テラーノベル
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「お、ラッキー。人いねーじゃん」
斎藤が笑う。
19時30分。俺たちは電車に乗り込んだ。
嘉明がスマホを回し始めた。
「こんにちは!それってホント?、のモリーです」
明るい声で画面に話しかける。
「サイトーです!」
斎藤が隣で笑う。
「今日はなんと!外に飛び出してみました!」
斎藤が言うと、嘉明がスマホを電車内に向ける。
誰もいない電車内。
好都合。
人がいると映り込んだとかなんとかうるせぇから。
にこにこ笑って画面に話しかける。
「今回はここ、かの有名な”女が現れたら呪われる”と噂の電車に来ました!現れるかな〜?」
ー現れるわけない。所詮は噂。幽霊なんているはずがない。
だけど、オカルト系は人気がある。
赤いベルベットを映し出して、座る。
「出てくれ〜!」
斎藤が祈る真似事をしながら笑う。
こいつも、幽霊なんて信じていない。
「スーツ姿の女を見たら呪われる。だったよね?」
斎藤に顔を向けると、斎藤がカメラに向かって大きく頷く。
「そう!なんと!サイトー調査によるとすでに5人も犠牲になっているとか?!」
「おぉ〜。結構なお手前で!」
二人で笑う。
ガタガタと揺れる、冷房の効きすぎた車内。
「呪われたらどうなるの?」
俺はわざと首を傾げてみせる。
「呪われたら、その場で即死!だそうです!!」
斎藤が両手を頬に当て、口をオーの字に開ける。
「きゃ〜〜」
「その場で即死?!なら、ここでは人が死んでるの?」
またわざと首を傾げる。
「死んでるとはされてないぞ☆あくまで、体調不良で病院で死亡とのこと!」
「へぇ〜。その幽霊って、どんな女の子かな?」
「個人的にはセクシー系を所望!」
「何言ってるんだ!サイトー氏!かわいい系に決まってるだろ!」
二人でバカ笑い。
そうしていると、電車が到着のアナウンスを告げる。
「残念無念。くっ…」
斎藤が眉間にしわを寄せ、顔を斜めに伏せる。
でも、その口は笑っている。
「幽霊さん、登場してくれませんでした〜。残念!」
斎藤と二人で声をそろえる。
「「ではまた〜!!」」
三人で電車を降りた。
「嘉明、カメラに何か変動あった?」
斎藤の質問に嘉明は首を横に振る。
「そっか…。あとでジャミングでもちょっと入れるか〜」
斎藤が階段を上って行った。
嘉明がそれに続く。
1段目に足をかけ、冷たい銀色の手すりを掴み、後ろを振り返った。
電車が発車した。
女を乗せた電車がーー。
『それってホント?』
モリー、サイトー、よっし〜の三人組の配信者。
有名ではないけど、いつも楽しみにしてる。
夕方、配信の通知が来た。
ー今回はオカルト回なんだ!
仕事が終わり、帰宅した。
コートを脱ぎながら、片手でスマホを操作する。
スマホを見ながらは効率悪いと知ってる。
でも、やめられない。
ルームウェアにしてるカーディガンを羽織って、ラグマットの上に座る。
ラグのふわふわした毛が気持ちいい。
スマホから音声が流れ出す。
『こんにちは!それってホント?、のモリーです』
『サイトーです!』
ーサイトーさん!!
心臓が跳ねる。
サイトーさんって、明るくて面白くて、おまけに雑誌に載るほどのイケメン。
画面越しの再会に口角が上がる。
電車内が映される。
ーもっと怖いかと思ったけど、きれいなところだな。
『呪われたらその場で即死!』
ーえ?サイトーさん、大丈夫?
画面の向こうでサイトーさんが笑っている。
その後ろ。
女の人が映っていた。
「え?」
思わず声が出た。
ースーツの人だっけ?
そんなのたくさんいるに決まってるのに。
サイトーさんの後ろの女の人と目が合った気がした
。
女の人が手を振った。
「ひっ…」
自分の小さな悲鳴に、体が震えた。
目が揺れるのがわかった。
寒気がしたような気がして、部屋を見回す。
何もない。いつもの部屋。
引きつった口元を左手で隠す。
目だけが忙しなく部屋を確認し続けている。
目をぎゅっと強く閉じる。
ー何もない。何もない。何もない。
手を叩く。
ーパンッ!
乾いた音が部屋に響き渡る。
「あははは。あたし、ビビりすぎ!」
笑い声で、恐怖を押し隠して、画面に視線を戻す。
サイトーさんが冗談を言って笑っていた。
鼻水が垂れる。
いいところなのに、と思いながら机の上のティッシュに手を伸ばす。
1枚とって、そのやわらかい薄紙を鼻に当てる。
鼻の不快を拭き取った。
ティッシュを捨てようと、左手を見た。
ぽたり。
ぽたり。
「え?」
机の上に血が、一滴。
また、…一滴。
クリーム色の机の上に、真っ赤な花が咲いていく。
視界がぐらりと揺れた。
右手の中からスマホが滑り落ちる。
「あ…ぁ…。」
鈍い音がして、机に頭がぶつかる 。
ぐらり。
再び大きく視界が揺れた。
視界の端が黒くなっていく。
黒はだんだん広がって。
スマホが見えた。
ーサイトーさん…。
視界がなくなり、意 識はそこで途切れた。
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