「先輩はなんでいつもそう気怠そうに本読んでるですか?」
放課後ーー
本棚、教室机が4つ、椅子2つ、皮が所々破けたボロボロのソファー、床に乱雑に散らばっている本。
目の前にはいつもの殺風景な部室が拡がっている。そして俺以外には先輩しかいないのもいつものことだ。
「キミは見た目も推理小説で最初に殺されそうな誰にも記憶に残らないような様(さま)なのに、口から出る言葉までもどうでもいいことを言うんだね」
皮のソファーで片足を組みながら、視線を手に持つ本からそらすことなくため息まじりに先輩は言った。
グレーのセーターはだるだるに伸ばし、シャツは胸元のボタンを2つ開け、リボンはだらしなく垂れ下がり、スカートはもう中身を見てくださいと主張しているくらいまで短く折りたたんでいる。
校則は周辺の高校に比べ厳しいほうではあるが、そんな事など一切自分には関係ないと言わんばかりだ。
「貴重な部員の俺に随分な言いようですね」
「それは間違った認識だよ。キミを部員だと認識したことはないし、実際キミが居なくてもココは維持できる。顧問の何某の弱みを握ってるからね」
「え、弱みってなんすか」
「別に隠すことではないけれど、聞いたらキミは私を軽蔑するかもしれないよ」
黒髪ロングで顔のパーツは黄金比が如く整っていて、肌は陶器のように白く艶やかで深窓の美女と評価できる見た目をしてるのに、相変わらず言動はそれに比例しない。
「じゃあ聞かないことにしますね。聞いたら俺まで共犯者になりそう」
「誘惑して私の下着をスマホで取らせて、その様子を私のスマホで撮影した」
あっけらかんと凄いことを暴露する。
「えげつない脅迫の仕方しますね。っていうか言わないで下さいよ。聞かないって言ったのに!」
大きく開けた胸元から見えているそれに一瞬でも視線を向けてしまった自分も同罪になるんだろうか。慌てて向かい合った椅子から立ち上がってしまった。
「キミの反応を見たくなってね。ダメと言われるとしたくなるのが人の性でしょ?」
と言いつつ、視線は本から離さないから興味は本当は無いんだろう。自分の罪もバレてないからそれはそれでよかったが。
とりあえず、これ以上罪を重ねないように、先輩の後方にある本棚へ本を探すふりをしよう。
「ところでキミ」
本棚で物色していると、また話しかけられた。
「【ほどほどに愛しなさい。長続きする恋はそういう恋だよ】というシェイクスピアの言をどう思う?」
「へ?」
「私は恋愛に全く興味がないんだけど、これは矛盾してると思うんだよ」
「俺も先輩からそんな言葉がでるなんて気持ち悪いです」
俺が言い終わるやいなや、すくっと先輩は立ち上がり初めて視線を俺に向けてきた。
「それでキミは恋したことがあるの?経験則からの見解を聞きたいんだけど」
ただ無造作に立っているだけなのに、その立ち姿は綺麗と言う他なく真っ直ぐ見つめてくるその目は吸い込まれそうなくらい魅力的だ。
「どう思うと言われても……ちょっと分かんないですね」
「中途半端な愛情では恋愛感情を継続出来ないはずなのに、過剰な愛情が愛を壊してしまうというのはなぜ?」
「なんで急にそんな事気になってるんですか?先輩らしくないですね」
「もしかして、キミも恋愛感情もったことは無いの?」
「もしかして先輩、恋したいんですか?」
はぁ、と大きなため息を着き、呆れ顔で振り返り先輩はソファーへ座り直した。
「シェイクスピアの意図が知りたかっただけ」
そう言うと、先輩はまた本を読み出した。
自分でも何故そうしたのか、思い返してもその時の気持ちは分からないが、俺は先輩の元へ近寄りこう言った。
「先輩、それなら俺と恋愛してみます?」
その時の先輩の顔は俯いていて全部は見えなかったけど、長い黒髪からちらりと見える頬はほんの少し赤くなっているように見えた。
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