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夜の街は濃い霧に覆われていた。街灯の光もぼんやりと霞み、足元さえはっきり見えないほどだ。相沢蒼は、手にした封筒を握りしめ、霧の中を歩いていた。封筒の中にはただ一言、「霧島家にて――」とだけ書かれていた。
霧島家の洋館は街外れの丘の上にあり、霧に包まれるその姿はまるで幽霊屋敷のようだった。重厚な木製の扉を開けると、館内には暖かい光と重厚な静寂が漂っていた。
「相沢探偵、いらっしゃい」
低く落ち着いた声が響く。執事の香坂真理だった。
「今夜、少し不穏な気配がありまして…皆さまにもお集まりいただいております」
館の奥の広間には、霧島家の当主である霧島翔を中心に、数人の人物が座っていた。旧友の佐伯蓮、新聞記者の永井沙織、そして家族同然の執事・香坂。皆、どこか緊張した面持ちだ。
相沢は広間を見渡しながら、ひとつの疑念を抱いた――
「何か起こる。今夜、必ず」
その瞬間、館の奥から悲鳴が響いた。全員が立ち上がり、声のした方向に駆け寄ると、そこには倒れた霧島の姿があった。胸には深い刺し傷。だが、不思議なことに、凶器も足跡も、周囲には何一つ残っていない。
「どういうことだ…?」佐伯が声を震わせた。
相沢は静かに現場を観察する。窓も扉も鍵がかかっており、侵入の痕跡は皆無。まるで、霧島は誰にも見つからずに殺されたかのようだ。
相沢は封筒の中の手紙を思い出した。「霧島家にて全てが明らかになる」
まさか、これが事件の始まりとは――。
霧の夜、館の中に張り詰めた空気。相沢は深呼吸し、口元に微かな笑みを浮かべた。
「さあ、誰が犯人か、じっくり推理してみましょうか…」