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「フェリ!」
アルフォンス様は私をグルリと囲むように守護障壁を張り、厳しい表情でレティに向き合った。
「操られているのは承知の上だが、これ以上フェリを傷つける奴は俺が許さない」
彼は怒気を露わに低い声で言うと、光の剣を構えてレティを切りつけた。
《やめて! アルフォンス様! 私です! レティシアです!》
レティが命乞いをする声を上げたけれど、彼は迷わなかった。
物理的な刃のない光のみでできた剣は、レティの肉体は傷つけず、〝中〟にある邪悪なものだけを攻撃する。
加えて、彼はレティの胸元で刀身を止め、そこで力を爆発させた。
カッと周囲がまばゆい光に包まれた瞬間、耳を覆いたくなるような悲鳴がした。
《っぎゃああああぁああぁっ!!》
人間のものと思えない、魔獣の吠え声のような絶叫が響き渡ったあと、意識を失ったレティが崩れ落ちる。
「おっと……」
すんでの所でアルフォンス様が彼女を支え、私のほうを見て「怪我はしていない」と頷いてみせた。
私も魔石の破壊も終え、激しい疲労を覚えてその場にゆっくり座り込む。
「大丈夫か? フェリ」
「ええ。……こんなに大きな物を破壊した事はなかったので、ちょっと疲れました。……でも、うまくいって良かったです」
私は肩を上下させて荒い呼吸を繰り返し、アルフォンス様に笑いかける。
疲れた表情を浮かべた彼も私の側に座り、散らばった魔石の破片を見た。
「……フェリの力を使えば、長年帝国を蝕んできた呪いはこんなにも簡単に破壊できたのか……」
呟いた時、アルフォンス様は「あ」と声を漏らして自分の右手を見る。
彼の中指に嵌まっていた指輪の石にヒビが入ったかと思うと、急激に劣化してボロボロと崩れていく。
アルフォンス様が少し手を動かすと、指輪の欠片はあっけなく手から落ちていった。
私たちはその様子を黙って見て、少ししてから顔を上げて視線を合わせる。
「……終わった……、のか?」
呟いた彼に、私もいまだ呆然として返事をする。
「……のかもしれませんね……?」
そのまま、私たちはしばらくの間、静かになった地下室に座り込んでいた。
レティは床の上に倒れたままで、周囲に散乱した魔石の欠片はもう妖しい光を放っていない。
「……まだ現実味がないが、……もう呪いに怯えなくていいのか……」
私はそう言ったアルフォンス様の手を握り、微笑みかけた。
「今どんなお気持ちですか? まだ負の感情に囚われていますか?」
尋ねると、彼は自分の胸に手を当てる。
アルフォンス様はそのまましばらく思考を巡らせていたけれど、何かに気づくように軽く瞠目し、私を見た。
「……もう、父の事をそれほど気にしていないかもしれない。確かに今まで向けられた言葉の悲しさはあるが、『魔石に操られていたのだから仕方がない』と思えている。……不思議だな。ずっと心の底にヘドロのような黒い感情がへばりついていたのに、綺麗に洗い流されたように感じられる」
「良かったです」
ホッと安心して笑うと、アルフォンス様は私を抱き締めてきた。
「……ありがとう、フェリ。君は俺の……、いや、帝国の恩人だ」
抱き締めるアルフォンス様の声は少し震えていて、私まで涙ぐんでしまう。
「……何の役にも立たないと思っていたこの魔術も、誰かを救えたんですね。大切な人たちを助けられて本当に良かった……!」
「フェリはずっと、城下町の人の役に立っていたじゃないか。聖属性の魔術ではないかもしれないが、君は民に身を捧げる立派な王女だ」
いつものように優しく励ましてくれる声が、ずっと虐げられていた私の心を打った。
「~~~~っ、嬉しい……っ、私、ずっと……っ」
――ずっと、レティのように誰かに求められる、役に立てる存在になりたかった。
――アルフォンス様やジョゼは私を認め、求めてくれていたけれど、強欲な私はその他大勢の人たちにも認めてほしかった。
この地下室での出来事が、外の人たちにどう伝わるかは分からない。
でも今は自分の力で何かを成し遂げられたという現実が、大きな自信となって私の背を押していた。
目の奥が熱くなって涙が流れ、思っている事を伝えたかったのに言葉にならなかった。
私は心の中で過去の自分に向き合い、〝彼女〟を抱き締めた。
「……感覚魔術を持っていて良かった……っ」
私は嗚咽しながら言い、うれし涙をポロポロと流す。
アルフォンス様はそんな私を抱き締め、頬にキスをし、優しく髪を撫でてくれた。
涙が止まった頃、彼はしみじみと言う。
「人には生まれつき使命があるように思える。聖王家の方々は聖なる力で皆を導くのがさだめ。その中で一人異彩を放つ君の能力は、使う場所、時が決まっていたんだ。君は心ない言葉を浴びせられてもは民の役に立とうとしたし、日々魔術の強化に努めていた。君が諦めず、前を向き続けたから、こうして魔石が破壊されて帝国が救われた」
「……そうだったらいいですね。……ううん、そう思いたい。私はアルフォンス様と結ばれ、みんなを救うためにこの能力持って生まれたのだと信じたいです」
「君は世界でたった一人の、特別な女性だ」
微笑んだアルフォンス様の言葉が、私の心に沁み入っていく。
涙を流してクシャリと笑った私に、彼は優しいキスをくれた。
その時――。
砕け散った魔石の欠片が浮かび上がったかと思うと、円を描くように動き始める。
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