テラーノベル
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『今日、どこかで食事でもしない?』
お昼の休憩中に、彼からそんなメールが届いていたので、朝ご飯の残りが入ったお弁当をつつく箸が止まる。
「なんで、貴方なんかと」と打とうとしたが、もしかしたらこの人と生涯ずっと偽装結婚しなくてはいけなくなるかもしれない。
それに朝、あんなスムージーごときで嬉しそうになった人を、無駄に傷つけるわけにはいかない。
こちらがいくら理不尽で、強制されて結婚させられようとしていても。
『すみません。今日は仕事仲間と飲みに行きます』
嘘ではない。それに男性恐怖症を克服したのかも気になる。
ただ話をして帰るだけ。
婚約している相手がいるが、気持ちはないので飲みに行くぐらい大丈夫なはず。
『そうか。残念。今度は俺に時間空けてくれると嬉しいな』
「うおおお」
「何? 誰のメッセージ?」
「いや、えっと親です。親」
次もまた誘うってアピールなのかなって思ったら、誘い慣れているなって思ってしまっただけだ。
いや、本当に女性に慣れてそう。
私じゃなくてもいいだろうに。
そう考えると、彼からのこの強引な結婚は、やっぱり贖罪なんだろうな。
自分のせいで、髪も伸ばさず男と一切接触しない私を見たら、優しい彼なら罪悪感で胸が押しつぶされるんだと思う。
中学時代、彼は人格者で人気者で人の悪口を言うような人ではなかった。
私の今の状況を見て、強引に親を懐柔して結婚に持ち込んだに違いない。
優しすぎる彼の、余計な行動に私は振り回されている。
けれど、徹底的に冷たくできないし傷つけられないのは私の意志が弱いのか。
彼の優しい部分が垣間見えてわたしも罪悪感を抱いているからか。
愛のない結婚をしようとしている今、罪悪感と彼の本心が見れ隠れしてどうしていいのか分からない。
徹底的に嫌わせてくれたらいいのに。
20時になり、早めに帰宅することになった。
予約がない上に、白鳥さんが閉店まで居るので私たちにはさっさと帰りなさいと、朝言っていた飲み会に送り出してくれた。
丁度店を出て二階に美香さんが上がって中を見たら、ミーティング中だったらしい。
「先に行って何か適当に頼んで来ようよ」
「いいの?」
「大丈夫。ご飯決めるのでぐたぐたしたら時間勿体ないしね」
張り切ってはないき荒い美香さんから、いつもの倍以上の香水の甘ったるい香りがしてきた。
いつもより化粧が濃く、普段しない付け睫毛が月に届きそうなほど上にカールしている。
久し振りに天気を気にしないでいい、澄み渡った夜の空。
ぽっかり浮かぶ月を見ながら、美香さんが酔ったふり作戦について延々と語ってきていた。
*
「あら、美香ちゃん。今日は女の子なのねえ。あーた、女の子の友達いたの?」
美香さんが予約したお店と言うのが、駅の近くの繫華街の人気のパスタ屋――と同じテナントビルの最上階にあるBARだった。
食事しながら話すのかと思ったらいきなり飲みなのかな。
しかもオーナーらしき男性は、がっしりした筋肉質の肩を露出したカクテルドレス。スパンコールで輝いている。
「この子は私の後輩。パスタとピザお願いするね」
「え。メニューないよ?」
カウンターに座った美香さんが、メニューも見ずに言うのでみかねてそう告げると笑われた。
「ママはこのビルのオーナーだし、一階のピザ屋の店長だよ。このBARは惰性と言うか売り上げ無視の趣味だし。奥のテーブル席で邪魔者来ないで話せるじゃん」
砂原 紗藍
#再会
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