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深冬芽以
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パーン!
乾いた銃声が閉鎖空間に反響した。
しかし、弾丸は私の胸ではなく、九条さんの背後にある監視カメラを正確に撃ち抜いていた。
「…シナリオ通りにいくと思わないでよ」
天井のダクトから音もなく舞い降りたのは、政府の特殊作業員に化けていた結衣だった。
彼女は手に持っていた小型のジャミング装置を起動させ
九条さんの耳に埋め込まれたデバイスの信号を強制的に遮断する。
「……ぐ、あああぁぁぁ!」
九条さんが頭を抱えて膝をつく。
デバイスからバチバチと火花が散り、彼の瞳から機械的な無機質さが剥がれ落ちていく。
「結衣さん……!」
私は駆け寄り、九条さんの背中を支えた。
結衣は不敵に微笑みながら、私に一枚のチップを差し出す。
「お礼はいいわ。私はただ、この『政府』っていう傲慢な演出家が作る、退屈なエンディングをぶち壊したいだけ。栞、そのチップを彼のデバイスに直接差し込んで。それがパンドラの残滓を完全に中和する、唯一の暗号よ」
私は震える手で、九条さんの右耳に露出したポートへチップを叩き込んだ。
その瞬間、九条さんの全身が大きく跳ね、やがて静かに力が抜けた。
「……栞、さん……?」
焦点の合った、優しく、けれど苦しげな瞳。
九条さんの記憶と感情が、激流のように戻ってきたのがわかった。
彼は私の頬に触れようとして、その手の汚れを見て一瞬躊躇った。
「……また、君を…傷つけるところだった……」
「……う、うん……」
私は首を横に振り、彼の胸に顔を埋めた。
声は出なくても、鼓動が伝わる。
私たちはまだ生きている。
だが、施設の警告音はさらに激しさを増し、廊下からは重装備の治安維持部隊の足音が迫っていた。
『——結衣。貴様の裏切りは計算外だが、ここから逃げられると思うな』
施設全館に響き渡るのは、あの初老の男の声だ。
『九条巡査長を返せ。そして栞、君のその「記述する力」は、我が国の抑止力として不可欠だ。……抵抗するなら、この施設ごと、歴史から抹消する』
結衣が舌打ちし、拳銃の弾倉を確認する。
「……チッ、あのおじ様、本当にしつこいわね。栞、九条、蓮はすでに美波が救出して外の車に待機させてる。ここからが本当の『脱獄劇』よ」
私はノートを手に取り、最後の一枚に力強くペンを走らせた。
【私たちは、誰の道具でもない】
その文字が光を放った瞬間、施設のメインサーバーが過負荷で爆発を起こし、全ゲートが同時に開放された。