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第73話:地獄の税務相談〜3Dステージで叫ぶ青色申告と、加速する三十万人の熱狂〜
「……ひっ、ひぃぃ……っ! 自腹……。腰の治療費、全部自腹かよォォ……!!」
港区の最新鋭スタジオ。まばゆい照明の下で、俺は黒タイツ(モーションキャプチャースーツ)姿のまま、無様に床を這いつくばっていた。
同接二十五万人という、スタプロ史上でも稀に見る大観衆が、この『四十歳のおっさんがぎっくり腰で労災を否定される瞬間』を、高画質な3D映像で目撃している。
画面の中の超絶イケメンアバター・ルシフェルも、俺の激痛を完璧にトレースし、床に顔を押し付けたまま絶望に震えていた。
『和尚、ガチ泣きしてて草』
『イケメンが床で労災を叫ぶ地獄絵図www』
『これが令和のVTuberの最先端か……』
『スパチャ:30,000円(これでブロック注射打ってきて!!)』
「だからぁ……っ! 投げるなって言ってんだろ……ッ!!」
俺は痛む腰を必死にかばいながら、マイクに向かって呻いた。
「お前らが『治療費だ』って言って投げるその金……! 税法上はただの【事業所得】なんだよ……! つまり、俺の財布に入る前に、所得税と住民税と消費税がハイエナみたいに群がって、俺の腰の痛みなんて一ミリも癒やしてくれないんだよォォォ!!」
『あははははっ!』
アリスが隣で膝をつき、腹を抱えて笑い転げている。
『ルシフェルさん……っ、最高ですっ! ぎっくり腰で倒れながら税法の解説するなんて、さすが【ルシフェル和尚】ですよ!』
「最高じゃねえ! こっちは、来年払う税金の額を想像しただけで、腰の痛みとは別の吐き気がしてんだよ……っ!」
俺の視界がチカチカする。
スタジオのオペレータールームでは、神崎プロデューサーが狂ったようにインカムで指示を飛ばしているのが、防音ガラス越しに見える。
おそらく「このまま配信を続けろ」という悪魔の指示だろう。港区の連中は、おじさんの命(腰)をなんだと思っているんだ。
だが、チャット欄の勢いは加速する一方だった。
『スパチャ:10,000円(和尚! 節税! 節税を教えてくれ!!)』
『スパチャ:5,000円(腰痛を経費にする方法はありませんか!?)』
『和尚、少しでも手取り増やす方法ないの!?ww』
殺到する「税金の質問」。
俺は、床に這いつくばったまま、脳内の『確定申告ダンジョン』の記憶を呼び起こした。
底辺を生き抜くために必死で勉強した、あの孤独な戦いの記憶。
「……いいか、お前ら……。地獄の個人事業主が、この国で唯一、国から許された【合法的な武器】がある……」
俺の声が、不気味に低くなった。
画面の中の超絶イケメンアバターも、暗いステージの床で、瞳だけを鋭く光らせる。
「……それは、【青色申告】だ」
『おおおおおっ!?』
『始まったwww』
『3Dステージで青色申告の講義ww』
「いいか……。一定の要件を満たせば、数十万円を所得から引くことができる……。これは、俺たち底辺にとっての『聖域』だ。だがな、お前ら……。この聖域に踏み込むためには、守らなきゃならない【鉄の掟】があるんだ……ッ!」
俺は痛みに悶え、震える右手を虚空に伸ばした。
「いいか! 令和の時代、ただ『青色』ってだけで満足してちゃダメなんだ! 最大の恩恵を毟り取るためには……っ! 電子の海に、魂を売らなきゃなんねえんだよォォォ!!」
俺の絶叫と共に、チャット欄の「滝」がさらに加速した。
【260,000人突破!!】の通知が、モニターの端で爆発した。
もはや、アイドルのコラボ配信ではない。
これは、港区の最新鋭スタジオを占拠した、四十歳のおっさんによる「公開税務セミナー」だった。
俺は床に這いつくばったまま、酸素を求めて喘ぎ、そして全世界に向けて叫び続けた。
ゆうき あきや
1,642
厚揚げ衣
20
なんたろ
1
いちご@ホロオタ×ぴちりす
295
コメント
1件
いやもう、さっきまで同接25万人の3Dステージでぎっくり腰のまま青色申告叫んでるのおかしすぎるだろww 「治療費スパチャ」に「税金の質問」殺到で、アイドルコラボが秒で公開税務セミナーと化す展開、最高に刺さったわ。ルシフェル和尚の絶望と熱量が画面越しにビリビリ来るし、確かにこれ、令和のVTuberの最先端だわ…。