テラーノベル
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(なんで!?)
彼女が私に向かってくるまでの僅かな間、私は目を見開いて驚愕する。
いくら魔石の影響を受けたとしても、レティが私の命を狙おうとするなんて。
それにここはアルフォンス様の血統魔術を使わなければ来られないのに、なぜ彼女がここにいるの?
おまけに今の帝都は皇帝と聖女の結婚式が行われているので、武器の持ち込みは禁止されている。
各国の騎士たちは武器を幾つ所持しているかをリスト化して提出し、厳重に管理されている。
レティは聖女だからいつも護衛騎士に守られていて、護身用の短剣を持つ習慣もない。
なのにどうして――。
様々な疑問が脳内をよぎり、私は目を見開いたまま棒立ちになっている。
表情を歪め、目を赤く光らせたレティが迫った瞬間――。
パンッ! と大きな破裂音がしたかと思うと、私の胸元にあったペンダントが眩い光を放って砕け散った。
そのペンダントは、十八歳になったお祝いにアルフォンス様が帝都の店で買ってくれた物だ。
ハッとしてレティを見ると、彼女が持っていた闇色の短剣がボロッと崩れ去ったところだ。
けれど彼女はすぐに次の短剣を作り出し、私に振りかざす。
「レティシア! やめろ!」
あわや短剣が私に刺さるというところで、アルフォンス様が私たちの間に割って入り、手刀でレティの手を打って武器を落とした。
彼はすぐに短剣を蹴り飛ばし、遠くへやる。
《邪魔をするな! 殺してやる!》
しかし美しい顔を憤怒に歪めたレティは低い男の声で吠え、体の周りに闇の球体を幾つも浮かばせた。
――これは絶対にレティじゃない。
確信した私は対応しようとしたけれど、その前にアルフォンス様が鋭く声を飛ばした。
「魔石への攻撃を緩めるな! レティシアは魔石に操られている。恐らく、君を最も動揺させる相手を選んだのだ」
アルフォンス様は腰から剣を抜き、刃に光の魔術を付与させた。
「レティシアの事は俺に任せてくれ! 君は魔石を!」
「分かりました!」
私は彼の言葉を信じ、冷静さを取り戻して一心不乱に魔石に連続パンチを浴びせる。
《やめろ! やめろぉおおぉおおっ!!》
レティは男の声で咆哮を上げ、やたらめったらに闇のエネルギー弾を撃ってくる。
アルフォンス様は障壁を張って私を守った上で、光属性の魔術を纏わせた剣で闇の攻撃を打ち払った。
そして光属性の魔術を使い、レティの体に取り憑いた闇の意識を祓おうとする。
《ぐ……、あぁあああぁああっ!!》
私はレティが彼の攻撃を受けて苦しむ声を聞きながら、歯を食いしばって魔石を破壊する事に集中した。
――壊れろ!
――アルフォンス様やカール様を苦しめて、私の大切なレティまでこんな目に遭わせる魔石なんて壊れちゃえ!
――こんな力、もう今の平和な時代には要らないの!
――お願いだからなくなって!
私は心の中で祈りながら、今まであったつらい事を思いだしていた。
子供の頃にお会いしたカール陛下は、今よりずっと穏やかで優しい方だった。
彼は立場上誰かを贔屓する事を避けていたけれど、私がレティと比べられ、嗤われていた時はさり気なく話題を変えてくださった。
みんなに好かれていたあの方が痩せて荒んだ雰囲気になり、心ない言葉を口にするのを見るのはとてもつらい。
子供時代の私にとって、カール陛下とアルフォンス様は理想の父子に見えた。
なのに今、アルフォンス様は父親に憎まれ、酷い言葉を向けられて心に深い傷を負っている。
彼の気持ちを思うと、自分の事のように悲しい。
レティだって魂の片割れと言える、大切な姉だ。
確かにずっと彼女と比べられてつらかったけれど、レティが私に意地悪をした訳ではない。
少女時代の彼女は、自分だけがチヤホヤされる事を申し訳なく思っていた。
だから最近のレティが性格を変えてしまったのは、聖女だからこそ魔石の影響を敏感に感じ取ってしまったからでは……と思っている。
私の周りにいる人たちは、元々みんな優しかった。
それを変えてしまったのは、この魔石だ。
――お前なんて壊れてしまえ!
気がつけば、私は両目からボロボロと涙を零してインビジブルハンドを繰り出し、「あぁあああぁああっ!」と叫んで最後のラッシュを叩き込んでいた。
《やめろぉっ! やめっ……! うわぁああああぁあぁ……っ!》
魔石は激しく殴り続けられてヒビを深くし、とうとうバガッと音を立てて幾つかの欠片となった。
――全部なくなれ!
私は大きな欠片をインビジブルハンドで掴むと、さらに殴り続け、魔石を小さな破片に変えていく。
見えない手を操作しつつも、私はレティを心配して彼女のほうを見る。
彼女は魔石とリンクしているように勢いを失い、フラフラしている。
けれどその目には憎々しげな光を宿し、私を睨んでくる。
《お前など死んでしまえ! この出来損ない! 聖女の劣化品め!》
操られたレティは、今度は男の声ではなく彼女自身の声で私を罵倒した。
ズキンと胸が痛み、私は一瞬攻撃の手を緩める。
傷付いた顔をしたのを見てレティは邪悪に嗤い、その手に闇でできた槍を作り出すと、私目がけて投擲してきた。
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