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「あ、あの……」
すぐ近くまで歩いてきた真衣香が口を開きかけたが、それよりも前に川口が走り寄り大袈裟に頭を下げた。
……本気でビビってる半分、高柳へのアピール半分。といったところだと思うけれど。
「立花さんごめん! 俺焦ってて、あんたに酷いこと言った。本当にごめん!」
「え……、え!? そ、そそ、そんな、えっと」
川口の態度がこの短時間であまりにも変化した為か、声を裏返しながら驚く。自分の後ろに誰かいるのではないかとキョロキョロ確認までしているから。
坪井は自然と、口元を綻ばせた。彼女の行動ひとつひとつが、どうにも愛しすぎる。
「立花、お前に謝ってるんだよ、川口さん」
焦って驚いて、慌てふためく姿も可愛いけれど。いつまでも落ち着かないのはかわいそうだ。なるべく安心させたくて、できる限りの優しい声でそう伝えると、隣から痛いほどの視線を感じた。
見れば、笹尾が目を見開き、口をパクパクと何やら面白い顔をしながら「声、声、さっきと別人……」と呟いている。
お前と話してた時と一緒なわけあるかよ、と、肩をすくめていると。
「あ……、坪井くん」
今見つけたと、そんな反応を見せられる。
「えー、酷いな。俺ずっといたのに」
若干ショックだったが、まさかそんな態度取るわけにはいかないと。努めて軽く返事を返した。
「ご、ごめんなさい」と声が萎んでいく。
「坪井に謝る必要は全くありませんよ。逆に俺からも謝らせて下さい。余計な心労を掛けてしまって申し訳なかったね、立花さん」
ここぞとばかりに高柳が真衣香の肩に触れ、キャラ違いますよと言いたくなる優しい声を掛けるものだから、もちろんイライラとそれを眺めていた。
意地でも、顔には、出さないけれど。
「た、高柳部長まで……」
恐縮だといった様子で高柳や川口を見上げてからふるふると、真衣香は首を横に振った。
そうしてホッとしたように、微笑む。
そんな真衣香を見て、坪井は嫉妬や落胆の感情を一旦押し込め、思った。
今、笑えること。それも、心底安心したように、潜んでいた悪意など探ろうともせずに。
……素直に凄いと思う。自分ならばと置き換えたなら、小野原の時と同様、まさか出来そうにはなかった。
こうやってどこまでも他人へ優しい人間に、何度も声を荒げさせ、泣かせた自分を改めて心から軽蔑する。坪井は何度感じても足りない罪悪感で、苦しいほどに胸を締め付けられていた。
そんな時だ、腕にポンっと誰かの手が軽く触れた。
「坪井くん、坪井くん」
相手は小野原だ。何やらコソコソと話しかけてくる。
「どうしました?」
「部長が川口さんとは話してくれてたっぽいじゃん。坪井くんも帰ったら? 立花さんと一緒に。お互いその方が嬉しいでしょ?」
「……えー、いや、それはちょっと」
嬉しい発言だったが、それはきっと”坪井だけ”が嬉しいものだ。
「なんでよっ」と怪訝そうに小野原が、やはりコソコソと返してくる。
坪井は眉を下げて笑みを作った。
「いや、疲れてる時は嫌いな奴とは一緒にいたくないでしょ」
「え? 嫌いって、あの訳のわからない噂の話? 待って待って、2人つきあってるんだよね?」
「……あー、いや、違いますよ。今は」
「はー?」と、軽く睨みを聞かせながら小野原が更に問い詰めてくる。
「ちょっと、あの子に嫌われるとかよっぽどよ。 何したのか知らないけど、あの時は確実に付き合ってたでしょ? じゃあ何? 今はほんとに八木さんと付き合ってるっての? 立花さん」
「……みたいな、感じですね、多分」