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それから40年が過ぎた。
当然40年ぶりだが、中学校のときの同級生に会った。
2年3組からそのまま3年3組にクラス替えせず、2年間一緒にいた仲間だ。
同級生と飲み会を行ったのも、ちょうど2年生になってクラス替えのあった4月だった。
新型コロナウイルス感染症でなかなか集まってなんてできない時期が3年くらい続いていたが、ようやく以前の日常を取り戻しつつあった。
現在の俺: 「久しぶり。」
俺達は地元の飲み屋に集まった。
週末ということもあり、周りも大騒ぎしていたので、しばしば聞き取れない時もあった。
窓の外はやはり車がゆっくりと進んでは止まっていていて、時折車のヘッドライトが眩しく感じられた。
その車の列の先にはあの時のバス停も見えた。
昔の鉄の支柱だけのところどころ錆びていたバス停からひとまわりもふたまわりも大きくなった今風のバス停に変わっていた。
現在のみき: 「ほんとに40年くらい経ったかな?」
現在のハル: 「みんな変わらないね。」
年相応にはなっていたものの、あの時の面影は残されていた。
このメンバーは2年生の3学期から3年生の一学期に同じ班のメンバーで、修学旅行も班行動した仲間のうちの三人だった。
現在のみき: 「Kは今、お医者さんになったんだって。」
現在のハル: 「昔から医者を目指してたもんな。」
ハルはその時、親友であったから、そんな反応であった。
現在の俺: 「昔からよく風邪ひいてよく休んでいたからね。」
現在のハル: 「塚地は?」
現在のみき: 「家の用事で来れないって。」
現在の俺: 「あの塚地がね…。あの時のイメージが違うんだけど。」
現在のハル: 「博は?」
現在のみき: 「連絡したけど、取り次いでくれないんだよね。」
現在の俺: 「俺も電話してみたけど、だめだった。」
七人班であったので、残りの4人は塚地、博のほか、さらに女子二人がいた。
現在のみき: 「さっちゃんのこと、気になるでしょ。」
現在のハル: 「まだ気になる?」
現在の俺: 「そりゃ、なるでしょ。」
現在のみき: 「可愛かったもんね。」
現在のハル: 「そうだよね。」
現在の俺: 「あれ、あの時やめたほうがいいって言わなかったっけ?」
現在のハル: 「そんなこと言ったっけ?」
現在の俺: 「それで喧嘩になったじゃん。」
現在のみき: 「そんなこと、あったんだ。」
現在のハル: 「覚えていないなあ。」
現在の俺: 「顔も、ショートカットの髪型も、おとなしい性格も、照れ屋なところも、すべてが理想だったんだ。もう忘れられてるよね。」
現在のみき: 「そんなことないと思うよ。連絡してみようか?」
現在の俺: 「やめてくれ。2回目のショックを受ける。」
中学生の時に好きだった女の子、その子は天宮さん、女の子の中ではさっちゃんって呼ばれていた。
小学校の時から同じクラスになったことはなくて、中学2年生で初めての同じクラスとなり、その初日に一目惚れし、おとなしそうな性格にも惹かれていた。
現在のみき: 「つき合っていたんだから、絶対覚えているさ。」
その子と2年生の二学期にふとしたことでつき合うようになった。
まさに幸せのど真ん中だったが、結局ふられてしまった。
現在のハル: 「なんで別れたんだっけ?」
現在のみき: 「いつだっけ?」
現在の俺: 「そんな古傷、掘り返す?」
現在のみき: 「時効でしよ。」
現在の俺: 「それが…、俺にもよくわからないんだよね。」
現在のハル: 「えー。どうして別れたか知らないの?」
現在の俺: 「あまりのふられたショックで、そのまま「別れたくない」とも言えずに別れちゃったんだ。 だからどうしてだったか、不明なんだよね」
現在のみき: 「Kとつき合っていてもつまらなったんじゃないの?」
現在の俺: 「それはそれで凹む。」
現在のみき: 「うけるね〜」
現在のハル: 「まさかまだ引きずっているの?」
現在の俺: 「引きずっているというか…」
約40年経っていても気になるものは気になる。
そもそも好きな女の子のタイプはその後もさっちゃんがスタンダードになった。
現在の俺: 「この間、娘の高校でPTAとして西高に行ったんだけど、天宮さんが行った高校でしょ。 校舎や体育館に入ったんだけど、ここに40年前に天宮さんがいたんだなってふと思って周りを見たけど、当然いないよね。」
現在のみき: 「ばかじゃないの。でもわかる気がする。 私も塚地の行っていた高校に行ったときにそう感じたもん。」
現在のハル: 「二人とも似ているね。」
現在の俺: 「その西高で、医療関係者のPTAとして、新型コロナが流行っていた時期の修学旅行の可否についての検討会だったんだけどね。 ほら、修学旅行は俺にとっても大きな最後の思い出だったから、だから今の生徒もきっとそんな境遇の人もいると思うと、ぜひ実施させてあげたかったんだよね。」
現在のみき: 「修学旅行といれば、私達、奈良に行ったよね。」
現在のハル: 「修学旅行ね・・・あまり覚えていないなぁ・・・」
現在の俺: 「これ見て。」
そういって、この日のために持ってきた、40年ほど前に学年全員が書いた修学旅行記を見せた。
二人は覗き込んできた。
現在の俺: 「天宮さんにふられた後にみきが書いた衝撃の修学旅行文集だけど。」
みきはじっくり読んでいた。
現在の俺: 「自分の書いた作文なんだけど…」
現在のみき: 「そんなの覚えているわけないじゃん。」
しばらく読み続けていた。
現在のみき: 「よく書けていると思わない?」
現在のハル: 「自画自賛ですか?」
現在のみき: 「でも、よく書けているよね。 ところで、このKくんとAさんって誰? 一緒に歩いていたって?」
現在の俺: 「自分で書いといてそれはないよね。俺と天宮さんが修学旅行で一緒に歩いていたこと、普通書く? それも別れた直後の文集にだよ。」
当時は気まずくてみきに文句を言ったことを思い出した。
現在のみき: 「うけるね。 でもいい思い出だよ。私ってすごくない?」
現在の俺: 「全然すごくないけど。 まあ、ある意味、あの時の出来事は事実だってことになるけどね」
現在のハル: 「奈良公園、どこを歩いたかも覚えていない。博や塚地はおぼえているのかな?」
現在のみき: 「博はどこの高校へ行った?」
現在の俺: 「天宮さんと一緒の西高だった気がする。」
現在のみき: 「こりゃ、重症だね。あの時、西高に行けばよかったのにね。」
現在の俺: 「もしそういう選択していたら、どうなっていたんだろうってね。」
現在のみき: 「やっぱり面白くないからふられたんじゃない?」
現在の俺: 「また凹む・・・。 でも西高に入って、40年前に天宮さんがきっといたんだろうなあって思うとなんとなく切なかった。」
現在のハル: 「でも中学校でつきあうなんてませていたんだよね、きっと。」
現在のみき: 「女の子のほうが大人だから、K以外の男子はまだ興味がなかったんだよね。その点、Kはませてたんだよ。」
現在の俺: 「そうかな・・・。出会うのが早すぎたような気がする。もう少し後で出会えたら、違った未来だったかもね。」
現在のみき: 「実はさ、Kとさっちゃんがいつ別れたかも、知らないんだよね。気が付いたら別れていたもんね。」
現在のハル: 「ほんと。いつだったのか、分からなかった。」
現在の俺: 「別れたのは6月だったんだよね。その少し前に、ハルが天宮はやめておけって言ったんだよ。なにか知っていたんじゃない?」
現在のハル: 「全く覚えていない・・・」
現在の俺: 「忠告してくれたのかもしれないけど、その時の俺は『天宮さんはそんな人じゃない』って言って、ハルと大喧嘩になったんだけどね。」
現在のみき: 「ハルは忠告していたのにそれはひどいよね。」
現在のハル: 「それも覚えてない…」
現在の俺: 「あの時はごめん。」
現在のハル: 「ははは、全く覚えてないんだけどね。」
現在の俺: 「あの当時は天宮さん一筋だから、彼女の悪口言ったり、いじめたりしたら、全力で戦いにいくつもりだったからね。」
現在のみき: 「それでふられるんだから悲しいよね。」
現在の俺: 「ほんとにね・・ でもあのとき、小石さんが別れるの、認めちゃだめだよって言ってくれたんだけど。」
現在のハル: 「なにそれ?」
現在の俺: 「嫌だって何度も言おうとしたけど、言えなかったんだ…だからあの時で俺の時間は止まっているのかも。」
初めての同級会はこんな感じで終わった。
その数か月後、みきから連絡のラインが来た。
今度は塚地も来れるようだ。
前回3人であったときも、約40年ぶりということもあって、初めは緊張したが、しばらくして以前の俺たちのように打ち解けることができた。
今回も旧友とはいえ、「新メンバー」ということもあってワクワク、ドキドキした。
塚地: 「久しぶり。」
みきは全然面影がないといったが、そんなことはなかった。
現在のみき: 「そうそう、今日はあの頃の写真持ってきたよ。」
みきは7,8名くらいの女子が写っている写真を数枚持ってきた。
現在の俺: 「そうそう、こんな感じだった。卒業付近で天宮さん、髪型ちょっと変えてきたよね。」
現在のハル: 「そうだっけ?」
塚地: 「よく覚えているね。」
現在のみき: 「完全に病気だよね。」
現在の俺: 「流石にその当時は可愛いねって言えなかったけど、結構その髪型も好きな髪型だったから覚えている。」
ハルはじっくりその写真を見ていた。
現在のハル: 「そういえば、こんな人もいたなぁ。誰だっけ?」
塚地に写真を渡した。
塚地: 「俺もやっぱりあまり覚えていないなぁ。担任は分かるけど。」
現在のみき: 「そりゃ、そうでしょ。でも、ホントに何も覚えていないんだね。」
現在の俺: 「中学生の時には考えられないほど、二人はしゃべっている。なんか、不思議な感覚。」
中学校の時に、みきは塚地のことが好きだった。
あの時の俺と同様、みきも塚地には話しかけられなかったようだった。
現在のみき: 「ちりとりくれたじゃん。」
塚地: 「あれ、そうだっけ?」
現在のみき: 「これだ・・・」
こんな風に話しかけられるのは40年の月日のおかげなのか?
現在のみき: 「この写真もあるけど…」
そう言って2枚目の写真を俺に見せた。
現在の俺: 「そうそう、天宮さんのイメージだと、こんな感じだった。やっぱり、今でも好きになるね。」
現在のハル: 「すごいね。まだ?」
現在のみき: 「写真持ってきてあげたんだから、感謝してよね。」
現在の俺: 「もう一つ、心残りというか、果たしていない約束があるんだよね。天宮さんにとっては、もうどうでもいいことだけど。」
現在のみき: 「ふられた理由以外にまだあるの?」
現在の俺: 「それは訊きたいこと。」
塚地: 「約束って?」
現在の俺: 「あの時、初めての天宮さんの誕生日にプレゼント渡そうとしたんだけど…。 誕生日のお祝いを計画していたんだ。」
現在のハル: 「一途だったんだね。」
現在の俺: 「当時、サックスを欲しがっていたんだよね。中学生の時に買うことできないから、サックスのキーホルダーを何かにくっつけて渡そうかなって思ったけど。 そしたらふられちゃうから、その約束は果たせずままで・・・。 せめて本人に誕生日おめでとうって言えれば、これですべてのミッションはクリアなんだけど・・・」
現在のみき: 「じゃあ、誕生日が近いから、当日ラインを送ってみようよ。」
昔からみきはお節介だったが、意外と助けられたことも多かった。
そんなみきは、昔も今も変わっていなくて安心した。
ハルは昔から真面目だったが、今はさらに真面目になっていた。
もっとフレンドリーに話したり、「お前、まだ想っているの?」とかつっこんでくるかとと思ったが、予想以上に「社会人」だった。
塚地は昔から硬派だったが、そのままの渋さを持っており、二人とも「いい大人」になっていた。
そういう俺は、みんなにはどう映っていたか分からないが、外見こそ「おじさん」だが、思ったよりみんなより「中学生」を引きずっている感じであった。
みんなの面影に安心した反面、少し取り残された感覚も抱いた。
9月の天宮さんの誕生日当日。
9月と言ってもまだ暑さが残っていた。
現在の俺: 「あの時の天宮さんの写真、全部別れた後の写真でしょ。」
現在のみき: 「なんでわかるの?」
現在の俺: 「日付があるし、よく見ると写真に時間割や各班の名前が張ってあるね。別れた後に同じ班になっているのって、さみしいもの感じる。」
現在のみき: 「そんなところまで見るなんてすごすぎる。」
現在の俺: 「これなんか、もう天宮さんは俺と別の班になっているから、3年の2学期以降だね。さすがに一緒の班じゃないね。」
現在のみき: 「それでなんて送るの?」
現在の俺: 「誕生日おめでとうございます。
40年前におめでとうが言えなかったので、改めておめでとう。
お元気ですか?
さっちゃんと、ご家族皆様が、これからも幸多き人生になりますように、お祈りしております。」
現在のみき: 「型ぐるしくない?」
現在の俺: 「いいのいいの、送ることであの時の自分だけの約束だけど、守ることができたことになるから。」
現在のみき: 「送ったよ。」
あのサックスのキーホルダーはもうないが、40年来の懸案だったおめでとうメッセージを送れたことはミキに感謝だった。
念願成就に安堵というか、非常に感慨深いものになった。
返事はスタンプ一枚であったが、8年前も気持ちに温度差があったし、ふられてからもあの時以上に想いには違いがあるのは当然であろう。
現在の俺: 「まさかあの時の俺は将来、天宮さんに奢ることはあっても、みぎに奢るとは想像していなかったなぁ。」
現在のみき: 「そりゃ、お互い様でしょ。 でも、満足したでしょ。」
現在の俺: 「別れ際の約束はすでに果たしてあるし、思い残すこともない。 つきあっていた時は幸せだったし、天宮さんと出会えて苦しい時も乗り越えて医師になったものだから、天宮さんには感謝している。」
現在のみき: 「私がラインで送ってあげたんだけど…」
現在の俺: 「はいはい、みきにも十分感謝しています。」
現在のみき: 「それで、どうなって別れたの?」