不老不死を欲しがる理由は、ただひたすらに孤独だからなのだろう。どれだけ仲間がいても、彼女の隣で、何もかもを知る者は誰もいないのだ。今はまだ、重ねた年齢の数も少ないヒルデガルドには、はっきり感じられない。
だが、彼女の埋まらない寂しさは、いつか自分も経験することになるのだろうかと彼女の中に僅かな不安を芽生えさせた。
『良かった。諦めなくて本当に良かった……!』
誰かの泣きそうな声が頭に響く。随分前に、誰かが言っていた。心から大切に想う誰かだったはずなのに、顔がまったく思い出せない。名前も。歯がゆさと苛立ち。封印された記憶が、どういうわけか疼いているのだ。
そして、ヒルデガルドは、その誰かが、もし自分の目の前でいなくなってしまったら、どれほど悲しいだろうと考えた。感覚で分かる、自分の命よりも大切な相手だ。なのに思い出せないことが、腹立たしく思わせると同時に、ヤマヒメも同じような経験を何度も繰り返してきたのかもしれないと思うと、悲しくなった。
「心から慕ってくれる相手がいなくなるのは、寂しいものだよな」
「……ん? おお、わかるか。そりゃあ、その通りよ」
盃を持って酒を飲む仕草をしながら、彼女はフッと笑う。
「共に酒を酌み交わす。そんな永遠が続けばいいと願うのは、わちきだけじゃあねえ。だから欲しいのよ、不老不死のつがいって奴が。……でも、そいつはきっと、わちきと同じか、それ以上の苦痛を重ねさせることになるかもしれねえな」
断られてから、ヤマヒメも祠の下調べをする間に、色々と考え直した。自分が求めたものの正しさや、価値はどれほどのものなのか。相手にどんな苦痛を与えるとも思わず、ただ悪戯に不老不死を得させるなど、ただの暴虐ではないか。
「ま、とにかくよォ。なんにしてもリュウシンって奴は見つけなきゃなんねえから、てめえの追跡能力は頼りにしてるぜ。わちきらは確かに妖力っつう似たモンを持ってるが、探すってのは得意じゃねえんだ、誰も」
「任せてくれればいい。そういうのは得意だ」
ヤマヒメはいつものように豪快に笑って、彼女の肩に手を置く。
「んじゃまあ、帰ってまずはてめえの力を取り戻す方法でも探すとしようじゃねえか。わちきの部屋にあった文献も適当に漁って良いからよ!」
「助かるよ、頼りにさせてもらう」
そうして四人はまた都に戻り、直後からヒルデガルドの宝玉の研究は始まった。ノキマルが後片付けなど家事を済ませて都の巡回に向かい、昼にはヤマヒメとイルネスが狩りに出かけた。夕方、陽が沈んでいる最中も、彼女はずっと研究に没頭し続けた。言葉ひとつ発することもなく、真剣な目をして文献の一文字もとりこぼさないように読み耽り、宝玉に触れては魔力を注いでみたり、ときには軽い衝撃を与えてみたりもするが、結果は芳しいものではなかった。
深夜に誰もが寝静まった頃も変わらず彼女はひたすらに消耗の少ない手段であらゆる魔法を掛けてみたりもしながら、そして翌朝になるまで一睡することなく実験は続き、ヤマヒメが朝食の支度を始めた頃になって、どさりと仰向けに倒れた。
「おう、なんでえ。上手くいかなかったのか?」
「お手上げだ……。何で出来てるのかすら分からん……」
文献にある情報量は最低限のものでしなかった。伝承規模で、過去には神の涙ではなく、人々が神の恩寵と呼んでいて、不思議な力を持った宝玉が何らかの理由で強く輝きを放ち、災厄──ヒルデガルドが調べた限りでは自然災害と推測される──から幾度と救ってくれたとある程度だ。
実際、ヤマヒメが言うのも真実だろう、と結論付けながらも、どうやれば宝玉から力を引き出せるのか? その手段については、過去の人々にもまったく分からなかったようで、欲しかった情報はその断片さえも得られなかった。
「魔力には反応してもうっすら光るだけで、これといって目立った発見もない。何かしらの兆候も感じられないし……。だが君の言葉を信じるなら、間違いなく何か仕掛けのようなものがあるはずなんだ。いや、むしろ私自身も感覚で理解している。でも分からないんだ。いくら触ってみても、魔力の通りも悪い。注いでもすぐに放出されて消滅する。こんな性質をしたものは初めて触るよ」
頭を抱えて机に突っ伏す彼女見て、小皿に分けた煮物をテーブルに並べながら、うーん、とヤマヒメも頭を悩ませた。
「わちきも島全土を調べたわけじゃねえから、できれば散策なりさせてやりてえが、今のてめえらには無理があるしな。わちきも都からそう頻繁に離れらんねえし、まあ、しばらく我慢してくんねえかな」
くまをこさえた目でヒルデガルドは顔をあげて。
「我慢って、何か君には考えがあるのか?」
ヤマヒメは自信満々に腰に手を置いて胸を張り──。
「二年。てめえがそれだけの時間をくれるっていうなら、わちきが島全土の魔物共を駆除して安全を確保したうえで──イルネスの魔核を完璧に修復させてやる。どうだ、悪くねえ案だろ。てめえはどう思う、ヒルデガルド?」
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