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――ガチャ――
「やっときた。珍しいじゃん、あんたの方が遅刻なんて。」
薄暗い部屋の扉を開けると、一人の女性が出迎えた。
緩くウェーブがかかった茶色い髪を横で綺麗に纏めている女性。
瞼にはしっかりとブラックのアイライナーが引かれ、彼女の切れ長で二重の瞳を強調している。
そして、チェック柄を基調としたフワフワのミニスカートに、胸元が開いた白いブラウス。
どこからどう見ても、派手なギャル…とは対照的な、クールな口調とくわえた煙草。
「姫菜…ごめん。ちょっと、取り込んでて。」
女性の名前を呼ぶと、私は来ていた上着をハンガーに掛け、側にあった電話をとった。
「すいません…グレープフルーツジュースください。」
馴れた口調で注文をすると、イスに座って息をつく。
周りには、大きなテレビやマイク、タンバリン。
そう、ここはカラオケ。私と姫菜は、私がお休みの日に毎回ここで会っている。
といっても、歌うために来る訳じゃない。この密室なら、誰も聞いていないので、普段言いづらいことも遠慮なく話せるからだ。
おまけに時間も気にしなくていい。
お互い複雑な環境を抱えてる私達にとっては楽園のような空間だ。
「もしかして、また例の屑ママに何か言われたん?」
灰皿にとんとん、とタバコを押し付け問いかける姫菜。
「え……」
「あんたの様子見れば分かる。」
図星を付かれ、さすがだな、と関心をしながらも苦笑いで返す。
ちょうどその時、飲み物が運ばれてきた。
「ん…あの人が遅く帰った父親を愛人と会っていたって私にまた愚痴ってきたからさ。いつもなら聞き流すんだけど、何でか我慢できなくって。人のこと言えないでしょって言っちゃって。」