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朝食も摂り終えて机とノートに向かって、独り脳内シミュレーションに耽っていた。
まず初めに昨日の演習授業。
授業評価的には、先生が言っていた通りでかなり良かったほうだと思う。
事前準備なしで組んだパーティで、あそこまでやれたのは僕のなかでもかなり胸を張れる結果だったといえる。
でもどうだ、自己評価は――決して自分を称えられる結果じゃなかった。
急な状況への対処方は、本当にあれしかなかったのか……精一杯やった。
それじゃダメなんだ。本当のダンジョンだったら、僕は今頃――。
自己嫌悪に拳に力が入る。
その拳で、自分の太ももを叩こうとしたときだった。扉を軽く三回叩く音が鳴り響いて腕が止まる。
「しのにい、お客さんですよー」
椿の声だ。
急な出来事に、黒く渦巻いていた気持ちはどこかへ飛んでいってしまった。
力がすーっと抜けて、ノートを閉じ扉に向かい手をかけた。
「椿、ありがとう。誰だろう、僕に用事があるって言ってるの?」
「はいそうです。とっても綺麗な人ですよ、しかもとってもいい人な感じでした」
誰だそれ、全くの心当たりがない。間違いなく学校の人ではないはず……だ。
教師の誰かで、|海原《かいはら》先生の代わりに来たとかだろうか?
椿と一緒に階段を降りて玄関に向かうと、そこには誰の姿もなかった。
となると、居間へ案内したということか。
このまま足を止めずに居間へ向かうと……。
「……え、結月……?」
「あ、しーにいっ、お客さんお客さんっ。しーにいも隅に置けないですなぁ」
「あっ志信っ! やっほー、来ちゃったっ」
「来ちゃったって、どうやってきたの?」
「そんなことはいいのいいの。それより、楓ちゃんと椿ちゃん、2人ともかっわいいね~。私の妹になってもらいたいくらい!」
それを聞いた楓と椿は、ソファで跳ねたり走ってはジャンプして喜んだりと、大そうなリアクションをしている。
そして、結月の両隣に着地して腕に抱き着き始めた。
人とのコミュニケーションが得意ではない楓と椿だが、今日は随分と珍しく結月に懐いている。
嫌味なしの真っ直ぐな褒め言葉に心底満足しているのか、それとも雰囲気が守結に似ているからなのか。
「それで、僕に用があるって聞いたんだけど、なにかあった?」
「うーんそれがねー、特に用事があるってわけじゃないんだよねー。なんというか、会いたくなっちゃったというか」
「はい? なにそれ」
「ほおほお、もしかして、お二人は付き合っているということですな?」
「ほおほお、もしかしてのもしかしてですか、本当にお姉ちゃんになっちゃうのですか?」
「いやいや、そんなことはないから、つい昨日初めて会ったばかりだから。そうだじゃあ結月、楓と椿と遊んでてもらってもいいかな? 僕はちょっとやらないといけないことがあるから、席を外させてもらうね」
楓と椿が「はーいはーい」と声を合わせて手を振って返答。
結月は両手を拘束されているからか、振り向いてこず返答はなく微かに「えっ」とだけ聞こえたような気がする。
いち早く試したいことを実践するために、足早に部屋を去って地下の演習場に向かう。
今はちょうど兄貴が1人で練習しているはずだから、アレを試したい――。
――地下演習場の戸を潜ると、予想通りに兄貴が爽やかな汗をかきながら素振りをしていた。
「兄貴、今から試したいことがあるんだけど、いいかな?」
「おっ、志信か。なんだなんだ、また面白いことを思い付いたのか? いいぞ、やろうぜやろうぜ」
「大したことじゃないよ。でも、もしかしたら僕にとっては、面白いことかもしれない」
「ああ、絶対に面白いに決まってる。だって志信、いつもの顔になってるぜ」
僕には自覚がなかった。
兄貴のその言葉に、初めてわかったことがある。
僕は、面白いことがあると自然と口角が上がっているらしい。
「んで、やりたいことってなんだ?」
「うん、まずは――これ」
両手の装備を盾にして、兄貴にみせる。
「ほお、そりゃあまた珍しいスタイルだな」
「うん、ヒントは作戦規模パーティとかの大規模パーティ編成のときに、盾役の人がやるスタイルを参考にしてみた。そして――【スタン】」
相手を気絶状態にする、もしくは気絶状態になりやすくする唯一の攻撃スキル、【スタン】。
それを盾で発動して、右腕を振る――と、微かに白びかりして、スキルの発動を確認。
「おお、すげえなそれ。……ってことは、もしかして?」
「【スタン】――できる……みたいだね」
「おいおい、まじかよそれ。そんなのありなんか!」
「それでね、もう一つ試したいことがあるんだ」
「なんだなんだ、まだあるのか⁉」
「【ブロッキング】、【スタン】」
盾をスキルによって硬化させる。盾を装備できるクラスなら全員が発動できる防御スキル、【ブロッキング】。
【ブロッキング】を左盾で発動、【スタン】を右盾で発動――両方とも微かな白びかりを確認。
そして、この二つのスキルは再使用までに時間を有さないスキルであるから……。
「こりゃあたまげたな。まじかよ、ははぁーーーー」
「まさか、本当にできるとは思ってなかった。僕も、正直今でも信じられない」
「はっはっは、こんなの学校じゃ絶対教わらないだろうしな。なんなら、どんな本にも載ってないんじゃないのか?」
「うん……僕が目を通したことのある本には、間違いなく載ってなかった」
「なるほどなぁ……んで、俺を頼るってことは、そういうことだよな?」
「話が早くて助かるよ」
「よっしゃあ――じゃあ、やるかっ!」