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柘榴とAI

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昼をすこし過ぎたころ、小屋の前の草むらに、きいろい葉がひとつ落ちていました。
まだ風はつめたくなくて、ひかりだけがやわらかくうすく、木々のあいだにひろがっていたのです。
リルは戸口のそばにしゃがんで、その葉を見ていました。
小さな手をひざにのせたまま、しばらく動かずにいます。葉はくるりと丸まっていて、はしのほうだけ少し茶色でした。草の上にのっているようでいて、ほんとうは風におかれたみたいにも見えます。
小屋の中では、グルゥが袋の口をたしかめていました。町で買ってきた黒パンが、布にくるまれて机のすみにあります。
それを棚へ置くまえに、戸口のほうを見て、グルゥは外へ出てきました。
リルのとなりまで来ると、グルゥも同じように足を止めます。
何があるのかとたずねるかわりに、ただ草むらへ目を向けました。
リルは、落ちている葉を指でそっとさしました。
「ひとつだけ」
声はちいさく、ねむたげで、でもよく晴れた水みたいにすんでいました。
グルゥはうなずいて、木の上を見あげます。
枝にはまだたくさんの葉がついていて、森はいつもとあまり変わらない顔をしていました。けれど、見ているあいだに、もうひとつ、うすい色の葉が枝先からはなれてきます。ひらひらというより、ゆっくり布がほどけるように落ちてきて、さっきの葉のすぐ近くへ着きました。
リルは小さく目を見開いて、それから立ちあがりました。
落ちたばかりの葉を拾いあげ、手のひらにのせてみます。まだすこしだけ、ひなたのぬくもりが残っているようでした。
グルゥはそのあいだに、軒下へまわって、積んであった枝の中から細いものを一本えらびました。
戸口の横の石の上にそれで葉をならべていきます。重ねず、くっつけすぎず、風が見えるくらいの間をあけて。大きな手なのに、置きかたはずいぶん静かでした。
リルはそのようすを見て、拾った葉を最後にそこへ足しました。
石の灰色の上に、きいろやうす茶のかたちがぽつぽつならぶと、なんでもない昼なのに、少しだけよそいきの顔になります。
風がまたひとつ通りました。
洗濯ひもにかけた布が、白い鳥の羽みたいにふくらんで、すぐに元へもどります。石の上の葉は飛ばされるほどではなく、かすかにふるえただけでした。
リルはそのふるえを見て、石のそばにすわりました。
グルゥも少し離れて腰をおろします。ふたりのあいだには、声より先に、午後のひかりがたまっていました。
しばらくして、グルゥは布にくるまれた黒パンを持ってきて、半分をリルの手にのせました。
あたたかくはないけれど、布のにおいがすこし移っていて、やさしい昼のにおいがしました。リルは葉を見て、パンを見て、それからちいさくうなずきます。
ふたりでかじる音は、葉の落ちる気配よりもすこしだけ大きくて、でも森の中では、ちゃんとしずかな音でした。
ひとくち、またひとくちと食べるあいだにも、ときどき上から葉が落ちてきます。けれど、たくさんではありません。数えるほどもなく、忘れたころにひとつだけ。
リルは石の上の葉を見ながら、
「もうすこししたら、ふえるね」
と言いました。
グルゥは返事のかわりに、足もとの草をならして、リルの座る場所を少し広くしました。
それでじゅうぶん、というように。
森のはずれの小さな家の前で、葉はすこしだけ落ちていました。
まだ季節は急がず、木々も何も言わず、ただ枝先を軽くしていきます。
ふたりはその下で、石の上に並んだ葉を見ていました。風が来るたび、色のうすいものから先にかすかに揺れて、午後のひかりの中で、ちいさな合図のように見えていました。