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「おはよー!」
「おはよー」
助(たすけ)と遊(ゆう)が朝、下駄箱前で合流する。
そこにブルルン。ドッドッドッドッ。とバイクの音が。2人とも振り返る。
「遊ー助ー」
ヘルメットの男が手を振る。
「おぉ。覆面犯が手ー振ってらー」
司がバイクから降りて、ヘルメットを取る。幸もバイクを停めて、ヘルメットを取る。
相変わらず女子生徒の視線を独り占めにする幸。
「相変わらず綺麗な顔で」
「ほんとな」
「では、いってらっしゃいませ。お坊っちゃま」
「うん。いってくる!」
助と遊に合流する司。
「さて、帰るか」
バイクを振り返ると美音がいた。
「あ、狐園寺様。おはようございます」
「おはよ。…堅苦しいな」
「仕方ありません。公共の場です」
周囲に聞こえないように小声で話す2人。
「とか言って、家でも堅苦しいんでしょ」
「まあ…それが仕事ですからね。あ、でも昨日家の中で追いかけっこしましたね」
美音は幸をジーっと見て
「…嘘つけ」
と言った。そう言った美音をジーっと見て
「…嘘じゃないです」
と言う幸。
「嘘つけ」
「本当です」
「嘘だね」
「ほんと」
「嘘」
「ほんと」
「嘘」
「嘘」
「ほんと」
「そ。ほんと」
「え?」
ニヤァ〜っと笑う幸。
「くそっ。腹立つ」
「狐園寺家の者がはしたない言葉を使ってはなりませぬよ。オホホ」
「バイク蹴るよ?」
「あ、それは本当にやめて。ローファーマジで傷つくから」
「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
と頭を下げる幸。その後ろから
「いってらっしゃいませ」
と声が聞こえた。バッっと振り返る幸。お辞儀から顔を上げる帆歌。
「忍者か」
「なにがー?」
「はぁ〜…。帰るわ」
「ひさしぶりに会ったのに。この後どうせ暇でしょ?お昼でも食べに行こうよ」
「帰って寝るから暇じゃない」
「暇じゃん」
「…昨日撮れたUFOの写真の解析とか、窃盗事件の密室の謎解明とか忙しい」
と司しか騙せない嘘をつくと
「ふぅ〜ん?そうなんだ?」
とただ笑顔で聞く帆歌。「嘘」と疑ったり
「忙しいんだね」と信じたりする様子もなく、ただニコニコと笑っている。
「…。あぁ!わかった!」
帆歌の無言の圧力に負ける幸。
「昼13時。LIMEしろ。あ、電話のほうがいい。それまでは寝てるからな!」
急いでバイクに跨ってヘルメットを被り、エンジンを吹かせて、颯爽と去っていく幸。
その2人の様子を見た女子生徒は
「彼女さんかなぁ〜」
「白樺に来るくらいだから許嫁かもよ」
「彼女さんもおっとり系で可愛い」
と噂立てられていた。当の本人はというと
「幸くんどうしたんだろ。密室の謎教えてほしかったのに」
と疑っていないようだった。帆歌も美音を乗せてきた車で帰った。
ガレージにバイクを停め、家に入る幸。
「あの笑顔。ほんとなんでもお見通しの感じ」
ただ幸の嘘が雑なだけである。執事の服を脱いで、下着のパンツ1丁となる。ベランダで1本タバコを吸う。
「小学生のときからそうだったな…」
タバコの煙を吐き出しながら思い出す。それは幸と帆歌が小学4年生のときのこと。
夏休みの宿題を一切やっておらず、しかし先生に提出を求められ、小学生の必殺技
「やってきたけど家に忘れました」
を幸も発動させたのだ。もちろん幸の他にも宿題を忘れた生徒はいて
中には本当にただ忘れただけの生徒もいるだろうが、決まって必殺技を発動させていた。先生は
「じゃあ明日持ってきなさい」
と言って、その圧力に耐えられず
「嘘です。やってません」
という生徒が続出するほど圧の強い先生だった。
しかし幸はその圧にも屈せず嘘を貫いていた。しかし席に戻ると隣の席の帆歌が
「家に忘れたんだ?大変だったね」
と笑顔で言った。
「お、おう…」
その笑顔を見ていると、なにもかも見透かされている気持ちとなり、結局先生のところに戻って
「ごめんなさい。嘘ついてました。やってません」
と自首したのだった。それは中学でも、そして高校でも。噂で広まる「誰誰が誰誰を好きらしい」という話。
大抵本人に聞けばその動揺でわかったりするのだが、その役は帆歌と幸の役になっていた。
「幸くん幸くん」
「ん?」
「聞きたいんだけどさ」
「授業?なら胸張って言える。1ミリもわからん」
「違うよ。授業のこと幸くんに聞くことなんてないよ」
しれっととてつもない刃で斬りつける帆歌。
「じゃあなに」
「あのさ、加藤くんって奈々のこと好きってほんと?」
「あぁ〜。その噂ね。残念ながら嘘です」
「へぇ〜?そうなんだ?」
ニコニコした笑顔でただ幸を見る帆歌。
「…。はぁ〜…。これオレから聞いたって言うなよ?」
と結局帆歌に打ち負け、真実を話し、それが女子の間で広まるのだった。
「ふぅ〜…。少ない時間だけどベッドで寝るか」
灰皿にタバコを押し付け、火種を消す幸。
ベランダのスライドドアを閉め、部屋に行って下着のパンツ1丁でベッドに寝転がる。
電話の音が聞こえるように枕元にスマホを置いて眠りについた。帆歌も帆歌でベッドで眠っていた。
「えぇ〜。今日から徐々に授業が本格化していきます。頑張ってください。以上!」
担任の先生、雀永(じゃくなが)先生のホームルームが終わった。
「授業嫌やぁ〜」
遊がイスの背もたれにもたれかかる。
「たしかにな」
「司は勉強好きそうだよね」
「好きー…でもないけどね?嫌いでもないかな」
「オレは無理。遊ぶことだけで精一杯」
全員タブレットを用意する。
「遊ん家(ち)はなにしてんの?」
「んー?うちは遊園地ー」
「へぇ!すごっ。あぁ。だから名前が遊なのか」
「関係あんのかね」
「助の家はなにしてるの?」
「うち?うちは2人とも弁護士」
「マジ!?ヤバス」
「すごいね!」
「じゃあ勉強そんな嫌いじゃないじゃんかよ」
「まあー…たしかに?割と得意な方かも」
「オー、ジーザス!」
また背もたれにもたれかかる遊。1時間目の授業の先生が入ってきて授業が始まる。
…
いつも通り屋上で授業をサボる幸。ただのクリームパンとただのカフェオレ。
なんの変哲もないクリームパンやカフェオレも、今他のみんなは真面目に授業を受けているのだと考えると
背徳感という極上スパイスにより、とてつもなく美味しく感じる
「気がする」
カフェオレを飲む。
「ふぅ〜…」
パンを1つ食べて寝転がる。制服のジャケットを畳んで枕にしているとはいえ
やはり背中には硬いコンクリート、頭にも少し硬い感覚がある。
寝転がっていてもさほど心地いいものではない。
しかし誰もいない静かな屋上で、青い空に流れる雲を眺めるのもいいものである。
そんなことを思っていると視界の上のほうからスッっと顔が出てくる。
「よっ」
帆歌である。
「…空見えん」
「あぁ、ごめんごめん」
寝ている幸の横に座る帆歌。
「クリームパン好きだねぇ〜」
「ま、さすがに飽きてきたけどな」
「1個もらってい?」
無言で手で「どうぞ」とする。
「てかなにしてん。帆歌も授業中だろ」
「んん〜、そーだけど、それ幸くんが言う?」
「…」
なにも言えない幸。
「ん!美味し!」
「うまいよな〜」
「カフェオレも1口」
という帆歌に対して
え。間接キ…マジで言ってんのこいつ
と思う幸だったが
「全部飲むなよ」
とオーケーした。
「ありがと」
パックのカフェオレ。ストローからカフェオレを吸う帆歌。
「んん!美味しー」
なぜかこの背徳的な美味しさを共有できて嬉しくて、帆歌に顔を背けて口元が緩む幸。
「で?真面目な帆歌様がなんでおサボり?」
「あぁ、それね。いや、聞きたいことがあってさ」
帆歌がこう言うときは大概誰が誰のこと好きってのは本当か否かという話である。
「誰の噂?」
「誰…そうね」
?と思う幸。青空に流れる雲も「?」に見えてきた。
「幸くん」
「ん?」
「だから、“幸くん”」
「はい。なんですか」
「違くて。幸くんの噂」
「…あぁ、そーゆーことか。え、待って。オレの噂とか流れてんの?」
「…まあ」
「え。オレ人の話聞くだけで誰にも話したことねぇけど」
「話したことないってことはいるんだ?好きな人」
ついさっきの自分の発言を思い出す幸。
「あぁ〜…いや、いません」
急に敬語になる幸。
「へぇ〜?」
笑顔の帆歌。どうせあの笑顔だろと思って変わらず青空を見る幸。
「…ちなみに、ちなみによ?別にどうでもいいけど、オレ誰のこと好きって噂流れてんの?」
どうでもよくないやつである。気になりつつも青空を見ながら帆歌の返事を待つ。
すると視界の右側からスッっと帆歌の顔が入ってきた。
重力で髪が垂れ下がって、シャンプーの良い香りがして、不覚にもドキッっとする幸。
「なに」
「私」
「は?」
「幸くんが好きっていう噂流れてんの、私」
「…。は!?」
笑顔の帆歌。でもいつもの笑顔ではなく、どこか少し照れ臭さそうな笑顔。
「どうなの?」
「どっ、どうなのって…。なわけねぇだろ」
帆歌の目から目を逸らす幸。
「ふぅ〜ん?」
相変わらずの笑顔。チラッっと帆歌の顔を見る幸。すぐ逸らす。
「…ほんと?」
「は?」
帆歌は笑顔ではなくなっていた。真剣な顔。その顔にいろんな意味でドキッっとする幸。
「いや…」
帆歌の顔が迫って来る。帆歌の髪が幸の顔に触れる。
「なにして…」
帆歌の息が幸に、幸の息が帆歌にかかるほど近い。帆歌が目を瞑る。唇と唇が触れそうになった瞬間
「はっ!」
目が覚めた。幸の心臓はドキドキいっている。
「…」
いつもの家。司と2人で暮らしている家の幸の部屋のベッド。
自分はもう20歳(ハタチ)を越えている。高校生ではない。しかも高校生のときもそんな思い出はない。
たしかに幸は授業をサボって屋上でパンを食べていたが
帆歌は至って真面目な生徒だったので、授業をサボって屋上に、なんてことはなかった。
「あぁ、寝過ぎて
起こしにきてくれたことはあったな」
そんなことを思っているとスマホが鳴る。帆歌からのLIMEの無料通話である。切る。
そしてトーク画面に行って
幸「大丈夫。起きてる」
と送った。帆歌は
「いや、出てよ」
と呟いていた。帆歌はすでに出発準備を完了していた。幸はこれから準備。歯を磨いて顔を洗う。
「ま、テキトーな服でいいよな」
と言いつつも服装を迷う幸。テキトーな服でいいかと言った人とは思えない
洗い流さないトリートメントをつけて櫛で髪をとかす幸。お団子を結う幸。
長袖のTシャツを腕まくりし
「スマホ良し、財布良し…」
財布の中を確認する。5万円ちょっと。
「良し」
残金良し。
「よし。行くか」
玄関へ行き、靴を履いて待ち合わせ場所へ。帆歌が待ち合わせ場所で待っていると
「ん?ヤンキーかな?」
幸が現れた。幸は帆歌を見つけると軽く手を挙げる。帆歌もそれに応じて手を挙げる。
帆歌も幸もワイヤレスイヤホンを外して、しまう。
「待たせた」
「ううん。大丈夫」
「どこ行くん?」
「決めてない」
「…決めとけよ」
幸は変な夢を見てしまったため、どこか真っ直ぐと帆歌を見れないし
いつも通りに喋れていない気がした。帆歌がスマホを出す。
「幸くんなに食べたい?」
「ん?んん〜…パスタ。カジュアルなイタリアンとかどお?」
「お。いいじゃん。”カジュアルな”ね」
「そ。”カジュアルな”」
帆歌が“カジュアルな”イタリアンを探してそこへ向かった。お店に入って店員さんに席に案内される。
「いい感じ」
「でしょ?」
「ガチガチのイタリアンとか苦手なんだよね」
「わかるわかる」
それぞれメニューを見ながら食べたいものを発掘する。
「しかもリーズナブルじゃん」
果たしてパスタ1皿が1,800円がリーズナブルかは置いといて。
「幸くん普段野菜食べてる?」
「食べて」
「る」と言おうとして帆歌の顔を見る幸。
帆歌は「ん?」みたいな顔をしていたが、幸は全部見透かされている気がして
「ません」
と正直に言った。幸は
あ、もう今日は正直にいこう
と思うのであった。
「じゃあサラダも注文して。…私はどうしよっかな」
幸はドリンクの欄を眺める。
「うわっ。ビール飲みた」
「そっか。すぐお迎えか」
「帆歌もな」
「そうだね」
帆歌が悩む。
「パンとコーンスープのセットにしよ。食べれなかったら幸くん食べてくれる?」
「…別にいいけど。食べれないことないだろ」
「なにそれ。どーゆー意味ですかー?」
「…オレ、飲み物はジンジャーファイトでいいかなぁ〜」
話を逸らした幸。注文をする。注文を終えて少し話をする。
「司くんも美音ちゃんも、もう高校生だよ」
「なー。オレらが高校生でもまだ小学生だったのにな」
「早いね」
「早い」
飲み物が届く。
「それじゃ。アルコールじゃないし、お昼だけど」
帆歌がオレンジジュースの入ったグラスを持つ。
「おう」
幸もジンジャーファイトの入ったグラスを持つ。軽くグラスを上げる。
「乾杯」
「乾杯」
グラスはあてない。カキンッやコキンッっというグラスのあたる音が聞こえないのは少し寂しくもあるが
本来、乾杯というのはこういうものらしい。幸も帆歌も飲み物を飲む。
「っ…はぁ〜…。ビールならなお良し」
「たしかに」
「ここってタバコは〜…」
テーブルの上を見る。灰皿はなし。
それどころかテーブルの上に「店内全面禁煙」というマークのプレートが置いてあった。
「禁煙でーす。残念」
「ほんと残念」
「ていうかイタリアンはだいたい禁煙でしょ」
「ま、そうよなぁ〜」
「タバコやめなー?」
「もう癖付いちゃってるからなぁ〜。高いZippoも買っちゃったしなぁ〜」
「いくら?」
「20」
「マジ!?」
「あの…海外の有名なネコとカナリアのカートゥーンあるじゃん?」
「はいはい。私もよく見てた」
「あのZippoがあってさ。それが20だった」
「高すぎ。騙されてんじゃないの?」
「いや、ちゃんとしたとこで買ったから」
「見せて」
ポケットからタバコの箱を取り出し、中からZippoを取り出し、帆歌に手渡す。
「わー。かわいー」
「だろ?」
「でも、これが20万円?」
「…後悔はしてません」
帆歌は彫られた世界一有名と言っても過言ではないネコとカナリアの溝を爪で掘る。
「I tawt I taw a puddy tat.」
「Pretty catだろ?」
「まだ子どもで舌っ足らずだからpuddy tatなの」
「オレより帆歌のほうが好きじゃん。あげようか?それ」
「…いや、高いし、いい。そもそもタバコ吸わないから意味ないし」
「…そ?ま、オレもあげるって言った手前、20だしなぁ〜とは思ってたけど」
「ま、コレクターとか熱心なファンはタバコ吸わなくても買うかもだけどね」
と言いながら幸にZippoを返す帆歌。そんな話をしていると
「お待たせいたしました」
と料理が届いた。
「美味しそー」
「いい匂い」
「ほい」
帆歌がフォークとスプーンを渡してくれた。
「おう。さんきゅ」
「いただきます」
「いただきます」
食べる。
「ん。うまっ」
「んん!パンも美味しいよ」
「へぇ〜。司と来よ」
「美音ちゃんと来よ」
それぞれ食べ進める。結局帆歌がパンを残すことはなかった。
「デザートデザート」
「お。いいね。オレも食べよ」
「じゃあ私ティラミス」
「オレはー…カルーアミルクジェラートかな」
「カルーアってお酒じゃん」
「大丈夫でしょ。こんくらい。アルコールなら注意書き書いてあるっしょ」
と言ったものの心配だった帆歌は注文の際、店員さんに
「これカルーアって書いてありますけど、アルコール的には大丈夫なんですか?」
と聞くと
「リキュールのフレーバー程度のものですので、アレルギーということでなければ運転にも支障はないと」
とのことだったので頼んだ。
「んん。上品」
「あぁ〜、こっちも上品だわ」
「アルコール感は?」
と尋ねられ、幸はジェラートをもう1口口に入れ、よく味わう。
「んん〜…ビックリするほどないね」
「一口」
と言われ、昼に見た夢がフラッシュバックする。
「マジ?」
「…マぁ〜…ジ…かな?」
帆歌の歯切れの悪さに「?」と思いながらも、ジェラートのお皿を帆歌のほうへ押す幸。
「ありがと。ティラミス食べる?」
「…いや、いいや。ありがと」
「そ?じゃあ」
帆歌がスプーンでジェラートを掬い
「いただきます」
とパクンと口へ運んだ。
「あ!うん!うんうん!美味しい」
「美味しいのよ」
「アルコール感もない」
「な。でもカルーアの濃厚さもあるよな」
「あるある。カルーアミルク…飲みたくなってきた」
「たまに飲みたくなるよな」
「ありがと」
ジェラートが幸の元へ返ってくる。幸がスプーンを持つ。夢を思い出す。
スプーンの鏡面に近づいてくる帆歌が写っている。気がした。帆歌を見る。
「あぁ〜。たしかにカルーアの濃厚さあるのかも。ティラミスが軽く感じる」
と言っていた。
「あ、そお?」
と言いながらジェラートを掬う。
「ふぅ〜…」
鼻から息を吐き出し、パクンと口に入れた。その後もなんてことない話をしながらデザートを食べ
お店を出る前に帆歌がお手洗いへ立った。幸はその間にお会計を済ませる。
帆歌が帰ってきて、幸もお手洗いへ立つ。
帆歌はその間にお会計を済ませようとしたが、伝票がなく、幸が済ませたのだと悟った。幸が帰ってくる。
「幸くん、お会計済ませてくれたんだ。いくらだった?」
「ん?帰ろ」
お店の人に
「ありがとうございました。美味しかったです」
と言って2人でお店を出た。
「いくらだった?」
「いいいい」
「でも」
「じゃ、次回は割り勘な」
「うん!」
とことこと歩く。
「次どうする?」
「一旦。一旦吸わせて」
喫煙できるところへ行ってタバコを1本吸った。
「ワック(ワク・デイジーの略称)でも行く?」
「ん?いいよ」
2人でワク・デイジーに向かって、タッチパネルで注文して、そこは帆歌がまとめて払った。
プレートを持って席を探し、イスに座る。
「今日から授業らしいね」
「らしいね」
「覚えてる?私たちが高校生のときの初めての授業」
「覚えてるわけ」
「ないよね」
頷きながら飲み物を飲む幸。
「最初はー…簡単だった気がする。授業って授業はー…ま、あったかもな」
「最初はあれかな?先生の自己紹介とかどーゆーことをしていきます。的な話」
「じゃん?」
「白樺の授業ってどんな感じなんだろ。教科書はタブレットってことは聞いたけど」
「時代変わったよなぁ〜。ま、コーミヤ(黄葉ノ宮高校の略称)は今も紙の教科書だろうけど」
「だろうね。コーミヤ…懐かしいなぁ〜」
「てかずっと疑問だったんだけどさ」
「ん?」
「帆歌なんでコーミヤにしたの?もっと上も目指せたろ」
「あぁ〜…ほら笑真(エマ)ちゃんがコーミヤ行くって行ったから」
「あぁ。榊田か。あいつ今なにしてんの?」
「今?今美容師見習いだって」
「へぇ〜。専門行ったんだ?」
「そ。今年卒業したばっか」
「留年したん?」
「らしいね」
「はっ」
笑ったのか、なんなのかわからない声を出す幸。
「幸くんが言う?中退のくせに」
幸は素知らぬ顔をする。
その後もSサイズのフライドポテトと飲み物を時間をかけて食べて飲んで、気づけばそろそろ時間となった。
「んじゃ、そろそろ行くか」
「だね」
ゴミをゴミ箱へ捨ててワク・デイジーを出る。幸は帆歌を送る。途中でそれに気づいて
「いいよ。帰って準備しないとでしょ」
「こっち側来んのひさしぶりだわ」
「…。狐園寺家来るのひさしぶり?」
「行かないけどね?ま、外観すら見てないね」
そんな話をしていると明らかに狐園寺家の敷地が始まる。
「あぁ〜。この囲いね。The 日本家屋って家だもんね。この囲いお城とヤ○ザの家でしか見たことないもん」
「ちょっとやめてよ。めっちゃ怒られるよ」
「聞いてないからへーきだよ」
ペチペチ囲いを触る幸。
「帆歌は?帆歌も鴨条院の家最近見てないでしょ」
「ううん?私はずっと見てる」
「え…激怖じゃん」
引く幸。
「違う!違うから!」
必死の否定の帆歌。
「車で美音ちゃんを送った後、そこら辺クルッっとして帰るから、だからそのときに通ってる」
「あぁ〜。じゃあ、オレより見てるかもな」
「たしかに」
いかにもの門の前に来た。
「うおっ。こんな威圧感ある門だっけ」
「威圧感…あるかな?」
「んじゃ。また後で」
「うん!また!あ、今日はありがとね」
「ん」
「また行こうね!」
「考えとくー」
と言いながら帰る幸の背中を見ながら笑う帆歌。
帆歌は門を開けて、狐園寺家の敷地内に入って、敷石の道を歩きながら
幸はワイヤレスイヤホンを耳に入れ、音楽を聴きながら帰り道を歩きながら
昼変な夢見ちゃったから不自然な感じになっちゃったかな。大丈夫だったかな
と思った。2人とも家に帰り、帆歌はちゃんと執事の服に着替え
幸は私服のままバイクに跨り、司を迎えに行った。
「あ、幸くん!」
「お、執事さん」
「私服でもカッケーなー」
「それな」
「ほんとだ。私服だ。珍しい」
帆歌も車で来て
「お嬢様。お疲れ様です」
と美音を迎えた。
「じゃ、美音。また明日ー」
「美音ちゃんまた明日」
光と栗夢が美音に手を振る。
「鷺崎くん珍しく私服ね」
「あ、そうですね。ふふっ」
つい笑う帆歌。
「どーしたの?」
「いえ。昼幸くんとお昼を食べに行ったので、時間間に合わなかったんだなって」
「…嘘」
「え?」
「だってこないだ鷺崎くん、帆歌の名前出した瞬間いなくなってたもん。そんな仲良いわけないじゃない」
「いや、まあ…」
そもそも仲良いとか悪いとかでは…ないか?と思う帆歌。
「じゃ、車出します。動きます」
「あ、そうだ。今度さ、さっきの2人、家に呼ぶから」
「あ、そうなんですね」
という話をしながら家に帰った。相変わらず女子の視線を釘付けにする幸。
「ねえ、あの人、今日は私服だよ」
「ほんとだ。レアじゃん」
「私服もおしゃれ〜」
「大人っぽいね」
「えぇ〜?逆に青年感ない?」
「お坊っちゃま。お疲れ様です。すいません。こんな格好で」
「ううん」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
ビシッっと頭を下げる助と遊。
「やめてくださいお2人とも。お2人こそお疲れ様です」
「じゃ、助、遊。また明日ね」
「おう!」
「うん。また明日ね」
司がヘルメットを被る。幸は
「それでは失礼します」
と助と遊に軽く頭を下げてからヘルメットを被り、エンジンを吹かせて家に帰った。家に帰り、着替えた後
「そうだ幸くん」
「はい?」
「今日はなんで私服だったの?あ、全然いいんだけどさ。珍しいし」
と質問した。
「…ちょっと探偵の仕事の手伝いで。ターゲットの尾行をするために。執事の服だと目立ってしまうので」
とお得意の嘘で返した。
「へぇ〜。すごいね。探偵のお友達?」
引っかかるとこはそこではないと思うが、相変わらず素直すぎる司。
「あ、そうですね。あ、今日、初の授業でしたよね?どうでした?」
「あ、うん。ま、今日はそんな授業って授業はしなくてさ?」
と幸と帆歌はいつもと少し違う1日を
司や美音、栗夢、助、光、遊は初の授業があったものの、いつもと変わらぬ1日を過ごした。