(てか、言っててかなり虚しいんだけど)
「歯切れ悪いなぁ」と小さく吐き捨てた小野原。
歯切れが悪いのではなく、言い切りたくない男心をわかってほしい。とは言わないけれど。
「はあー」と思わずこぼれた溜め息に小野原は気が付かないまま。
坪井に背を向けて、高柳と川口に囲まれて話す真衣香に声をかけ、手招いた。
それから、再び坪井を見る。
「じゃ、よくわからないけど。そーゆうことなら先に帰るね、部長も、もう立花さん帰って大丈夫ですよね?」
「もちろん、立花さん、いつも色々ありがとう」
「立花、遅くまでごめんな」
高柳の言葉には「いえ。とんでもないです」と優しく返し、坪井の言葉には無言で小さく頷いた。
そして当たり前だが、やっぱり目をそらされた。
(いや、まあまあまあ! まあね、これくらい、2階でのやり取りがラッキーだっただけで、うん、仕方ないって! ……仕方ないけどさあ)
さっきまでが天国だとしたら、やはり突き落とされてしまった感覚で項垂れそうになる……のを、得意の笑顔で誤魔化し続けた。
落ち込む権利など、微塵もないのだから。
そんな坪井の横を、小野原たちと共に通り過ぎようとした真衣香。自然とその姿を目で追っていると、まさか、視線が重なった。
チラリと坪井の方を、真衣香が見上げたからだ。
そして、小さな声で「坪井くんも早く帰ってね、ありがとう」と、遅れながらも、さっきの『立花、遅くまでごめんな』の、返事が返ってきて。
ああ、もうこれで完徹くらい余裕かも。と、パワーみなぎるほどには嬉しくなってしまう。
そんな自分が情けなくも、不思議と嫌いではない。そう思いながら真衣香たちの背中を見送っていると。ぐるん!と勢いよく……というよりも。勢いをつけて、と表現した方が正しそうだ。
そんな様子で、突如振り返った真衣香が口を開いた。
「あ、あの! 笹尾さんは? まだ、帰りませんか?」
「え、笹尾さん?」
そういえば、真衣香に謝れと。笹尾に凄むまもなく帰る流れになってしまっていた。
しかし……と、首を傾げながら坪井は腕を組んだ。
(言うか? 笹尾さんも私に謝ってとか? 立花が? いやー)
言うわけないだろ、と結論付けて。では、続く言葉は何なのかと耳を傾けた。
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