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車で連れられていく俺と先輩。
ジークフリートさんは、俺たちをどこへ連れていくつもりだ……?
「先輩、これはいったい……」
「わたしにも分からない」
「マジっすか。でも、なにがあっても俺が守りますよ」
「うん、信じているからね」
そうして走行すること十分ほど。
俺の家からそこそこの距離だが、駅には近い。
「到着いたしました。お嬢様、愁様……ついてきてください」
車から降り、ジークフリートの背を追う。
駅の方へ向かうかと思いきや――違った。別の通路を歩き、マンションの方へ向かっていく。
「先輩、ジークフリートさんはどこへ連れていくつもりなんでしょうか」
「さ、さあ……こんな場所は初めてくるから想像もつかない」
先輩も本当に分からないらしい。
やがて、ジークフリートさんはある場所で足を止めた。……え、マンション?
ポカンとしていると、彼はこちらへ振り向いた。
「ここはセキュリティ厳重な高層マンションです。離れぬようついて来て下さいませ」
「ちょっと、ジークフリート。これはどういうことなの!」
先輩は痺れを切らして、少し怒った口調で言った。
「……では、お教えしましょう。お二人の新居です」
「「へ……!?」」
俺も先輩も顔を見合わせた。
彼の言うことがよく理解できなかったからだ。ジークフリートは、今なんと――?
「もう一度言いましょう。お嬢様と愁様のお部屋です」
「ちょ、マジかよ!!」
「え、ジークフリート、わたし聞いてないよ!?」
「旦那様がご内密に、ということでしたので」
まてまて、あの先輩のお父さん……わざわざお見合い相手を『冒険者ギルド』まで連れてきて、あの事件だったぞ。
とてもじゃないが、歓迎している風には見えなかった。
「お父さん、どうして……」
「お嬢様、旦那様はお二人を見極めていたのです」
「わたしたちを?」
「はい。もう随分前から関係を許そうとしていたようです。ですが、曖昧な関係だと分かるや今朝のような乗り込む形になったのです」
そうか、俺を試していたんだ。
本当の気持ちを知るために。
「そうだったの。……お父さん、分かってくれていたんだ」
「ええ、なのでお詫びに二人の部屋を提供してくださるということでした」
それこんな高層マンションを?
凄いな。
「いいんですか、ジークフリートさん」
「家賃は全て和泉家が負担しますので、ご安心ください」
……えぇ。
この高層マンション、明らかに金持ちが済むような家賃数十万しそうなレベルだなんだが。けど、お詫びというのなら――遠慮する必要はないかな。
あのお父さんの気持ちだからな。
「先輩、俺は……良いと思います。バイトしてお金を貯めるのも大変ですし、せっかくのお父さんからのご好意ですから」
「そうだね。多分、普通に働いていたら、こんないい場所に住めないだろうし」
決まりだ。
俺と先輩は、駅前にある高層マンションで同棲することになった。
* * *
【一週間後】
学校を先輩と共に毎日通い、休みまで全力で過ごした。待ちに待った土曜日を迎え……ついにマンションへ引越しだ。
この事は親父と母さんにも伝えた。
「まさか柚ちゃんと同棲するとはな」
「すまないな、親父」
「まあいいさ。お前の人生だ。好きにしたらいい」
「ありがとう」
親父が荷物の荷運びを手伝ってくれるということで、俺はお願いした。
「なあに、良いってことさ。ただし、バイトは定期的に来るように」
「もちろん、先輩と一緒に来るよ。生活費は自分たちで稼がないとだから」
「多少仕送りはしてやるけどな。さて、出発するか」
冒険者ギルドの前に停まっている車に乗り込み、出発した。
――駅前の高層マンションに到着し、荷物を運んでいく。先輩の方はどうやら、ジークフリートさんやメイドさんたちにやってもらったらしい。金持ちは次元が違うな。
「待っていたよ、愁くん」
「先輩……待っていてくれたんですね」
「うん。今日、愁くんが荷物を運び出すって言っていたし」
「ええ、ついにこの日が来ました。着替えとか必要な物を持ってきたので」
「家電とかはもう設置も完了しているよ。ジークフリートやメイドさんたちがやってくれたから」
もうそこまで進んでいたのか。
ということは俺の荷物を入れたら、ほぼ完了というわけだ。もう先輩との同棲生活も目の前なんだな。
ぜんぜん実感ないけど、でもこれから始まるんだ。
さっそくマンションの中へ。
俺は一週間前に訪れて以来だから、緊張するな。厳重なセキュリティを解除しつつ進んでいく。
かなり広いエレベーターへ乗り込み、ぐんぐん上昇していく。どうやら、最上階は五十階まであるらしい。
「……っと、着きましたね、先輩」
「でもさ~、まさか四十階だなんて思わなかったなあ」
「そうですね、家賃高そうです」
「でも上の階層なら虫とか出にくいだろうし、良いかもね」
「あ~、そう言われていますね。風は強そうですけどね」
「悪天候はちょっと怖いかもね。雷とか」
そんな雑談を交えながら、部屋へ向かった。
この階層は人は住んでいないらしく、ほぼ俺と先輩の貸し切りだった。さすがに借りる人は限られているだろうな。
台車に載せている荷物を運びながら、部屋の前へ。
「先輩、お願いします」
「じゃ、じゃあ……開けるね」
最新のスマホによる開錠システムらしい。最近のはすげぇや。
ガチャっと扉が開き、部屋の中が見えてきた。
「「おぉ……」」
俺も先輩も驚いて声を上げた。
ピカピカの玄関、広い廊下が続いていた。部屋もいくつもあるな。
「めっちゃ綺麗ですね」
「メイドさんたちが掃除してくれていたみたいけど、ダイヤモンドみたいに輝いてる」
「いやぁ、圧巻ですね。これほど綺麗だと汚すのが申し訳ないっす」
「大丈夫だよ。たまにジークフリートとかメイドさんたちが掃除に来てくれるみたい」
「マジっすか!!」
そこまでサービスしてくれるのかよ。すげぇよ、先輩のお父さん。
驚きつつも、俺は荷物を運んでいく。……って、どこの部屋を使えばいいんだ?
「あ、愁くんこっちね」
「は、はい……」
ついていくとリビングに出た。広っ!!
圧倒的な寛ぎ空間が目の前に広がった。
おしゃれなカーペット、大型テレビ、キッチン、ソファ、巨大なぬいぐるみなどなど……とんでもない規模だった。まるで有名人みたいな部屋だな。
ガラス張りで街が望めるぞ……。
「こ、これはビックリだね」
「先輩のお父さん、やりすぎですね。けれど、これは素晴らしい景色です」
青い空がどこまでも続く。
街並みだけではない、海、山の景色も楽しめた。なんて場所を貸してくれたんだ。感謝しかない。
こんな素敵な場所で先輩と同棲生活とか、夢のようだ。
「そうだね、改めてお礼を言っておくよ」
「お願いします」
それから俺は荷物を解いていった。
整理していると先輩はこう言った。
「そういえば、寝室ひとつしかないって」
「へ……」
「わたしと一緒に寝ることになるね~」
「んなッ!?」
「あはは、ドキっとしちゃった?」
「そ、そりゃしますよ!! 先輩と二人きりってことですよね!?」
「うん、そう。夜が楽しみだねえ」
ニヤニヤと先輩は笑う。
うわぁ、なんだか眠れない夜になりそうな予感。
荷物を整理しつつ、ルームツアーもした。部屋は全部で四つ。更に風呂、トイレも。どこの空間も広くて圧迫感が一切なかった。
「先輩、他の部屋空いてますよ?」
「む、愁くんは、わたしと一緒に寝たくないの……?」
ジトッとした目で見られ、俺は慌てた。
「一緒に寝たいです」
「ならいいじゃん。ほら、寝室行こっか」
腕を引っ張られ、寝室へ。
広くてフカフカのベッドがあった。
そこへ押し倒される――俺。
……ちょ、えっ!
「せ、先輩!?」
「愁くん……ずっとこうしたかった」
「ま、まだ昼間っすよ」
「もう“恋人”なんだからいいでしょ」
「そうですけど!」
「誰もいないし、二人きりだから自由だよ」
豹のような先輩は、俺の手を握って覆いかぶさってきた。ハグからキスをされ、包まれていく。……俺はもう頭が真っ白になって、先輩に身を委ねた。
「……っ」
「愁くん、可愛い」
「幸せをくれて、ありがとうございます……先輩」
「わたしも幸せを貰ってばかりだった。だから、これからはお返しするね」
そっと唇を重ね合わせ、愛を確かめあった。
* * *
俺と先輩は『正式』に付き合うようになった。もう“恋人のふり”なんかではない。あの偽りの関係は終わったんだ。
「……先輩、激しかったっす」
「えへへ、がんばりすぎちゃったね」
ベッドの上で息を整える俺と先輩。あのキスから記憶がないが、ハッキリしたことがある。俺はどうやら、童帝を卒業したらしい。
あまりに乱れていたせいで、記憶が曖昧だが。
「もう外、真っ暗ですね」
「ネオンが綺麗だね、ここ」
「ええ、夜景の中で先輩と……シちゃったとか、なんだかロマンティックですね」
「愁くん、はじめてのなのに激しすぎなんだもん」
「そ、そりゃあ……まあ……なんか、すみません」
謝罪の意味も込めて俺は改めて、先輩を抱いた。
「……お腹空いちゃったね」
「そうですね、なにか食べましょう」
ハッスルしすぎて腹も減った。
ちと割高だけど、ウーハーイーツで何か頼むか。
晩飯をネット注文し、配達業者を待った。
その間、先輩は夜景を楽しんでいたが――俺はまた先輩の背中にムラムラしちゃって、背後から襲った。
「しゅ、愁くん……まだやるのぉ!?」
「先輩がいやらしすぎるのがいけないんですよ」
「も、もう……仕方ないなぁ」
ガラス窓に両手をつかせ、俺は先輩と幸せなマッサージをして一時を過ごした。
◆ ◆ ◆
【先輩の卒業前】
もう直ぐで学校が退屈になる。
あれから時間が流れて、先輩の卒業日が迫っていた。あと一日。たった一日しかない。寂しいけれど、でも『同棲』しているから、そこが救いだ。
先輩と共に授業をサボって屋上でイチャイチャする日々。もう他はいらない。先輩がいれば俺は幸せしかない。
夫婦みたいな関係になってから、少し俺と先輩の関係が噂された。けれども、元から付き合っている噂があったおかげか、それほど大事にはらなかった。
そうだった。
俺たちは“恋人のふり”をしていたんだった。
随分と昔の話のように思える。
「もう卒業ですね、先輩」
「心配はないよ、マンションで毎日会えるし」
「そうですけど、やっぱり高校生活が少し楽しくなくなるので」
「うん、わたしもちょっと辛い。けどね、もう直ぐで“大学生”だよ。ちょっと大人になれるかな」
「大学生の先輩かぁ、確かに大人って感じがします。でも、先輩って美人だから……不安が」
「大丈夫だよ。もうわたしは愁くんのモノだもん」
「ああ、そうだ! その前に結婚しちゃいましょう。ほら、前に婚約したじゃないですか」
「そうだったね。前にもらった指輪、今はネックレスにして下げてるよ」
先輩は胸元から、あの指輪を出してくれた。そうか、そうやって大事に見につけてくれていたんだな。嬉しいな。
「ありがとうございます、先輩。……柚」
「愁くん……うん」
俺は改めて指輪を先輩の指に|嵌《は》めた。
先輩が卒業して直ぐ、俺と先輩は籍を入れ――結婚した。
~END~
【あとがき】
ここまでお読みいただき、本当に感謝です。これにて『完結』となります。“恋人のふり”を応援いただき、ありがとうございました。