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千原城市役所内、まちづくり振興課のオフィス。
課長席で北野が1枚の申請書をデスクの上に置いて頼んでいる。
北野「お願いしますよ、課長。ご当地戦隊の演出に必要な出費なんですから」
課長「いやあ、年度の最初に予備費からの出費というのは前例がないからねえ」
北野「予備費の枠はたっぷりあるじゃないですか」
課長「ううん……やはり、前例がないとだねえ」
北野はため息をつきながら申請書を持ってデスクを離れる。
廊下でドアの陰からその様子を覗いている玲奈、瑠美、智花、倫。
倫と北野が掌をタッチして、倫は申請書を受け取る。倫が課長の席へ向かい、玲奈、瑠美、智花が後ろに続く。
倫「ちょっと、課長さん。これぐらいの予算通しなさいよ」
課長「いや金額の問題ではなく、前例が無いという事でして」
倫「女のあたしたちが体張ってるのに、男を見せなさいよ」
課長「ううん、その男を見せるという事の前例が無くてですね」
倫と他の3人、ため息をついて課長のデスクを離れる。
そこへ遅れてやって来た沙羅が、その様子を見て、つかつかと倫の前に来る。
沙羅「ああ、もう、じれったい。それ貸しな」
沙羅が申請書を倫の手から引ったくり、一人で課長の席に向かう。歩きながらブラウスの前ボタンを上から3番目まで外す。
課長のデスクの真ん前まで来た沙羅が、前かがみの姿勢で上目遣いに課長に言う。課長の視線には沙羅の胸の谷間が丸見え。
沙羅「ねえ、課長さ~ん。これにハンコ押してくれな~い?」
申請書にポンとハンコが押される。
みんなの所へ戻って来た沙羅が、申請書を北野に放り投げるようにして渡す。
沙羅「ほら、ハンコもらってきてやったぞ」
北野「あ、ありがとうございます」
沙羅「何もたもたしてたんだよ。こんな事、女なら誰でもできるだろ?」
歩き去って行く沙羅の背中を見ながら、北野、玲奈、瑠美、智花、倫全員の心の声。
「いえ、少なくともこの中では、あなただけです」
場面転換。駅前商店街の中の特産品ショップの中。まだ改装中で、入り口の上に「Fortress」の看板を工務店の技術者二人が取付中。
北野とチバラキファイブのメンバー5人が中に入る。中では3人の大学生が天井に円筒形のランプを取り付けている。
北野「やあ、芸大のみなさん。ご苦労様です」
学生1「ちょうど配線が終わったとこです。よければ今からテストしませんか?」
倫「芸大生でプログラミングまでできるなんて、すごいね」
学生2「いえ、作品作るのにコンピューター使う事はよくありますよ。CGアートとか3Dアートって聞いた事ありません?」
玲奈「へえ、今の芸術ってハイテクなんですね」
学生3「北野さん、メール添付でアプリ送りましたから、スマホにダウンロードして下さい」
北野「あ、はい。ええと、これか」
北野のスマホの画面にアイコンが表示され「出動コマンド」という名前がついている。
北野「ボタンが二つしかないのか。ずいぶんシンプルだね」
学生3「その方が使いやすいでしょ? 出動の合図のボタンと、その解除ボタンだけです。北野さん、じゃあ、出動のボタンをポチッとやってみて下さい」
北野がボタンをタップする。店内にオルゴールの音色が流れ始める。
瑠美「この曲、ワルキューレの騎行だな」
天井に取り付けられたランプがパトカーのそれのように、赤い光を放ち、光が回転する。
玲奈「わあ! すごい! 本物の戦隊の基地みたい」
智花「ほんと! うちの子が見たら喜びそう」
沙羅「おい北野。この前課長ともめてたのは、これの費用だったわけ?」
北野「はい、あの時は助かりました。一応ご当地戦隊の正体は謎という設定にしてありますから」
倫「あたしたち5人は普段はここの店員。出番が来た時だけ、ご当地戦隊に早変わりして出動ってわけ。これを合図にしときゃ、店にお客さんがいても気づかれないからね」
瑠美「まあ、隠す必要があるほど客が入ればの話じゃねえの?」
北野「いや、そこをみなさんで繁盛させて下さいよ。そのためにわざわざ、女性ばかり店の運営スタッフに選んだんですから」
場面転換。
市役所の小会議室。北野とチバラキファイブの5人が机の片側に3人ずつ座っている。奥に大きなホワイトボード。
北野「では戦隊の名前を決めましょう。みなさん、何かアイディアはありますか?」
倫「やっぱり、市の名前は入れなきゃね。チバラキ何とかって名前になるだろうね」
北野が立ち上がってホワイトボードに「チバラキ」とペンで書く。
智花「チバラキンジャーとかかしら?」
瑠美「どっちかって言うと怪獣の名前みたいだな、それ」
沙羅「5人だからチバラキゴーなんてどう?」
北野がホワイトボードに「チバラキゴー」と書き、首をひねる。
北野「いまいちイメージが湧きませんね。もう2,3文字長い方が」
倫「じゃあ、ファイブだろね。英語の5」
北野がホワイトボードに「チバラキ5」と書く。
北野「語呂はこっちの方がいいですが、5でもファイブでも、ありきたりな感じしませんか?」
玲奈「あの、いいですか。スポーツの世界でよくやるゲン担ぎなんですけど、アルファベットのVで、ファイブと読むのはどうでしょう?」
北野がホワイトボードに「チバラキV」と書く。
北野「なるほど。ローマ数字の5なんですね」
玲奈「勝利を意味するビクトリーの頭文字でもあるんです」
倫「うん、まあ、悪くないんじゃない。あんまり凝った名前つけても、しょせんご当地戦隊だしね」
北野「では、戦隊の名前はこれでいきましょう。明日が特産品ショップFortress(フォートレス)も営業開始ですから、そっちの方もよろしく」
場面転換。
市役所のまちづくり振興課のオフィス。
北野の席に中年男性の職員が息を切らして駆けつける。
男性職員「北野君。困った事になった。力を貸してくれ」
北野「産業振興課の山田さん。どうしました?」
職員「かたりあいの郷(さと)に出演予定だった演歌歌手が、交通事故で来られなくなったんだ。本人の命に別状はないそうだが、念のため入院する事になったとかで」
北野「うわ、そりゃ大変だ。で、予定時間はどうなってました?」
職員「今日の3時からのステージだったんだ。あと2時間しかない。君のとこの、例のご当地戦隊に代わりを頼めないか?」
北野「任せて下さい! こういう時のためのご当地戦隊ですから。じゃあ、僕はすぐに向かいます。かたりあいの郷(さと)への連絡をお願いします」
北野はオフィスを出て地下の駐車場に走っていく。小型トラックの前でスマホを取り出し、出動のアプリのボタンをタップする。
運転席に乗り込み、車を出す北野。
北野「ようし! チバラキV(ファイブ)にさっそく出番が来たぞ」
ナレーション
「この記念すべき初出動がどうなったかは、既に読者がご存じの通りであった」