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第5章
鏡写しの破壊者
第21話:ミラーブレンドの思想
廃工房の空気は、粘ついていた。
歪んだ魔力が壁を這い、床を侵食している。
それは健の《調合融合(ブレンド)》に酷似しながら、決定的に違った。
「……気持ち悪いな、これ」
健の呟きに、仮面の男――ミラーブレンドが肩をすくめる。
「当然だ。君の力から“迷い”だけを取り除いた結果だからね」
「それ、自慢?」
「最適化だよ」
男は両手を広げる。
「世界はね、無駄が多すぎる。感情、恐怖、倫理……」
「全部、処理速度を落とすノイズだ」
健は歯を食いしばる。
(こいつ……昔の俺だ)
力に浮かれ、止まらず、壊すことを躊躇わなかった自分。
「だから僕は、君より“正しい”」
ミラーブレンドの背後で、空間が融合し、再構成される。
床 × 鉄屑 × 魔力。
即席の巨腕が、形成された。
第22話:融合できない恐怖
「来るぞ!」
リュシアが叫ぶ。
巨腕が振り下ろされる。
健は跳び退くが、衝撃波で壁が吹き飛ぶ。
(使えば……楽だ)
一瞬、能力が疼く。
だが――
「使うな!」
エリナの声が、頭を貫いた。
(……分かってる)
健は、拳だけで前に出た。
剣でもない。
魔法でもない。
ただの、人間の身体。
ミラーブレンドが嗤う。
「縛りプレイかい? それで僕に勝てると?」
「勝つさ」
健は息を吸う。
「俺は――戻ってきたからな」
拳が、巨腕に叩き込まれる。
砕けない。
だが、止まる。
「……は?」
ミラーブレンドの声が、初めて揺れた。
第23話:融合しない“干渉”
健は理解した。
融合しなくても、
干渉はできる。
力を“足す”のではなく、
世界と自分の間に、
――ズレを作る。
「これが……」
エリナが、息を呑む。
「非融合干渉……!」
健は踏み込む。
拳、蹴り、体当たり。
全てが、ミラーブレンドの融合構造を狂わせる。
「馬鹿な……」
「馬鹿でいい!」
健は叫ぶ。
「俺は、人間でやるって決めた!」
第24話:鏡は割れる
ミラーブレンドが後退する。
「君は、効率が悪い……!」
「褒め言葉だな」
健は笑った。
最後の一撃。
融合なし。
全力の、右ストレート。
――仮面が砕けた。
中にいたのは、
疲れ切った、人間の顔。
「……ああ」
男は、崩れ落ちる。
「君みたいに、戻れなかっただけだ」
健は、手を差し出した。
「まだ、戻れる」
だが――
世界が、拒絶した。
第25話:監査官の視線
空が、軋む。
リュシアが剣を構える。
「来る……!」
闇の裂け目から、
《ノクス》の視線が、降り注いだ。
直接の介入はない。
だが、確かに“見ている”。
「対象、更新」
冷たい声が、世界に響く。
「野山 健――」
「危険度、上昇」
健は、空を睨み返した。
「上等だ」
拳を握る。
「俺は、壊れない」
エリナが、静かに言った。
「……あなたは、世界の想定外になり始めている」
健は笑う。
「それ、褒めてる?」
「半分は」
こうして――
野山 健は、
**“融合せずに干渉する存在”**
として、 世界に認識された。
第5章・了
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