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臣桜
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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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「瑠奈のこれからの人生に干渉しないで下さい」
「これから私は瑠奈と一緒になります」
「そして……」
「瑠奈の離婚成立までは、このことを一切口外しないこと」
「それが条件です」
「私は瑠奈の勤める会社の社長です」
「後は署名頂ければ、瑠奈の離婚後に即入金します」
「お母さんが約束に応じてくれるのであれば、今の約束は責任持って守ります」
母も
私も
リュカの言葉に聞き入ってしまい
口を開けたまま
茫然としていた
突然娘が連れて来た
初対面の
異国然とした風貌の男
母はきっと
何が何やら理解が追い付いていないだろう
そして
そのあまりに突飛な話の展開に
確認したい事が山ほどあるだろう
確認したい事が山ほどあり過ぎて
どこから手を付ければ良いかも分からず
押し黙り
硬直し
時が止まってしまっている
私にはそんな母が理解できた
私も同じだから
話半ばで止まったまま
沈黙のまま場が固まる
リュカは
おもむろに鞄を漁ると
もう一本のペンと用紙を取り出した
そして
その用紙に向かい
ペンを走らせる
私と母は
それを黙って見つめていた
沈黙の中で
時が止まったまま
ペン先が紙を擦る音だけが支配する
リュカは
流暢な日本語で紙面に速記する
一枚は
リュカが母に課した支払いが実行されるまでの条件
もう一枚は
リュカが母に約束した支払いの内容
その二枚の紙面を書き終えると
日付を記し
自身の署名を行い
自身の名刺を添える
それを上下反転させると
母の目前へと卓上を滑らせた
母は
依然として押し黙ったまま
その紙面を見つめていた
「心配でしょうから一筆書かせて頂きました」
「お母さんもそちらと離婚届に署名下さい」
「それでこの話は成立です」
「お互い責任を持って約束を全うしましょう」
紙面を凝視していた母が顔を上げ
今度はリュカの顔を凝視する
しばらくそのまま固まっていた母だったが
やがて
意を決したのか
紙面に向かいペンを走らせる
結局母は
離婚届にも署名した
「ありがとう御座います!お手を煩わせました」
「さて、堅苦しい話もこの辺にして……」
「時間も時間ですしお昼にしましょうか?」
***
私と母が未だ硬直する最中
一人何事もなかったかのように立ち上がるリュカ
平然と
飄々と
買って来たお弁当を取り出し
各人の前へとセッティングする
挙句の果てにはお湯まで沸かし
まるで住人然としてお茶を淹れだす始末
そして
動けずに席に座ったままの
私と母をもてなした
来た当初は多弁だった母
母は引きつった表情のまま
まるで何か考え事をするように
黙ってお弁当を食べていた
「これ……私の好物なのよ」
「よく分かったわね」
母は
あてがわれた釜めし弁当をしみじみと見つめ
そう言葉を漏らした
「それ瑠奈が選んだんですよ」
「お母さんのこと一番理解してのは彼女ですから」
母は
それ以降は声を荒げることもなく
リュカの話をじっと聞いていた
「これまでだって誰よりも助けてくれたんじゃないですか?」
「してくれたことをよく思い出して振り返ってみて下さい」
「部外者が生意気なこと言って申し訳ありませんが……」
「願わくば、同じだけの愛情を娘にも注いであげて下さい」
***
昼食を食べ終え
帰りの挨拶を済ませると
私たちは実家を後にした
母は
昼食以降は人が変わり
借りて来た猫の様にしんみりとしていた
そして
最後は丁重に私たちを見送ってくれた
私は
驚き過ぎて
何を話したら良いのか分からず
言葉を選び過ぎるあまりに言葉にならず
何の役にも立たなかった
結局リュカに任せきりで
リュカの独壇場のまま幕を閉じた
「まだ帰るには少し早い?」
「……う、うん」
「じゃあこの辺り少し散策しようか」
「ここで育ったんだろ?案内してよ」
あれだけの大役を終えても尚
リュカはリュカのままだった
まるで何事も無かったかのように
相も変わらずいつも通り
平然としている
「あの……本当にありがとう」
「私全然会話に入れなくて……本当にごめんなさい」
「良いって、結果上手くいって良かったよな」
「でも……あんな大金」
「私工面できないし、本当に大丈夫かなって」
「俺、物欲とか無いしお金全然使わないんだよね」
「使うべき時に使い、結果も伴った。良かったじゃん」
「お金なんてそんなもんだよ、必要ならまた稼げばいい」
「それに……どうであれ母親は母親、唯一の肉親だろ?」
「瑠奈が心配で気に掛けているのも感じてたし」
リュカは
私の母への愛憎をも適切に汲んでくれた
その人としての壮大さに
その懐のあまりの深さに
どれだけお礼を述べても飽き足らない
私は
心の中で
ただただ
リュカへの感謝と
リュカへの愛を伝えた
それが
リュカに伝わると信じて
コメント
1件
うわあああリュカかっこよすぎる😭💕✨ 母への愛憎が渦巻く中、リュカが全部背負って動いてくれたの、マジでヒーローーってなった…! 「お金なんてそんなもんだよ」って言い切るところ、男前すぎて心臓持ってかれそうだったよ… 瑠奈の気持ち、めっちゃ分かる。言葉にならなくて当然だよ、あの展開は誰だって呆けるって! 次も絶対読むからね、ゆめかは推すよこの作品🔥💖