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ザーザーと降る雨の中、傘をさしながら登校する。優雨は晴れも好きだが、雨の方が好きだ。何故かと聞かれたらなんとなく、としか答えられないが。少し浮かれながら歩いていき、歩道橋の前で止まる。赤信号だ。青信号になるまで待っていると、突然通行人から話し掛けられる。


「君、雄英高校の冩屋さんでしょ?体育祭見たよ、かっこよかったね!」

「ありがとうございます」

「飛んでった地面切り刻んでたよね!?凄かったわ!!」

「流石ヒーローの卵!」

「期待しているよ!」

「頑張ってね!」

「…はい。ご期待に応えれる様、精一杯努力致します」

「あはは!堅いねぇ」


ヒーロー、という言葉に浮いていたはずの気分が沈む。鬼殺隊はヒーローの事が嫌いだ。嫌いとまで行かずとも、少なからず好いてはいない。優雨は嫌いでは無いが、自分には合わない、と思う。何も知らない頃の私だったら、ヒーローになるんだ!と目を輝かせて言っていたであろう。だが、自分は鬼を知っている。血を知っている。前世を知っている。戻る事は出来ないのだ。もっとも、戻れる事が出来たとしても拒否しているが。


「……」


ぴちゃぴちゃと歩くと共に聞こえる音に、ふと下を見る。そこには大きな水溜まりができていて、無表情の優雨を映している。ああ、と優雨は声を漏らした。何故雨が好きか、思い出したのだ。前を向いて歩き出し、今もまだ降り続ける雨音に耳を傾ける。


『わたし、雨好きなんだ!』

『晴れも好きだけど、雨の日はおてつだいすること少ないし、ゆうと長くあそべるから!』

『それに、ゆうの名前に雨って文字入ってるんでしょ?ゆうがいなくてもゆうといるような気がするんだ!』


前世に大好きな親友からくふくふと気の抜けた笑顔で言われた言葉。幼い頃の優雨は、なんで雨が降ると優雨と居ると思うのかあまり理解出来なかったが、なんとなく嬉しくて親友の笑い方を真似して笑った。忘れていた記憶を思い出し、口元が緩む。


「……私もね、雨好きだよ」


誰にも言うでもなく、ただポツリと呟く。私がこうして転生しているのだから、あの子も転生して幸せになっているのだろうか。そうだとしたら嬉しいな、と優雨は思う。


(もしこの世界で生きているのなら、一目見たい)


幸せに笑う親友の顔は、あれきり見ていないから。本当は会いたいけれど、汚れている私を見られたくないから会いなくないとも思う。思考の海に沈んだ意識は、前から歩いてきた人の傘と自分の傘がぶつかった事により浮上した。


「あっごめんなさい!」

「いえ、こちらこそすみませ___」


鬼殺隊の柱とあろう者が情けない、鍛え直さないと、と謝りながら考える。だが、発した言葉は途中で途切れた。優雨とぶつかった人が通り過ぎて行く。


「もー、なにやってんのよ」

「ごめんごめん、前見てなかった!」


彼女の隣で楽しげに歩いている人は、友達なのだろう。


「……ああ、良かった」


本当に、良かった。優雨はそうかみ締めながら再度歩き出す。だんだんと口角が上がっていくのがわかる。やがて、歩く速度は早まり、早足になり、走り出す。


(幸せに、なったんだね………!!)


上がっていく気分が抑えきれずに走っていたら、いつの間にか雄英についていた。気持ちを落ち着かせる為、目を閉じ思い出すのは、少し大人になった親友の姿。そう、先程ぶつかった相手は優雨の親友の生まれ変わりであった。自分の記憶と相違ない、大好きな笑顔に目尻が熱くなる。


(ああ、本当に、良かった__)


傘を握る力が強くなる。


「あ、優雨じゃねぇか!おは__」

「…上鳴、さん?おはようございます」


ふわり、と花が見える程の笑顔が上鳴に向けられる。ドキッとした上鳴は顔を真っ赤に染め、優雨の「どうしたんですか?」という声に慌てて反応した。因みに周りの生徒達はあまりの可愛さに手で目を覆っていた。


「あ、いや、なんでもねぇよ!い、行こうぜ!!」

「はい」


いつもの表情に戻った優雨に少しガッカリしながらも、優雨の初めて見せた笑顔に上鳴の気分は最高潮に達していた。


(本当に、雨は好きだ)


見れただけでも嬉しいのに、会話をしてしまった。こんな汚れた自分を見られたくなかったが、親友に微笑まれたのがどうしても嬉しくなってしまった。親友とまた合わせてくれた雨の日は、優雨にとって特別な日となった。

そして、今日一日優雨の表情が少しだけ、ほんの少しだけ柔らかくなったのはクラスメイトであり、目敏いごく一部のA組だけしか知らないのであった。

鬼殺隊とヒーローは分かり合えない

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