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雷のゴロゴロした音が響いていたけど、そこまで怯えずにすんだのは彼のおかげのようで少し悔しい。
次の日の朝、妹さんではなく妹さんの旦那さんが作ったタッパの中身を温め、ご飯を炊いて、特に私が作るものがないことに気づいた。
なのでバナナと適当な野菜と蜂蜜、氷を入れてスムージーを作った。
氷は、触感が好きなので私の独断で入れているだけだけど。
「なんか、明日リベンジする」
「え?」
わざわざネクタイの裾を胸ポケットに入れて、スムージーの写メを撮っていた彼が嬉しそうに私を見た。
「明日も作ってくれるの?」
「流石にスムージーだけじゃ、料理できる人とは言えないし。でも朝からこのおかずは多すぎる。お弁当に詰めようかな」
「お弁当も?」
お弁当は自分のものだけを言ったつもりだったのに、彼の目から期待に満ちたキラキラ光線を受信してしまった。
「お弁当箱を用意したら作ってもいい」
「じゃあ華怜の休みの日に、この家に足りないものを揃えに行こう」
「平日だよ?」
忙しくて帰宅時間が午前様だった人が、平日に休みを入れられるとは思えない。
「調整する。つまらない心配はしなくていい」
全然つまらなくないと思うのだけど、スムージーを連写するような男だ。
きっと何とかしちゃうんじゃないか、そんな予想がする。
*
『男性恐怖症って診断受けたわけじゃないんだ』
今朝、普通に彼と話していたら私の男性恐怖症の話になって、病院に通っていなかったことを驚かれた。
確かに、原拠のはずの彼と普通に話せる時点で自分でも急に嘘くさく感じる。
でも狂言と思われるのも嫌だ。男性とコミュニケーションをとるのを全力で避けていたのは本当だし。
「美香さん」
「ほいほい、ちょっと待って。今、携帯に来月の予約をまとめて音声入力してるから」
平日の午前中の暇なこと。
午後からは結構予約が入っているけど午前中は暇なことが多い。
意味なく在庫確認したり、窓を拭いたり、SNSに作品を投稿して営業したり。
「で、どうしたの? ネイル変える?」
「いえ。私、もしかしたら男性恐怖症治ったかもしれません」
「へえ!? なんで? 嘘ぉ」
一人ずつ観葉植物やスペースを開けてから机を配置しているのに、美香さんが隣から椅子を走らせながら隣にやってくる。
そこまで密着しなくても聞こえるのに。
「なぜか目を見て話せる相手が現れたんです」
「一目ぼれってこと?」
「いえ。どちらかというと、憎い、絶対に好きにならないって頑なに拒絶してたんです」
「華怜は男全員、拒絶してんじゃん。憎みすぎて男として見てない相手ってこと?」
「そういう捉え方もありますね。どっちだろ」
うーん。でも朝ご飯の会話は嫌じゃないし、私なんかの言動で真っ赤になる彼は新鮮だった。
「治ったかどうか、誰かで確かめてみればいいじゃん」
「誰かって、あ、白鳥さんの旦那さんとか?」
「良い考えじゃん。白鳥さーん」
レジの横のカウンターでパソコンを開いて仕事をしていた白鳥さんが、こちらを振り向いた。
「何?」
「華怜が男性恐怖症治ったか試したいって。ヘアサロンのメンバーも呼んでご飯食べに行きません?」
美香さんはどさくさに紛れて、辻さんとご飯を食べようと画策している。
でも美香さんや白鳥さんがいるのは安心するし、上の従業員なら私が目も合わせなくても理由が分かってるから平気かもしれない。
白鳥さんは私をじっと見てから、うん、と頷く。
「一回試してみるのもありかな。上のメンツと行ってきな。予約確認して、早く上がれそうなら上がって構わないし」
「白鳥さんは行かないんですか?」
「私はちょっとこの仕事が今日中に終わりそうにないから、旦那引っ張り込んでやろうかな」
旦那さんが白鳥さんの仕事を手伝うなら、メンバー的にヘアサロンの従業員だけになる。
でも辻さんはやっぱりちょっと苦手だから、旦那さんであるオーナーが居ないなら遠慮したいなあ。
「辻さん、オッケーってさ。返信はやっ」
「もう送ったんですか?」
気づけば美香さんがメッセージを見てケラケラ笑っている。
ヘアサロンの方は、午前中からもお客様が沢山来られているのに、携帯見ちゃうの。
「よっしゃ。私と華怜。向こうは辻さんと誰か。四人で飲みね。場所はどこにしようかな」
「えええ、四人はちょっと。あの個室じゃないとこで」
「だいじょーぶ。私が良い場所キャスティングするから」
大船にのりなって言うけど、全く不安でしかない。
自分の軽い口が招いたこととはいえ、相手に嫌な気分にさせてしまうから慎重に試さないといけなかったのに。
砂原 紗藍
#再会