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「フィー、大丈夫か?」
「うん…リアムの治癒魔法で、少し楽になったから…ありがとう」
ベッドに座る僕の背中をリアムが優しく撫でる。
僕は手に持っていたコップの中の水を、少しづつ飲んだ。
ラズールが作った料理が美味しくて、また、ラズールの手料理を食べられるのが最後かもしれないと思って、食べすぎた。
結果、僕は気分が悪くなって動けなくなった。
リアムがすぐに治癒魔法を使ってくれたので、寝込まずに済んだけど。
横たえていた身体を起こして水を飲んでいる時に、買い出しに出かけていたゼノが、ちょうど戻ってきた。そして顔色の悪い僕を見て焦り始め、事情を聞いて、「買ってきてよかった」とカバンの中から小さなガラスの瓶を取り出す。
「なんだそれは?」
「胃薬です。胃が痛い時や気持ち悪い時、食べすぎにも効きます。治癒魔法は外傷を治せますが、身体の中までは治せません。せいぜい痛みをおさえる程度ですからね。ですので、これを飲んで、しっかりと治しましょう。いいですね?フィル様」
「わかった…。ゼノ、ありがとう」
「俺もフィル様には早く元気になってもらいたいと思ってます。もっと体力もつけていただきたい。でも焦ってはなりません。ゆっくりでいいのですよ」
「…そうだね」
ゼノからガラスの瓶をもらったリアムが、蓋を開けて僕に持たせた。それを飲んで、しばらくリアムにもたれて目を閉じる。
「フィル様、気分はどうですか?もうお休みになられた方がよろしいのでは?」
ラズールが戻ってくるなり、そう言った。
僕が気持ち悪いだなんだと騒いでいた間に、ラズールは食器類を片付けて部屋を出た。そして今、木の箱に湯気の立つカップを持って入ってきた。
「温かい紅茶です。胃にも優しい。気持ちも落ち着きます。第二王……リアム様とこれを飲んで、ゆっくりと休んでください」
「ラズール…ありがとう。そうするよ」
机の上にカップを置くラズールの手をぼんやりと見つめる。紅茶を飲みながら、あのことを話せということなのだろう。
リアムが僕の肩を抱き寄せて、怪訝な顔をする。
「なぁ、やはりアイツ、おかしくないか。いつもならフィーに何かあれば、烈火のごとく怒るのに」
「聞こえてますよ」
リアムが苦笑いを浮かべる。
ラズールが僕の前に来て片膝をつき、僕の手を握った。
「手が…冷えてるではないですか。あなたはすぐに身体を冷やす。寝る時はもう一枚布団をかけるか、リアム様に暖めてもらいなさい」
「うん…。ラズール、明日もご飯…作ってくれる?」
「もちろんですよ。では、俺とゼノ殿は下がります。おやすみなさいませ」
「おやすみ…」
ラズールがゼノを連れて出ていく。
部屋を出る際に、ゼノがこちらを向いて「おやすみなさい」と頭を下げた。
静かな部屋に、僕とリアムが残される。
いよいよだ。これから僕に起こることを、全て話そう。
扉が閉まると同時にリアムが立ち上がり、カップを手に戻って来る。
僕は差し出されたカップを受け取り、口をつけた。ほどよい熱さの紅茶が喉を通る。鼻から抜ける柑橘系の香りが気持ちを落ち着かせてくれる。
僕が黙っているからか、リアムも無言で紅茶を飲み続ける。僕が飲み干すのを待って、リアムがカップを机に戻した。
「フィー、俺に話したいことがあるのだろう?話せるか?」
その言葉に、僕はピクンと肩を揺らしてリアムを見上げる。
リアムが隣に座って僕の肩を抱き寄せ、顔を覗き込んだ。
僕は小さく頷くと、リアムの唇にキスをする。そして緩慢な動きでシャツのボタンを外すと、肩から滑らせてシャツをベッドの上に落とした。
優しく細められていた紫色の目が、少しだけ大きく開いた。冷たい指先が僕の胸に触れ、思わず「…ん」と声を出す。
「リアムの手…冷たい」
「悪い。無意識に触れてしまった。痣がまた広がったな…。しかしこれは、赤い花が咲いたようでキレイだ」
「ふふ、変なの。気持ち悪くないの?」
「全く。これを見せたかった?」
「うん…そう。どうしてこうなったのか、わかる?」
「…考えたくはないが、呪いが進んだとか言うのじゃないだろうな」
「そ…あっ」
そうだよと言おうとしたのに、喉奥から恥ずかしい声が出てしまった。リアムが優しく僕の肌を撫でるせいだ。
抗議をしようと開けた口を塞がれ、入ってきた熱い舌に舌をこすり付けられ強く吸われて喋れない。
「んっ、んぅ…」
ちゃんと話そうと決心したのに、どうして邪魔をするの。
僕は涙を浮かべて紫の目を見つめ、硬い胸を強く叩いた。
ようやく唇が離れたが、まだ額と額はくっ付いている。
「痛いではないか」
「だって…リアムが話をさせてくれないんだもん!ちゃんと聞いてよっ…」
「悪かった…だから泣くな」
ポロリと頬に零れた涙を指で拭って、リアムが僕の髪を撫でた。
「おまえの口から、なにか良からぬ言葉が出てきそうで…聞きたくなかった」
「でも…聞いてくれないと、向き合ってくれないと、困る…」
「ん、そうだな。ごめんな。最後まで聞くよ」
僕は頷くと、リアムから少し身体を離した。そして赤い花を指で差す。
「これはね、リアムが言った通り、呪いが進んだ証拠なんだ。僕の予想にすぎないけど、まだ前にしか出ていないこの赤い痣が、背中にまで出たら…僕は死ぬ」
「…バカを言うな」
「呪いはね、本物だった。母上の部屋の隠された引き出しに、呪いが起きることになった原因と、王族のことが書かれた本を見つけたんだ。僕はね、代々受け継がれた呪いで死ぬ」
「ならば…」
リアムが僕を強く抱きしめる。顔が強く胸に押しつけられて息ができない。
「ならば…俺が呪いを解く」
頭の上から力強い声が響く。
僕は口の中で小さく「無理だよ」と呟いた。