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「……朱雀様、燕花にございます。緊急の報告が……ッ!」
部屋の外から響いた燕花の鋭い声。その瞬間、煌の耳元のすぐ傍で、朱雀が「チッ」と低く露骨な舌打ちを漏らした。
「……興を削ぐ奴め」
朱雀が忌々しげに、そして酷く名残惜しそうに呟き、ゆっくりと煌の体から離れていく。
重なっていた体温が奪われ、唇が離れた瞬間、冷たい空気が入り込んだ。
「……っふ、……はぁ……」
急激な温度差に肌が粟立ち、ようやく解放された安堵が胸に広がる。……はずだった。なのに、先ほどまで自分を支配していた朱雀の圧倒的な熱がふっと消えたことに、心臓の奥がキュンと窄まるような、言いようのない名残惜しさを覚えてしまった。
(……待て待て待て、ありえねぇ! 相手は自分を襲おうとした変態だぞ!?)
それなのに、名残惜しいと思うなんてどうかしてる。
男に、それもこんな傲慢な神様に翻弄されて、あろうことか「もっと触れていたい」と感じるなんて。
きっと何かの間違いだ。そうに違いない。……そうじゃないと困る。
煌は熱くなった頬を隠すように、こびりついた熱量を振り払うべくブンブンと激しく首を横に振った。
「何を面白い顔をしておる。残念だが、続きはまた今度……だな」
朱雀は乱れた前髪を無造作にかき上げると、勝ち誇ったような笑みを浮かべて立ち上がった。
そのまま出口へ向かうかと思いきや、朱雀はふと思い出したように煌の傍らへ屈み込む。そして、拘束具に繋がれたままの煌の細い手首に、熱を帯びた指先で軽く触れた。
パチン、と乾いた音が響く。
次の瞬間、煌の両手首を執拗に締め付けていた冷たい金具が、魔法のように音もなく外れ、床に転がった。あまりに唐突な解放に、煌の腕はやり場を失って力なく膝の上へと落ちる。
「……燕花に見られては面倒だからな」
意味深な流し目がなんとも腹立たしい。
まるで「お前のこんなに乱れた姿を見せていいのは、俺だけだ」とでも言いたげな独占欲が透けて見えて、煌の頬はさらに熱を帯びた。
朱雀は悠然とした足取りで扉を開け、燕花を室内へと迎え入れる。
開け放たれた扉から廊下の冷たい風が流れ込み、室内に充満していた濃密な気配を容赦なく浚っていった。熱を帯びていた肌が急激に冷え、先ほどまでの出来事がまるで白昼夢だったかのような錯覚に陥る。
それでも、唇に残る柔らかな感触と、指先でなぞられた手首の痺れるような余韻だけは、しつこいほど鮮明に焼き付いて離れない。
今の自分は、一体どんな顔をしているんだろう。
燕花に、この潤んだ瞳や上気した顔を見られるわけにはいかない。煌は自由になったばかりの震える手で顔を覆い、ただじっと床の一点を見つめて俯いているだけで精いっぱいだった。