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「あれ!?なにこの可愛い食器2枚セット!
まさか…チェリーじゃない!?」
私の知らん間に彼女がいたんか!と両手に華やかな皿を持ちながら、🌸はわざわざ片方の口角だけを器用に上げた。
「ちげーよ、これは…」
🌸が好きそうな柄を偶然見つけたから。
喉まで出たそれを慌てて飲み込んだ。
もういない🌸のことを思って買ってしまったなんて伝えたら、🌸はきっと俺の事を気持ち悪く思うから。
慌てて飲み込んだ言葉に喉が詰まって吃る俺に怪しいと目を細める🌸は、そのまま目線を皿に向けて少し眉を下げていた。
「堅治が他の人に取られちゃうの嫌だな…」
「え…」
🌸は言葉が漏れ出た直後にハッとして、持っていた皿で口元を隠した。
その後段々と青ざめていって、冷や汗が額に伝うのが見える。
「ごめん!ごめん、こんな自分勝手な事…私もう死んでるのに堅治にこんな我儘言っちゃって、本当に最低すぎる…」
「え、いや大丈夫だって」
「私…堅治が私の事好きなこと知ってるのに、分かってたのに…自分勝手なこと言って、堅治にとってまるで呪いみたいな事伝えて、ごめん」
…え。
「すっ、え…知ってるって、え」
ちょっと待ってくれ。俺が🌸を好きな事を、🌸が知ってたって事?
じゃあ俺の今までの行動も涙の理由も全部知ってて🌸は慰めてくれて…た?
うわ、恥ず。最悪だ。
ダッサい俺!俺ダサすぎる!
「あぁー…ほんと、恥ずい」
立ってることすらままならず、その場にヘナヘナとしゃがみ込む。そのせいで、既に熱を帯びている顔はさらに熱く紅くなっていった。
🌸は目の前でしゃがみ込んだ俺を処理できずにあたふたと手を動かしている。
「……いつから、知ってた?」
「いつから…結構前から?
私が死んだ日さ、海に行く約束してたじゃん。あの時、あぁ告白されるんだなってウキウキしてた」
「ガチ?」
その問いに、ゆっくりと🌸の首が縦に動いた。
心臓がまるで地団駄を踏んだ様に体内でドコドコと鳴り響いて、俺の鼓膜を支配していく。
今でも🌸の事が好きな俺を、🌸はどう思っているのだろうか。
さっきの言葉は、もしかして🌸も俺の事が。
知りたい、確かめたい。
一瞬でいいから。
「🌸はさ、俺がまだお前のこと好きなの…気持ち悪いと思って、ますか」
「思ってない、ですよ」
「さっきの俺が取られたら嫌ってのは、期待してもいいやつ…ですか」
ぎこちなくなった問いにぎこちなく返す🌸の瞳には、十二分に熱を孕んでいる雫を溜待っていた。
「期待、してほしいやつ…です」
目に溜まっていた雫は重力に逆らえずに、頬の赤が混ざってそのまま床に広がった。
どうやら🌸の頬を伝う涙は止まることを知らないらしく、先程から床に落ち続けている雫はどんどん大きくなって水溜りを作っていた。
「お前さぁ、涙くらい自分で拭けよな」
「泣いてないっ…!」
「どう見ても泣いてますけど。滝の様に涙溢れてますけど」
「……幽霊は泣かないの」
そうやって強がる🌸は体の下の方で拳を作って意地を張っていたので、頬に張り付いて跡になる前に俺の指が代わりに涙を拭い取った。
🌸の頬を拭った親指は確かに少し湿っていて、その雫がとても愛おしく思えた。
…🌸が俺のために流した涙、ゲットだぜ。
この場にそぐわない昂りと誇らしげと独欲が、幸せだと絶叫する心に渦を巻いている。
それと同時に、今ここにはちゃんと🌸が生きているのだと実感して、安心して、抱き締めたくなって。
「抱き締めても、いいですか」
「さっきからなんでも聞かないでよ」
「ごめん。一応許可取ろうと思って」
「何それ。まぁ、抱き締めて欲しいですけど…」
紅くなった顔を伏せたままの🌸の腰を、ガラス細工を触る様に優しく寄せた。
壊れない様に、消えてしまわない様に、傷つくことのない様にと。
ゆっくりともう片方の手で🌸の髪を撫でると、背中に腕の感触が伝った。
お互いがお互いの背に手を回して、ゆっくりと確実に心地の良い愛を伝え合っているのだ。
「やっと夢叶った」
「幸せ?」
「もちろんでございます」
泣いたせいで少し鼻にかかった🌸の声が俺の胸の中で響いた。その声は俺の心臓の鼓動と共鳴して、大音量で加速度を増した。
そのせいで上手く出来ない呼吸が、今はとても心地よい。
「好きだ、ずっと前から🌸が好き。
…だから俺と付き合ってください」
あの時言いそびれたことを、六年越しに。
俺の精一杯の告白に🌸は目を見開いて素っ頓狂な声を漏らす。
「好きなのは、嬉しいけど…私も好きだし。でも、付き合うって…私もう死んでるんだよ?いつここから消えちゃうかわかんないんだよ?」
「うん、分かってる」
「それでも、いいの?」
「それでもいい、一日でも一時間でも一秒でもいい。俺は🌸と恋人になりたい」
じっと見つめている🌸の顔はゆっくりと形が崩れ始めていた。薄い桃色の唇はかすかに震えて、顎に皺を作っていく。
目頭に浮き出た雫を隠すように、俺の胸に顔をすっぽり埋めては額をぐりぐりとそこに押し付けた。
「ハハ、泣きすぎ。🌸はいつからそんなに泣き虫になったん?」
「…うるさい」
今朝言われた言葉をそっくりそのまま🌸に返す。それに🌸も俺が今朝返した言葉を用いた。
俺と同じく狙って発した言葉なのか、不意に出た言葉なのか分からなかった。
いつもなら、今の狙った?なんて揶揄うのだが、目の前で俺の胸にすっぽりと収まる🌸が可愛すぎたので、昇天しないようにと意識を保つのに精一杯だったのだ。
「…で、どうですかね。俺の彼女になってくれる?」
「なる」
🌸はまだ俺の胸の中に居た。
それで、蚊の鳴くような声でそう言った。
涙で湿ったTシャツの胸元が春を迎えて、心地の良い温もりに包まれる。
つまり、死ぬほど嬉しくて幸せ。
「なる」の二文字で、🌸が俺だけの女の子になったのだ。
俺は🌸の片頬を片手で包み込み、先程まで隠れていた🌸の顔を見詰める。
雑に擦ったのか、目元は痛々しく赤く染まっていて熱を帯びていた。
そこを優しく触ったせいで目を細める🌸がなんとも艶っぽくて、俺の目は無意識に唇を捉えていた。
「キスしていい?」
「…ん」
あと数センチで鼻先が触れ合う距離まで来てから、嫌だと返ってきてもそれに応える訳が無い質問をして
そして、キスをした。
「…好き」
「私も好き」
そのあと何回か触れ合うだけのキスを交わし、すっかり冷めた夕飯に気づいて、笑いながらもう一度温め直して、テレビでバライティを流しながら食べて。
一緒に風呂に入って、濃密な絡み合うキスをした。
何度もした。
まるで止まっていた六年を補う様に、何度も。