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◻︎作戦
奈緒に相談してからは、さらに気持ちがスッキリした。
落ち着いてこれからのことを考えていくことにする。慰謝料や養育費は取れるだろうけど、収入を増やすことも考えておかないといけない。
「“浮気されて腹が立ったから離婚します”だと、その後がまた大変だよ。“つまらない男が邪魔になったから捨ててやります”の方が、自分の人生を生きてるっぽいでしょ?」
「そうだね、自立しないとまたしょうもない男にひっかかりそうだし」
___離婚にも準備が必要だし、大変なんだな
でも、絶対に後悔しない離婚にする、と決めた。
◇◇◇◇◇
あの日、とりあえずの荷物で家を出てきたから、取りに帰りたいものがあった。荷物を取りに帰るからと一応、和樹にメッセージを送る。
《好きにしたらいい》
それだけだった。いきなりの妻の訪問にも慌てないということは、まだ桃子を家に入れたりはしてないということだろうか。
歩き慣れていたはずの住宅街の坂道を、久しぶりに歩く。我が家は、こんな坂の上にあったんだと今頃思う。玄関を開けると、いつもの我が家のニオイがする。それに混じって埃っぽいのと生ゴミのニオイ。
___やっぱり、家事はまったくできないんだから
あちこちに、いろんなものが散乱している。
このままにしておこうかとも思ったけど、もしかしたら財産分与で売りに出すかもしれない家だからと、片付けることにした。洗濯物は洗濯機でまわし、ゴミを分別して袋にまとめ火曜日と金曜日がゴミの日だと、メモを貼り剥がれないようにパンパンと押さえた。
「ちゃんと、捨てなさいよ!」
独り言だけど。
壁にかけられたカレンダーには、何かのメモがあった。昔から大事な予定はカレンダーに書き込む癖がある夫。
“◯◯◯市民病院10時半”
___病院の予約?
積み上げられた書類の中に、健康診断の結果が混ざっていた。
“要再検査”
胃に何かの異常があるのだろうか?
カシャ、カシャ!
カレンダーと健診結果を写真に撮る。
___これは使える!
いい作戦が浮かんだ。
カレンダーに書き込まれた時間より早く、市民病院の受付で和樹が来るのを待った。
予定時刻の10分前には、和樹の姿が現れた。時間に神経質な性格は、今でも変わらないようだ。
見つからないように、離れて様子を探る。私には気づく気配もなく、書類のようなものを持って、奥の検査室へと入って行った。
1時間ほどして、会計を済ませるためにまた受付の横にやってきた。事務員さんから何かの説明を受けて、帰って行った。今度は薬の処方箋を出しに薬局へ行く。すぐに呼ばれて何種類かの薬をもらっている。
私は急いでさっきの受付に行き、慌ててやってきた妻を演じる。
「すみません、うちの夫が再検査を受けに来たんですが、そのことでお願いがありまして」
「はい、どなたですか?」
「小沢です、小沢和樹です」
「少しお待ちください」
奥に入り、別の人と話している。企みがバレるんじゃないかとドキドキするが、私はまだあの人の妻だ、何も悪いことはしていない。
「申し訳ありません、プライバシーに関わることなので…何かご家族だという証明はお持ちでしょうか?」
私は用意していた保険証と免許証も提示した。
「確かに奥様ですね、それで何か?」
「うちの夫は出張が多いのと営業職なので、なかなか連絡がつかないんです。なので検査結果が出たら、まず家に電話をしてもらいたいんですが」
「おそらく、結果は先生から直接お伝えすることになると思いますので、そのためのお呼び出しの電話をすると思います。それをご主人の携帯ではなくて、おうちの電話にするんですね?」
「はい、主人はきっとそのことを言い忘れているんじゃないかと思ったので」
「わかりました、そうメモしておきます。こちらの番号で間違いありませんか?」
カルテに書かれた、第二の連絡先の固定電話を確認する。
「はい、間違いありません。よろしくお願いします」
それから、だいたいの電話の時期と時間を確認した。その時は間違いなく家にいて私が電話を受ける。これで、病院からの連絡は、和樹にはいかない。
___よし!