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車のドアをバタンと閉めて予約していたホテルの中にキャリーバッグを運び入れた。

お昼ご飯を食べ終えてすぐに絵里香たちは、実家を逃げるようにしてホテルへと向かった。

半ば喧嘩別れのような重い雰囲気で飛び出してきたため、何となくモヤモヤした。

それでも、ホテルのスタッフに温かく迎え入れられてモヤモヤ気持ちがすこし晴れた気がした。

瑠美や塁も滅多に泊まることのないホテルでテンションが上がっていた。


「お母さん、お母さん。ここでかい温泉があるってよ。楽しみ~」


「ねえ、お母さん。ここでお風呂上がりに可愛い浴衣着られるってさっきポスターに描いてあったの。

私も着られるかな」


「そうそう。浴衣が着られるからこのホテル選んだんだよ。あとね、夕飯は瑠美と塁が大好きな焼肉とか

お寿司のバイキングあるからね」


「うそ、ほんと!? やった~」


「私はケーキも食べたい。ケーキのバイキングもあるんでしょう」


「あるある」


「やったー」


2人ははしゃいで、部屋まで続く廊下を走った。


「こら、廊下は走らない。ぶつかるでしょう」


絵里香はふぅーとため息をつく。


「来てよかったな。2人ともすごい喜んでんじゃん」


晃は両手に荷物を抱えながら、後ろをついていく。


「そうね。あのままおばあちゃんたちと過ごすよりよかったかも。決断は間違ってなかった。晃の会社に少しだったけど顔出せてよかったね」


「ああ、そうだな。まさかこっちの支社があんなに小規模のところだったんなんて知らなくてさ。猫とかも飼ってるし。自由すぎるよわ」


「いいじゃないの? ゆるーく仕事ができそうで」


「まぁ、確かに。課長であることは間違い無いんだけど仙台の仕事より全然少ないから残業しないで帰ってこれそうだわ。その分、給料は減るけどな。どっちを取るかだな」


「時間を有効に使えた方がいいって。子どもたちとの過ごす時間考えたらそれ以上だと思う。確かに生活は厳しいけど

今、時代が違うからキャッシュレスという強い味方がいるし簡単にローン組めるし。私がフルタイムする時に借りたもの

返すって思ったらなんとかなるわ。子どもの精神状態が安定の方が1番大事だと思うし。親がいない家に帰るくらいなら

私がいた方が安心するでしょう。銅像のようにしてるかもしれないけど私がいるのといないのでは全然生活してて違うからね。塁が小学4年生くらいになるまではしっかり見るから。ね!」


話しながら、荷物をホテルの一室に運んで入れた。和室タイプで4名1室だった。窓から見える景色は綺麗だった。

山々の緑と遠くに見えるオーシャンビューがあった。


「和室だけど、ダブルベッド2つなんだね。子ども2人だからかな。ふとんより寝やすいよね。良かった。ふかふかで寝やすいかも。たまには贅沢良いよねぇ」


荷物の片付けをそのままに絵里香はベッドにドサっと横になってみた。子どもたちも絵里香の両手に横になって真似してみた。


晃は窓を開けてみて外の景色を眺めていた。


「え、ここって禁煙? 電子タバコもダメなん?」


「うん。全室禁煙になってたよ。喫煙所は別にあるみたい。フロントの近くにあったよ。吸うなら、そこまで行っておいで」


「仕方ねぇか。吸いたかったのに……」


持っていたタバコを本体に差したばかりだった。



「何か飲みたいのある? ジュース買ってくるから。言って。その時に喫煙所行ってくるわ」


「吸い終わったら、塁、お風呂連れてってよ?」


「はいはい」


財布の入ったセカンドバックを背中に背負って、晃は部屋を出ようとする。


「私、リンゴジュース!!」


「ぼくも」


「私は……ミルクティーでいいよ」


「りんご2本とミルクティね。あ、やべ、千円札しかない。絵里香、小銭無い?」


「えー、あるけど。4本買うなら、1000円で良くない?」


「それもそっか。いいや。行ってくる」


「ほら、瑠美、塁。浴衣、見に行こうか?」


「僕、別に興味ないけど」


「私、行きたい!!」


「塁も付き合ってよ。行ってみてから決めな?」


「……わかったよ」


晃は喫煙所に、3人は浴衣を見に行った。お風呂の近くにある色浴衣を選べるコーナーがあった。シンプルに藍色と白の浴衣があればカラフルな花が描かれた浴衣もある。


「えー、どれにしようかな」


「私、この朝顔の浴衣にする。可愛い!!」


「浴衣は決めたのね。帯も一緒に決めないと。着付けってしてくれるのかな。お風呂入る前に着る? 入ってから?」


「私は、お風呂入ってから着たいな」


「わかった。お店の人に聞いてみるね。お母さんは黒のすみれの花と黄色の帯かな。瑠美は、青とピンクだから、帯も赤か青を選んだらいいんじゃないかな?」


「うーんと、赤がいい!」


「決まりね。塁はどうする?」


「僕は、この恐竜のにする」


小さい子用の浴衣も置いてくれているようで、塁も気になった浴衣もあった。絵里香はほっとして喜んだ。


「良かった。塁のもあったね。みんなで一緒に着れるね。お父さんはどうするのかな。甚平も置いてるからこれに

しようかな」


浴衣であれでもこれでもないと選んでいると喫煙所での一服が終わった晃が向かってきた。


「浴衣決めた?」


晃が声をかけようとするとポケットに入れていたスマホが鳴った。


「あ、電話……」


スマホの名前表示を見ると、晃は静かになった。


「誰から?」


と絵里香。


「会社の人」


「出たら?」


「ちょっと電話してくるわ」



来た道を戻る晃。また喫煙所の近くにあるベンチに座って電話に出た。

通話開始のタイマーがカウントされるが、声がしない。


「もしもし?」


晃はごくんとツバをのみこんだ。

稼げばいいってわけじゃない

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