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「もしもし?」
晃は電話の通話ボタンを押していた。
『課長? 小松です。突然の異動ってどういうことですか? 聞いてないんですけど』
「あー、ごめんごめん。悪かった。伝える暇がなかった。本当にすまない」
『まぁ、良いんですけど。あと、課長、その異動の話。もしかしたら、無くなるかもって部長が言ってましたよ? 話が前後しててすいません』
「小松、それどういうこと?」
『異動するって話は本当だったんですけど、例の小笠原社長いたじゃないですか。何か、課長の持っていた菓子折りがプレミアムだかなんだかに感銘受けて、やっぱりずっと担当にしなさいって指示されたとか。だから、異動しないでずっとこっちで仕事にしないとなって部長が』
「は?? 何、小笠原社長が? そんなことを? 確かにあれはプレミアム最中で中があんこじゃなくてチョコレートだったんだけど、俺、面倒になって暴言吐いたんだよね。期間限定品で数量限定でもあったからそれが良かったのかな? あんこ嫌いとか何とか言ってたから人の菓子折りにケチつけるやつは失礼極まりないって思ってさ」
『あー、そう言う感じだったんですね。お疲れ様でした。でも引越しすることなくてよかったんじゃないですか?』
「いや、それはそれで問題で……。あとで部長に確認してみるわ。連絡ありがとうな。ごめん、今、外出先だから」
『いえいえ、良いんですよ。独身のフリーの私はお暇なので。それじゃぁ』
嫌味を言われた晃は冷や汗が流れた。
「電話、終わった?」
「あぁ、お風呂入りに行くか」
「うん。そうだね。ほら、瑠美、塁。そろそろ行くよ」
「はーい」
家族4人は広い大きな温泉を楽しんだ。普段は日帰りの温泉に入ったりしていたが、こんなにホテルの大きな温泉は初めてだった。露天風呂や立ち湯、座り湯、サウナ、ジャグジー、電気風呂などたくさんのお風呂に堪能した。天然温泉で、とても肌がツルツルになる成分が入っていたようだ。絵里香は満足していた。そして子どもたちも普段見ない温泉に嬉しくて興奮していた。部屋に興奮が冷めてない状態で戻ってくると、ふと椅子に腰かけてくつろぐと瑠美に声をかけられた。
「お母さん、目、洗ってるの?」
「え?」
頬を涙が伝っていた。母に拒否られたことが頭に残る。どうして、孫を連れてってはいけないの。どうして、実家なのに泊まってはいけないの。何気ないその一言で落ち込んでいることにハッと気付かされた。
「大丈夫、大丈夫だよ。ほら、夜も遅いから。寝て良いんだよ」
「はーい」
瑠美と塁はふかふかのベッドの上にそれぞれ寝始まった。いつもだと一緒に寝たいと言うのに今日はだいぶお疲れだったようで一気に寝ついた。小さな電気をつけて、晃と2人で向い合って座った。
「晃、ごめんね。私、本当に謝らなくちゃいけなくて……」
「え、何が?」
「店長の加藤のことなんだけどさ。結構前から仕事のことで脅されていたのよ。俺と付き合わないと仕事できなくなるんだからなって。あの時、晃が体の調子を崩していた時で不安だったから。そのままズルズルとあいつの言いなりになって、ずっと続けてたんだけど途中から私も気持ち持って行かれたっていうか。ダメだってわかっていたんだけど。仕事辞めたら、その呪縛から解放されたの。だから、平気になった。宗教にでもひっかかって思ってもらえてばいいかも。だから、本当にごめんなさい」
「う、うん。何となく状況はわかった。顔あげて、良いよ。絵里香を不安にさせたことも悪かったし、俺も落ち度はあるから。確かに俺も不貞行為はあったし、認めるよ。会社の部下なんだ。その子は独身で仕事もできて気配りとかできてて一瞬の迷いが生じて……。俺は絵里香が嫌になったとかじゃなく自然の流れでそうなっただけでここで踏ん切りをつければきっと大丈夫。本当に俺も申し訳なかった。許してくれとは言わないけど、これからは家族のことを1番に考えるよ。もちろん、絵里香を最優先に」
「人間誰しもが失敗して生きてるからね。ずっと完璧で過ごすことなんてできないし、ましてやこの世の何十億人の人間全ての中たった1人だけ愛せって言うのもおかしな話だけど、それでも1人の人を生涯愛するって気持ちは大切よね。子どももいるわけだし。まー、世界には一夫多妻制も存在するからね」
「ここのホームポジションは守らないとな。結婚式で誓ったはずなのにな。お互い忘れてるもんだよ。約束した内容なんて、今に夢中になって生きてれば過去なんてって……」
「……でも、私、男性は浮気するものだって前から思ってるから。浮気してもきちんとあるべき場所に帰ればいいって思ってる。犬とか猫の世界もそうなんじゃないの?」
「動物と一緒にしてほしくないけど今回で懲りたからもうしないよ。大事にするから」
座っている絵里香を後ろからぎゅーと抱きしめた。
「もう、子どもは作れない体だから」
「それは求めてないよ。それでも、俺たちが仲良しであることの証明としてやったっていいだろう。できるできないにこだわないでさ。夫婦ってそうなんじゃないの? やらなくて済む夫婦もいるかもしれないけどな。男はそうは行かないもの
だからなぁ。本能だから」
「生々しい言い方だなぁ」
晃は絵里香の首筋にはわせた。びくっと全身が鳥肌になった。
「何か、やだ」
「久しぶりすぎて無理?」
「……ダメじゃないけど」
「んじゃ、いいじゃん」
耳をカプッと軽く噛んだ。
「耳はやめて!!」
浴衣を着る絵里香の首筋はうなじで色っぽかった。
「やっぱ、浴衣はいいよね。帯があるし」
「ばか」
スルスルと外していく。
「部屋のお風呂に行こうよ。ここじゃ、ほら子どもたち起きるかもしれないし」
「何をする気よ」
「あんなことやこんなこと……」
有無を言わせず、晃は絵里香を抱っこしてお風呂場へ向かう。
「風呂の方が楽なんだよね。汗かいたら流せるじゃん」
「そりゃ、そうだけどさ。のぼせるんだよね」
「あー、それは仕方ない。そうでなくてものぼせるんでしょう。俺に?」
「はいはい」
そう言いながら、2人はいつの間にかためてあったお風呂のお湯にチャプンと同時に入って、体をピッタリとつけて甘美な心地よさで快楽に溺れていった。
夫婦関係を継続していくのはやりこなすしかないのかいやも好きのうちで受け入れなきゃいけないときもあるのか。
関係性を平静に保つには謎の解けない推理がずっと続く気がしてならなかった。
お互いに本当にこれでよかったのか不安になりながら眠りについた。