「ふーん。知らない間に面白いことをしているね」
今、俺は裁判にかけられている。
この裁判での判決いかんでは、旅が終わってしまう。
「聖奈。久しぶりに見たけど、益々綺麗になったな?」
女性はとりあえず誉めておけばいい。
これはリア充から授かった金言だ。
「ふふっ。夫婦のイチャイチャを見せびらかしちゃう?」
おっ。やはり誉めて正解だったか!!
ん?見せびらかすって誰に……
ゾクッ……
さ、寒気が……
俺は寒気の元を確認する為に、ゆっくりと後ろへ振り向く。
「セイさん」
目が笑っていない笑顔で、ミランがこちらを見つめていた。
くそっ!!ライルに騙された!!
「ミ、ミラン…暫く見ないうちに大人っぽくなったな」
よ、よし。上手く言えたぞ。
「一昨日あったばかりです」
そうだった…ヨーロッパへ迎えに行ったんだった……
「ミランちゃん。この辺で許してあげよう?何だか面白い話を持ってきてくれたみたいだから」
「…わかりました。セイさん。大人っぽくなったのは本当ですか?」
やめて……
ホントだけどそんな目で見ないで…俺の汚れた心が浄化されていくぅ……
みんなを集めてこれまでの話をした。
俺はトップだから案など出さなくても下々の者達がいくらでも出してくれるのだ!!
……うん。何も思いつかないだけです。
後は任せた!聖奈えもん!
「セイくんがこっちに持ってきたということは、自分だけだと難しいと思ったからだよね?」
「そうだ」
「セイくんが助けたいと思ったのは、どうせ『自分とは違い苦労していた日本人が頑張っていたのに、恵まれている自分が何もしないのは…』って悩んだからだよね?」
「…そうだ」
「そうだったのですね」
「一人で抱えちゃダメです!みんなでお菓子を囲んで話したら大体大丈夫なのですっ!」
「セイ。困ったらいつでも言ってくれよ」
くそ…そうだ!しか言えん……
これからはイエスマンではなくソーダーマンとして生きていこう!
そこまで思い詰めてもいないのに、なんだか心配させてしまったな。
ありがとう下々の方々!目からソーダが出ちゃいそうだよ!
「具体的な話は確認が足りないから置いておくとして、まずはその『山を楽に越える技術』を確認しなきゃね」
「それなら俺の出番だな」
ここで手を挙げてくれたのはライルだ。
ライルなら見た目の面で向こうでも目立たないだろう。
何よりも気配を殺して忍ぶのに一番適しているし。
「うん。お願いね。その次はミランちゃん」
「はい。何をしましょう」
「グリズリー帝国の内偵だね。私と一緒に向こうの都市部で情勢を調べるの」
ビックリした…ミラン一人でやらせるのかと心配したぞ……
聖奈さんが一緒なら月が出ていれば地球に逃げれるから安全度はかなり高いな。
まぁ…いざとなれば、銃乱射事件を起こせば何とでもなるだろうけど。
「私は!?もしやおやつ係ですっ!?」
エリー。そんな係はないぞ。
「エリーちゃんはライルくんの調査の後に動いてもらうから、それまでは待機だよ。恐らく一番大変だけど頑張ってね」
「セイさん!!」
「…なんだ?」
「一番大変なので、ご褒美のおやつを期待しているですっ!!」
うん。安上がりにも程があるが、本人がいいならそれでいいんだ……
決してブラック国家じゃないんだ。
「特大ケーキ(糖質50%off)を与えよう」
「ぃっやったぁぁあですっ!!」
ここは幼稚園かな?
各々することが決まったので、一時解散することに。動くのは明日からだ。
「あっ。それからネジだけど、この世界にも普通にあるよ」
えっ?そうなのか?皇帝達に適当なことを言ってしまったけどいいか。
問題はネジではなくて、転生者がいるかいないかでもないもんな。
第一に戦争を起こされないこと。
第二に戦争が起きても負けないこと。
うん。これを言い訳にして謝ろう……
「昨夜はよく眠れたか?」
軍議は日が暮れる時間まで掛かった。
その疲れを心配した皇帝が朝食時に俺を労う為に聞いてきた。
夜中転移で抜け出していたのはバレていないようだな。
俺のここでの身分は最早王族のそれである。
よって、俺の対応は皇族が行っているんだけど、皇帝も大変だね。
朝から呑んだくれの相手をしなきゃいけないなんて。
「ああ。問題ない」
部屋が広すぎる以外は寝心地もいいし、飯もうまいからな。
「昨日言っていたことは…」
「それも問題ない。この後仲間にあわせるから場所を用意してくれ」
皇帝は俺が見栄を張ったり過信していることを恐れているのだろう。
不敬ではあるが、言葉を遮り安心を与える為に強い言葉で応えた。
帝国の動きにより目の下に隈を作ってる人には、是非ゆっくりと休んでほしい。
かなり薄いだろうが、同じ日本の血を受け継ぐ者として。
「それは楽しみですわ!セイ様の武勇伝をお聞きしなければ!」
うん…それはやめて……
きっとロクでもない話をするから……
「まあっ!それでは、セーナ様はセイ様のお心を手料理で掴んだと…」
転移で連れてきた聖奈さん達を、まずは皇族に紹介したところだ。
聖奈さんは美女であるユーナ皇太子を認めるや否や、私がこの人の妻ですと釘を刺した。
ミラン…そんな目で見ないでくれ……
聖奈さんとは偽装結婚だと知っているだろ…?
決してモテているなどとは勘違いしていないが、モテ男の気持ちが少しわかった気がした。
「その話はまた別の時にしなさい。それでセーナ殿。本当に任せて良いのだな?」
「はい。お任せください。陛下を経由して報告をあげます」
俺は知らぬ間に連絡係に任命されたみたいだな!
いつも知らぬ間だから、最早動揺もドキドキもないぞっ!
「時間が多く残されているわけではない。頼む」
「セイ様。皆様。よろしくお願いします」
皇族二人が下げたことのない頭を下げて頼んできた。
みんなには苦労を掛けるけど、今更だから諦めてくれ。
その後、主要な魔族と顔合わせをして首都『エド』を旅立った。
「何だか随分と懐かしく感じます」
街を出てすぐにミランがそう告げてきた。
「そうだな…一年以上ぶりだからな」
「それでどうするんだ?」
エドを出て暫く歩いた俺達の周りには、穀倉地帯が広がっている。
周りに他の人の気配はない。
ミランの感想に応えた後、ライルが聞いてきた。
俺にわかるわけがなかろう!
「顔合わせは終わったから私とミランちゃんをバーランドに送って、その後ライルくんと二人で帝国を目指してね」
「確かに二人の方が移動は速いな」
「時間があれば私達も一緒に行きたかったけど、今はあまり国を空けられないからね」
すみません……
「一先ずロープウェイの様なモノが見つかったら呼びに来てね。
それからの話はその時に」
「わかった。ここなら人目が無いから送るよ」
旅に出て一時間ほどで四人旅を終えた。
束の間の懐かしい冒険だったな…特に何もなかったけど。
「よし。とりあえずこのまま南を目指そう。報告のあった場所までは二人でなら3日も掛からないと思う」
聖奈さんとミランを送って戻ってきた俺は、ライルと共にグリズリー帝国を目指すことに。
穀倉地帯を駆けること3時間。
辺りは森や林がチラホラと見えるが、草木も生えず大きな岩が転がっているところもあり、大規模での農業は難しい土地が広がっていた。
「村も少ないな。この国は効率を重視していると聞いていたけど、辺境はホントに辺境だな」
まるで日本の縮図を見ている様だ。
都会は他の国の首都と比べても都会だし、田舎は本当に何もない。
農業は適した土地のみで行なっている。
まだ見ぬ養蚕業を行なっている所も見てみたいな。
そこも固まって大量生産をしているようだし。
後は大豆を大量生産している所や茶畑が広がっている所も。
兎に角辺境の小さな村以外のところでは、全てここは〇〇を作る所というように分けられている。
逆にそこで自給自足以上が出来る場所にしか、他の村はないようだ。
「そんなに分けてもやっていけるんだな」
ライルの疑問は尤もだ。
俺達地球人にはあって当たり前のモノがこの世界には少ないからな。
「この国ならではだろうな。この国がそれでやっていける要は輸送業だと思う。
穀倉地帯ですれ違った様に、この国は馬車が多い。それを行えるだけの街道の整備もかなり行き届いているように見えるしな」
今走っている道も辺境の割に整備されていて広い。
恐らく国土交通省のような部署や輸送省のような部署もあるんだろう。
国は広くとも、キッチリ整備された道に管理された輸送業務。
それがあればこれだけ国内で場所をキッチリ分けていても問題なく運営できるということ。
人が移動するという事は、国営の大豆畑や養蚕業からあぶれた労働者が宿場町で働けるということでもある。
仕事が仕事を作る良い循環が、大した知識のない俺から見ても想像できた。
「ふーん。そんなもんか」
そっけない返事を返したライルだったが、その目は輝いて見える。
恐らく商会でやりたい事、取り入れたいモノを思いついたんだろう。
それにまだ見ぬ帝国の在り方も気になっているんじゃないかな?
何だかライルが成長している気がする……
どこか疎外感を感じた、久しぶりの二人旅だった。
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