教えてくれた・・・・レースで大活躍した車や・・・・

 

「スカイラインGTRや!」

 

ボクの正解に、父さんが笑った。

 

 

我が家の自家用車第一号は「スカイライン」やった。当時は、初代のGTRを生んだ時代や。

勿論、我が家のスカイラインは、中古の4ドアセダン、GTですらなかった。

けど、ボクは、そのスカイラインが大好きやった。

 

 

村では、子供たちは、下は1年生から、上は小学校6年生までが一緒に遊ぶ。

全員が親の代から・・・いや、もっと昔から、まわりの人間は全てが知り合いといった田舎の村や。

 

野球になれば、5年生以上は「左打ち」・・・利き腕を使うのは禁止。・・・そんなハンデをつけることで、公平に、ちゃんと遊んでいた。

中学生になると、このグループから引退といった感じになり、ご意見番のような立場になる。

毎日、泥だらけになって遊んでいた。

 

 

 

小学校1年生。

 

スカイラインに乗って、町のスポーツ店に行った。

 

誕生日やった。

 

村では、遊びでの野球とは別に「野球チーム」があった。・・・っても、それも遊びやけど・・・それでも、隣の村・・・町のチームとの対外試合もある。

 

同じ歳の従弟の「ゴン」と一緒にチームに入った。

チームには、「ゴン」の兄ちゃんがいて、5年生でキャッチャーで・・・それで、キャプテンやった。

「ゴン」の兄ちゃんは、ボクにとっても兄ちゃんと同じやった。

 

それで、誕生部プレゼントは新しいグローブって決まった。

 

壁一面に、色とりどりのグローブが並んでいる。

茶色、黒、赤、黄色、青・・・・

 

「カァ、何色がええんや?」

 

・・・青。

 

あんまり 青色 ってグローブはない。

深い海のような青色のグローブが目についた。

 

 

「これがええ!!」

 

 

ボクの誕生日プレゼントは、深い青色のグローブに決まった。

 

 

 

小学校2年生の時に弟が生れた。

 

1年ほどして、弟はつかまり立ちをするようになった。ボクはいつ歩き出すんやろうと思っていた。母さんも、父さんも・・・そして、一緒に住んでる祖父さんも目を細めて見守っていた。

 

・・・・・弟はなかなか歩かない。

もう、手を離しても歩けると思う。ところが、ビビリなのか、なかなか手を離さない。

必ず両手でつかまって立っている。

 

 

夕食。

珍しく父さんがいた。座卓に胡坐をかきビールを飲んでいる。祖父ちゃんは日本酒や。

母さんが台所から料理を運んでいる。

座卓の真ん中に大皿に盛られた「餃子」があった。

母さんの料理の中で一番に評判の高かった料理や。・・・・友達の中華料理店の女将さんから習ったとかで、確かに外で食べる餃子より数倍美味しかった。

 

餃子の時は、みんないつも以上に箸が早い。

母さんは、焼いては置き、置いては焼いてを繰り返す。

 

テレビからはナイターが流れている。もちろん阪神戦や。・・・もちろん代々の阪神ファンや。

 

一度、父さんの仕事について行って甲子園に連れて行ってもらった。

そこで運よく、中西の投げる姿を見ることができた・・・・「勝ち試合」やった。

そう、中西は、同じ四国出身やった。

一気に阪神熱が加速した。

 

中西に憧れた。

なんといっても肝が座っている。ストッパーや。

堂々とした太々しい態度が堪らなくかっこいい。

 

 

弟は、あいかわらず両手でテーブルにつかまって歩いていた。・・・・そのうちにテーブル伝いに父さんにたどり着く。

父さんが弟を抱えこむ。

 

「飲むか?」

 

言いながら、ビールのコップを弟の口へ持っていった。

 

「アカンやろ!」

母さんの声。・・・でも、笑いが入ってる。

 

・・・・が、弟はグラスに口をつけて舐めてしまった・・・・

なんともいえない苦そうな顔をした弟・・・・・

 

・・・しばらくして、すっくと立ちあがる弟。

 

弟は「片手」でテーブルにつかまって歩き出した・・・・「両手」から「片手」になった・・・真っ赤な顔をして・・・・ひょっとして・・・・酔うてるんか・・・??

 

気が大きくなった弟は、そのまま、タタタタタッ!・・・・と、初めて手を離して歩いた。

 

弟が初めて歩いたのは、ビールの酔いに任せてのことやった・・・・笑。

 

 

 

父さんが家にいることは少なかった。・・・なんといっても一度出てしまうと1週間は帰ってこない。

父さんは、ボクの寝ている間に仕事に出かけ、ボクの寝ている間に帰ってきていた。

 

 

・・・・今日は父さんがいる・・・

 

ボクは急いで小学校から帰る。

 

 

 

青いグローブ。

中西の真似、投球フォームで父さんめがけてボールを投げ込んだ。

座った父さんのストライクに吸い込まれていく。

父さんも青いグローブをしていた。

 

ボクの誕生日に、ふたりのグローブを買った。

ボクは、小学生用。

父さんは大人用のを。

同じ色のグローブを買った。

 

コントロールが良かった。それで村のチーム一軍ピッチャーを任された。

 

父さんが家にいるときは必ずキャッチボールをしてくれた。

 

 

・・・・優しい父さんやった。

 

 

「父を愛した」父を憎んだ。

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